サステナブル投資
サステナブル投資の見通し
ネットゼロ(温暖化ガス排出実質ゼロ)への移行は複雑な課題であり、エネルギーの需要と供給の双方における変革が必要である。
2021.06.06
- 現在、世界のエネルギー消費全体に占める化石燃料の割合は80%を超えている。ネットゼロ(温暖化ガス排出実質ゼロ)への移行は複雑な課題であり、エネルギーの需要と供給の双方における変革が必要である。
- 最近、サステナブル食品企業が新規上場を果たしたが、これは植物由来の代替食品やデジタル市場に対する需要の高まりが背景にある。
- サイバー攻撃の脅威が高まっているが、企業の対策は不十分である。安全・セキュリティ管理を手掛ける企業全般の商機は広がるものと予想する。さらに、サイバー攻撃に加え、大気・水環境の悪化や土壌汚染、またグローバル食料サプライチェーンに対するリスクも高まっており、こうした脅威に対するソリューションの需要も増大している。
ネットゼロ:困難を伴うが、実現可能な課題
国際エネルギー機関(IEA)は今年5月、2050年までに温室効果ガス排出実質ゼロを実現するための報告書「Net Zero 2050 Roadmap」を公表した。IEAは報告書の中で、カーボンゼロは困難を伴うが実現可能であると述べており、2030年までの中期目標および2050年までの長期目標達成に向けて具体的なマイルストーンを設定している。主な要点は以下の通りである。
- 新規の化石燃料供給プロジェクトへの資金提供を即時停止。
- 今後10年間で再生可能エネルギーによる追加発電量を4倍に拡大。
- エネルギー効率を過去20年間の平均値の3倍に引き上げる。
- 近い将来すべての地域でカーボン・プライシング(CO2排出1トン当たりに価格をつけて、費用負担を求める仕組み)を導入。2030年までに平均価格を1トン当たり130米ドル、2050年までに250米ドルに引き上げる(注:EU域内排出量取引制度(EU-ETS)の炭素価格は1トン当たり50ユーロ(約61米ドル)に達したばかり)。
- 水素、バイオ燃料、二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCUS)といった長期的技術への投資。水素利用の成長は5倍、バイオ燃料は同2倍と想定。また、CCUSは長期累積CO2削減量の5分の1以上を担う必要がある。
今回のロードマップで最も重要なことは、既存の技術や行動変容により、2030年の中期目標が達成可能と報告されたことだろう。これは明るい見通しだが、カーボンゼロに向けて大胆な提言も含まれている。見方を変えれば、今回の報告書により、2050年までのネットゼロを目指す各国の政策の焦点がより明確になり、特に11月に開催されるCOP26(気候変動枠組み条約第26回締約国会議)の交渉に向けて有益な情報が提供されたと考える。実際のところ、現状の政策では、2050年までのネットゼロ目標の達成には程遠いと考える。
このロードマップへの各国の反応は、目下のところまちまちである。日本とオーストラリアは、エネルギー保障が優先事項であるとして、化石燃料への資金提供を停止するという直接的な政策提案を棄却した。一方、インドネシアは有数の石炭資源国だが、この目標の達成にコミットする方針を表明しただけでなく、再生可能エネルギーの推進や、炭素税および炭素排出取引制度の導入を優先事項として取り組む意欲を明確に示した。目標に向けた具体的な行程はまだ不透明であるが、エネルギー需要が高い新興国からのこうした方針表明は注目に値する。