POTUS 46

バイデン政権のインフラ投資計画

バイデン政権は3月末にインフラ投資計画を発表したが、対象項目が広範囲にわたるため、狭義のインフラ投資に計画を絞り込むよう求める共和党からの反発が予想される。米国の景気回復が加速する中、景気浮揚策の一環としてインフラ投資を推し進める論拠が今後弱まっていくとみられる。このため、バイデン・インフラ計画の一部項目は、法制化が難航する可能性がある。

  • バイデン政権は3月末にインフラ投資計画を発表したが、対象項目が広範囲にわたるため、狭義のインフラ投資に計画を絞り込むよう求める共和党からの反発が予想される。
  • 米国の景気回復が加速する中、景気浮揚策の一環としてインフラ投資を推し進める論拠が今後弱まっていくとみられる。このため、バイデン・インフラ計画の一部項目は、法制化が難航する可能性がある。
  • 民主党単独で法案成立を目指すには上院で財政調整措置を利用する必要があるが、その場合は民主党内の強力な結束が必要となる。よって、インフラ投資計画の規模と内容は最終的に縮小されると予想する。
  • インフラ投資計画による米ドルへの影響は、現段階では不透明だ。バイデン氏の提案が実現すれば、貿易赤字と財政赤字のいわゆる「双子の赤字」が拡大し、米ドル安のリスクが高まるとみられるが、金利上昇がその影響をある程度相殺すると考えられる。為替市場は、短期的には、米連邦準備理事会(FRB)のテーパリング(量的緩和の縮小)の動きと他国の成長動向を両睨みする展開となるだろう。
  • 景気に敏感なバリュー株(割安株)は、今後の業績見通しとバリュエーションが再評価されて上昇に弾みがつくだろう。一方、金利上昇はグロース株(成長株)にとって逆風になるとみられる。
  • 法人税増税の影響は、強気相場の流れを変えるほどではないだろう。

 “政治とは可能性の技術であり、現実に実行できる次善の結果を追求する技術である”

オットー・フォン・ビスマルク、ドイツ統一の中心人物(1815~1898年)

今年は、現実主義者と評されたビスマルクのこの有名な言葉の真価が試されるだろう。バイデン大統領が、様々な意見対立を調整して、インフラ投資計画の議会承認を実現できるかどうかが、政権の今後を占う試金石となる。「米国雇用計画」と題するこのインフラ投資計画は、交通網の整備のほか、水道システムの刷新、クリーン・エネルギー、高速ブロードバンドの導入など投資対象が多岐にわたり、連邦政府支出の規模は、州間高速道路網を建設した1950~60年代の大型インフラ事業に匹敵する(図表1)。

バイデン大統領は気候変動への取り組みを就任当初から重点政策に掲げており、このインフラ計画にも充電ステーション50万台設置に向けた補助金交付や、政府公用車の電気自動車化など、環境に配慮した内容が数多く含まれる。老朽化したインフラ整備の必要性は依然から指摘されていたが、米国雇用計画の投資内容は典型的なインフラ投資にとどまらないため、共和党議員からは反発の声があがっている。在宅医療従事者の賃金引き上げやクリーン・エネルギーの税控除などは、従来の物理的インフラ投資の定義を拡大解釈するもので、議会審議の焦点の1つとなりそうだ。

一般的には、インフラ投資自体には超党派の支持 が得られる。だが、議論がインフラ改修の財源に及 ぶと、法制化はたいてい頓挫する。バイデン大統 領はインフラ投資の財源として、法人税増税を提 案している。バイデン氏の税制改革案では、連邦 法人税率を現行の21%から28%へ引き上げ、多国籍企業の海外所得に対して米国外軽課税無 形資産所得(GILTI)の実効税率を10.5%から21%へ 引き上げ、20億米ドル超の純利益を計上する大企 業の会計上の利益に対して15%のミニマム税を適 用するなど課税を強化する方針だ。この法人税増 税案は数カ月にわたって議論されてきており、これ らの各種増税措置は想定の範囲内であった。

バイデン大統領のインフラ投資計画は「物理的インフラ」と「人的インフラ」の2段階に分けられており、今回発表の「米国雇用計画」に続き、今月末には、医療、教育、社会保障の強化を軸とする第2弾「米国家族計画」が発表される予定である。バイデン大統領は米国家族計画の財源として、個人増税の構想を打ち出しており、個人所得税の最高税率を39.6%に引き上げる提案を行う見通しである。キャピタル・ゲイン税と連邦遺産税も変更される可能性が高いが、これらはさらに激しい論戦が予想され、実現への道は容易ではないだろう。

バイデン氏は新たな経済政策を2本に分割することで、物理的インフラ投資を効果的に優先させ、議会との交渉の主導権を握ることができた。この戦略が奏功した理由として、法人税増税に対する登録有権者の支持率が挙げられる。2019年に実施されたピュー・リサーチ・センターの調査によると、回答者の69%が法人税増税に賛成だった。

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本稿はUBS Financial Services Inc.が作成した“POTUS 46 – Rethinking infrastructure “(2021年4月14日付)を翻訳・編集した日本語版として2021年4月27日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですのでご確認ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポ ートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
Solita Marcelli

UBSグローバル・ウェルス・マネジメント
米州最高投資責任者(CIO Americas)

Solita Marcelli

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2019年にUBS入社、現在UBSグローバル・ウェルス・マネジメントの米州最高投資責任者(CIO Americas)を務める。グローバルCIO および ウェルス・マネジメント米国のマネジメント・コミッティ、UBS House View (投資見解)の策定を行うグローバル・インベストメント・コミッティのメンバー。

前職はJ.P.Morganウェルス・マネジメントで債券・為替・コモディティのグローバル・ヘッド。ニューヨーク大学スターン・スクール・オブ・ビジネスでMBA取得。CNBC、Bloomberg、Wall Street Journalなど数多くの金融メディアで取り上げられる。

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