Monthly Letter 6月号
ストーリーに縛られていないか?
本レターでは、最近投資家からよく聞く3つのストーリーを点検したい。これらのストーリーにこだわり続けた投資家は、相当の代償を払う結果となり、よって、ポートフォリオを見直す必要があるだろう。
2021.05.20
4月の米非農業部門雇用者数が予想を大きく下回ったことを受けて、政策決定者たちはこぞって自分たちのストーリーに固執するようになった。米連邦準備理事会(FRB)は金融緩和政策の継続を正当化し、バイデン大統領は財政刺激策の継続の必要性を確認できた。そして共和党は追加の失業給付の積み増しで労働者の労働意欲が失せたと批判を強めている。
これらのストーリーがすべて正しいわけではない。しかし、新たなデータに対する政策決定者の反応を予想することは可能であり、我々は先月説明したリフレ・トレードのポジションからの恩恵は受け続けている。先月のレポート発行後、S&P500種株価指数が-1%、ナスダック総合指数が-5%といずれも下落する中、エネルギー株は8%、金融株は6%とどちらも上昇した。我々は、投資家は市場が大きく変動している期間を利用して、長期的な勝ち組ポジションを構築するのが得策だと考える。
本レターでは、最近投資家からよく聞く3つのストーリーを点検したい。これらのストーリーにこだわり続けた投資家は、相当の代償を払う結果となり、よって、ポートフォリオを見直す必要があるだろう。第1に、昨年大幅高となった株式市場には、さらに上昇する余地がさほどないというストーリーだ。第2に、リフレ・トレードとエネルギーや金融などのセクターに当面注目するという我々の方針は、グロース株(成長株)やテクノロジー株への投資ほど投資妙味がないというストーリー。第3に、ボラティリティ(相場の変動性)と不確実性が再び高まっているため、相場変動と価格が低下するまで待ってから市場に参入したほうがよいというストーリーだ。
簡単に言うと、第1の上昇余地ストーリーはまだ有効であると考える。確かに、グローバル株式は現在、新型コロナ危機前の高値水準を20%上回っている。だが企業の利益成長率が高いことに加え、バリュエーションも(現在も低い債券利回りに比べると)割安な水準にあるため、株式市場にはなお上昇余地がある。セクター別では、エネルギーと金融を引き続き推奨しておきたい。この両セクターは2020年初めに大幅に下落しその後回復に向かっているが、バリュエ ーションと良好なマクロ経済環境に支えられ、出遅れ分を「取り戻す」余力が現在も残っている。地域別では、新興国株式と日本株式は、魅力的なバリュエーションに加え、世界の景気回復に乗る形で最近の低迷から反転する可能性がある。
最後に、投資家はキャッシュの運用計画をたて、それを加速するために、ここ数週間に見られたような相場変動期をいかに活用するかを検討することが、引き続き重要である。「様子見」戦略は、長期的には投資成果が得にくくなるというのは実証済みで、中期的にも同じことが言えると我々は考える。
上昇ストーリーは依然有効
グローバル株式が年初来で7%上昇し、新型コロナ危機前の高値水準を20%上回っている現在(米国株式はそれぞれ10%、22%)、多くの投資家は上昇余地について懐疑的になっている。
確かに大幅上昇後のさらなるリターンは難しそうに見えるが、市場は現在も次のような要因に支えられていると我々は考える。
第1に、企業利益の力強い伸びだ。全体の数字を見ると、S&P500種企業の1-3月期(第1四半期)が事前予想を24%も上回るという素晴らしい業績を上げた。利益成長率も45%を超える見込みである。我々は、2021年通期でもこの勢いが続くと想定し、現時点ではS&P500種企業の1株当たり利益が200米ドル(40%増益)、2022年にはさらに215米ドルまでの拡大を見込んでいる。ユーロ圏の業績回復はさらに力強く、2021年の増益率を50%、2022年を12%と予想する。日本を除くアジアと新興国全体の今年の企業利益は、米ドルベースでそれぞれ31%、35%の伸びを予想する。この増益ペースを前提とすれば、グロ ーバル株式の2022年の株価収益率(PER)は17.6倍となる。