House View Weekly

市場はFRBの緩和継続を見込む

先週の米国市場は、インフレ率の上昇にもかかわらず、株価は上昇し債券利回りは低下した。このような市場の反応の背景には、主に3つの要因があると考える。

今週の要点

インフレ懸念は株価上昇の妨げとはならず

米国の消費者物価指数(CPI)は、4月の前年同月比4.2%増から5月はコンセンサス予想の4.7%を上回る5.0%に上昇し、この10年余りで最も高い伸び率となった。しかし、この数字を受けて金融政策が時期尚早に引き締めに転じたり、株価の上昇に歯止めがかかるとはみていない。コロナ禍で前年の数字が極端に低かったことによるベース効果やエネルギー価格の上昇の影響など、インフレ率を押し上げたいくつかの要因は今後数カ月で解消される可能性が高い。米連邦準備理事会(FRB)高官は、インフレ率の一時的な上昇には左右されないと繰り返し述べている。5月のCPI発表後にS&P500種株価指数が史上最高値を更新したが、これは投資家がこのメッセージを受け入れたことの表れといえる。また、FRBは今週開かれる連邦公開市場委員会(FOMC)でもそのメッセージを強調すると思われる。欧州中央銀行(ECB)は、10日の理事会で2021年のGDP成長率見通しを前年比4.6%増へと前回予測から0.6ポイント引き上げたが、その一方で「かなり速い」ペースでの債券購入を維持すると述べている。足元のインフレ統計については、通常よりも信頼性が劣ることを念頭に置くことが必要だ。前年同月比の基準となる昨年5月はパンデミックの初期にあり、インフレ率の測定が特に困難だったためだ。

要点:我々はFRBと同じく、インフレ率の上昇は一時的なものに過ぎないとの見方をしており、株価についてはさらなる上昇余地があるとみている。エネルギーや金融など、シクリカル(景気循環)およびバリュー(割安)株式がアウトパフォームすると考えている。金融緩和が続く中、利回り追求は困難な状況が続くだろう。

GDP 成長率のピークは懸念要因とはならず

ここ数カ月、米国株式がレンジ取引から抜け出せていないが、その理由は米国のGDP成長率がピークに近付いているとの懸念にあるかもしれない。市場のコンセンサスでは、米国の経済成長率は新型コロナウイルスの感染拡大を受けた様々な制限が解除されるにつれ4‐6月期の中盤にピークを迎え、2023年までには正常な水準に戻るとの見方がされている。しかし、経済成長率のピークを基に投資判断を下すことには慎重になるべきだ。我々は、株価の上昇は今後も続くとみている。5月の非農業部門の新規就業者数は、4月を上回ったとはいえ市場の予想にはなお届かず、就業者数はコロナ前の水準を依然として760万人下回っている。我々は、学校が全面的に再開し、労働者が市場に戻って労働力不足が緩和されるまでは、雇用の伸びはピークには達しないと考えている。インフレ懸念はまもなく後退し始めるものと思われ、財政刺激策は引き続き強力な追い風になる。さらに、経済成長とワクチンの接種率は、米国ではピークを打った可能性があるが、日本や一部の新興国などでは加速している最中だ。

要点:ここ数カ月、米国の経済成長がピークを迎えるとの懸念から市場の勢いはやや弱まったものの、それを相殺する追い風にも着目すべきと考える。一段の上昇に備え、リフレーションと経済再開の恩恵を受ける企業に注目し、ボラティリティ(市場の変動率)が高い局面を捉えて投資、またポートフォリオを保護する方法を検討することを勧める。

アジアではワクチン接種の加速が経済再開関連銘柄を後押し

今年に入り日本株は世界市場に出遅れる展開となった。ワクチン接種の遅れによる経済の正常化の遅れがその一因である。しかし、日本をはじめアジア全域でワクチン接種が加速し始めている。先週発表されたデータによると、日本では最低1回ワクチンを接種した人の割合が人口の12%を超えた。3週間前はわずか4%だった。我々は、日本の接種率は7~8月には30~40%に達すると推定している。中国は8億回以上の接種を実施しており、1日に人口の1%超に接種を行っている。今月上旬、中国は3~17才の子供に対して国内医薬品メーカー製のワクチンを緊急使用することを承認した。ワクチン接種が進むに伴い、今後数カ月でアジア諸国の経済の再開も進むだろう。アジアでも特にシクリカル株とバリュー株の追い風となる見込みだ。

要点:日本の株式市場はシクリカル銘柄が主体であり、また世界的な景気回復と国内でのワクチン接種の進捗の恩恵により、追い上げが続いている。円安も輸出企業の追い風となるだろう。さらに、日本を除くアジア市場においては、リフレーションと経済再開に備えたポジション構築を推奨する。資本財、建設資材、消費者サービス、運輸、銀行、金属・鉱業などのセクターが恩恵を受けるだろう。

深読み

市場はFRBの緩和継続を見込む

Mark Haefele
チーフ・インベストメント・オフィサー

先週は、米国のインフレがさらに加速したにもかかわらず、S&P500種株価指数は史上最高値を更新し、米国10年国債利回りは低下した。10日発表の米国の5月消費者物価指数(CPI)は前年同月比5.0%上昇し、2008年以来の大幅な伸びを記録した。食品とエネルギーを除くコアCPIは3.8%上昇し、1992年以来の高い伸びとなった。

だが、インフレ率の上昇にもかかわらず、株価は上昇し債券利回りは低下した。S&P500種は10日に0.5%、翌11日も0.2%上昇して史上最高値を更新した。米国10年国債の名目利回りは10日に6ベーシスポイント(bp)低下したのち、11日にやや戻した。このような市場の反応の背景には、次のような要因があると考える。

  • 米連邦準備理事会(FRB)は物価上昇は一部の品目にとどまり「一時的」と認識しており、経済指標はその見解を裏付けている。コアCPI指数は、中古車や航空運賃など指数に対する構成比が14%にとどまる項目が5月の上昇分のほぼ3分の2を占めた。また、エネルギー価格など昨年の軟調な物価が影響している「べース効果」は今後薄れる見通しである。ブレント原油が我々の予想値1バレル=75米ドルまで上昇したとしても、原油価格が米国の消費者物価に直接与える影響は年末までにほぼ半減するとみられる。経済の再開に伴いサービス需要が回復すれば、家庭用家具類、自動車価格、娯楽用品などロックダウンの恩恵を受けたセクターの価格上昇圧力の緩和につながるだろう。
  • 市場はFRBの見方を支持している模様。米国の4月のCPIが市場予想を大きく上回る4.2%の上昇と発表されると、米金融市場ではFRBの早期の金融緩和縮小が意識され、発表当日の米10年国債の利回りは前日より5bp上昇した。その後、FRBは物価上昇の加速は一時的との認識を改めて強調した。先週10日に発表された5月のCPIは前月から一段と加速したが、10年国債利回りは低下した。FRBの意図を探ろうと、市場の関心は今週開かれる米連邦公開市場委員会(FOMC)会合へと移っている。
  • FRBの政策転換は労働市場が鍵を握っている。FRBのパウエル議長は、政策転換には完全雇用に向けた大きな前進が前提になると明言している。3月の非農業部門雇用者数の増加が当初91.6万人と予想されると、パウエル議長は「目標に向けた顕著な進展がみられるまでには、このような力強い雇用が数カ月程度続く必要がある」と述べている。離職率や求人労働異動調査(JOLTS)など一部の指標は労働市場の回復を示しているが、4月と5月の非農業部門雇用者数はFRBが目指す100万人増の大台を大幅に下回っている。失業保険給付の上乗せが終了し、学校が秋に再開し、ワクチン接種の普及で高齢労働者の就業復帰意欲が高まれば、非農業部門雇用者数の増加は加速すると予想するが、それが実現するのは数カ月先になるだろう。

我々はFRBと同様に、インフレ上昇は一時的とみている。経済活動が全面的に再開し雇用者の増加が加速するにつれ、米国10年国債利回りは再び上昇に転じ、年末には2%に達すると予想している。一方、株価には一段の上昇余地があり、エネルギーや金融など、景気敏感セクターがアウトパフォームすると考えている。


本稿は、UBS AGが作成したUBS House View-Weekly Global(2021年6月14日付)を翻訳・編集した日本語版として2021年6月16日付でリリースしたものです。本稿の末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本稿に記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基 づいています。これは本稿中の全ての図表にも適用されます。

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