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米国株反発、関税交渉と企業決算への期待から

S&P500種株価指数は22日に2.5%上昇した。貿易交渉をめぐる米トランプ政権からの前向きなシグナルや、企業の決算結果を受けて市場センチメントが改善することへの期待が反映された形だ。

何が起きたか?

S&P500種株価指数は22日に2.5%上昇し、最近の下落分のー部を取り戻した。貿易交渉をめぐる米トランプ政権からの前向きなシグナルや、企業の決算結果を受けて市場センチメントが改善することへの期待が反映された形だ。

ベッセント米財務長官は、投資家向けに非公開で行われた会合で、中国との関税の応酬は持続不可能であり、状況は緩和に向かうとの見方を示したと報じられた。出席者によると、ベッセント氏は、交渉はまだ始まっていないが、合意の可能性は残っていると述べたという。また、バンス米副大統領はインドのモディ首相との会談後、2カ国間の貿易協定締結に向けて進展があったと述べ、インドに対して米国製品の購入拡大を呼びかけた。

現在行われている2025年1-3月期の決算発表では、売上高や利益が予想を上回った企業の割合が、これまでのところ過去平均を下回っているものの、懸念されていたほど悪い結果ではなく、それも株価上昇につながった可能性がある。不確実性が高まり、消費者センチメントも弱くなっているが、各企業は消費者支出が概ね堅調であることを示唆している。銀行が融資を控えていないことも好材料だ。

市場の関心は、トランプ大統領が米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長を解任し、FRBの独立性と物価安定の見通しが揺らぐことへの懸念から、トランプ政権が貿易交渉をめぐって発した前向きなシグナルへと移った。

FRBに対する政治的干渉への懸念から上昇していた米30年国債利回りは小幅に低下した。金(gold)価格は投資家の不安感から引き続き上昇し、22日に1オンス当たり3,500米ドルを超えて過去最高値を更新したが、その後下落した。

どう考えるか?

トランプ政権の貿易交渉に対する姿勢が融和的になったことは、最悪のシナリオは回避できるという我々の見解と一致している。我々の基本シナリオでは、米国の中国以外に対する実効関税率は10~15%の範囲にとどまり、カナダとメキシコは引き続き概ね関税の対象外になるとみている。貿易交渉の紆余曲折によりボラティリティ(相場の変動率)は高止まりする可能性が高いが、上述のようなトランプ政権の姿勢から、貿易戦争解決に向け、より建設的なアプローチがとられることが示唆される。

関税をめぐる不確実性は、短期的には経済成長と企業利益の伸びを圧迫するだろう。しかし、経済がこの不確実性に適応する年後半から2026年にかけて、成長が再開すると予想する。ファンダメンタルズ(基礎的諸条件)への信頼が回復すれば、投資家センチメントも上向くだろう。テクノロジーセクターには逆風が吹いているが、最近の半導体サプライチェーン企業の決算は、AI(人工知能)の需要が堅調であることを示しており、米国におけるAIの普及拡大も好調だ。我々はAIの成長ストーリーは健在だとみており、関税による世界のテクノロジー企業の利益への影響は3~5%と、対処可能な範囲にとどまると予想している。

FRBに関しては、市場は政治的介入が行われる兆候に引き続き警戒するだろう。しかしトランプ大統領は、今後もパウエル議長を公然と批判する可能性があるとみられるものの、22日には同氏を解任するつもりはないと述べた。したがって我々は、パウエル議長が2026年5月の任期満了前に解任される可能性は低いと考えている。さらに、パウエル議長は政治スタンスの変更をめぐり様子見の姿勢を示しているが、我々はFRBが、特に労働市場における景気減速の兆候に対応すると考えており、基本シナリオでは、今年を通して75~100ベーシスポイント(bp)の利下げを行うと見込んでいる。こうしたFRBの姿勢も市場センチメントを支えるだろう。

投資方法

最近の動きは、関税の見通しがより明確になるまで、高いボラティリティが続く可能性が高いことを改めて示唆している。こうした状況を踏まえ、我々は以下の戦略を勧める。

ボラティリティを管理する:短期的なリスクを懸念し、ポートフォリオのさらなる下落をヘッジしたい投資家向け。

  • 金:貿易をめぐる不確実性が続く中、金は引き続き効果的なヘッジ手段として機能しており、年初来の上昇率は本稿執筆時点で27%近くに達している。我々はさらなる上昇の可能性があるとみており、基本シナリオでは年末までに1オンス当たり3,500米ドルへ上昇すると予想する(本稿執筆時点では3,362米ドル)。投資需要、中央銀行の準備資産の分散、マクロ環境の変動が引き続き金価格を下支えするとみている。
  • ヘッジファンドで分散投資を図る:マクロ経済の変化に機動的に対応することができるヘッジファンド戦略(裁量マクロ、株式マーケット・ニュートラル、レラティブバリュー、マルチストラテジーなど)は、ボラティリティが高い下落局面でポートフォリオの損失を抑えつつ、市場の歪みを利用することができる。マルチストラテジー戦略は、市場を上回る利益獲得を目指しつつ、ディフェンシブ性も兼ね備え、市場のボラティリティが短期的なパフォーマンスに与える影響を抑えるだろう。同様に、マクロ戦略もボラティリティ上昇局面でプラスのリターンを上げると予想する。ただし、投資家は、ヘッジファンドに固有の流動性の低さや透明性の欠如などに留意する必要がある。
  • 持続的なインカムを追求する:最近の動きにより、米国債には政治的リスクプレミアムが上乗せされ、利回りが上昇した。しかし、これは継続的なプロセスではなく、段階的に変化するとみている。現在、米国債は利回りが高いことからポートフォリオの分散効果をもたらし、米国の経済成長が減速した場合には良好なパフォ―マンスを示すと考える。

ボラティリティを利用する:短期的な見通しに確信が持てないが、ボラティリティの高まりを利用してポートフォリオの収益を高めたい投資家向け。

  • 売られ過ぎの銘柄を見つける:最近のボラティリティの高まりにより、個別銘柄や特定の市場で投資機会が生まれている。長期的な見通しが良好な企業のバリュエーションが、魅力的な水準に低下している。我々は米国において、クオリティが高く、ビジネスモデルが堅固で、長期的に投資妙味があると考えられる20の企業を特定した。欧州では、投資テーマ「欧州投資の6つの方法」で、市場のボラティリティの高まり、欧州の防衛支出の増加、財政拡大の恩恵を受けるディフェンシブ銘柄に焦点を当てている。

ボラティリティの先を見据える:売りが強まる中で投資を控えていた、あるいは長期的なリターンを得るために短期的なリスクを許容できる投資家向け。

  • 段階的に株式に投資する:ボラティリティは続く可能性が高いが、我々は米国株式をAttractive(魅力度が高い)と判断し、年末のS&P500種株価指数の予想値を5,800としている。段階的な投資は、市場参入のタイミングを計ることによるリスクを回避し、中長期的な上昇に備える効果的な方法だ。
  • 変革的イノベーションへの投資機会(TRIO):我々は、TRIO(人工知能(AI)、ロンジェビティ(健康長寿)、電力と電源)に長期的な強いポテンシャルを見出している。これらのテーマに関連する企業は、短期的なリスク回避の動きに巻き込まれているが、長期的には構造的なトレンドが最大のドライバーになると予想しており、最近の売りは、投資家が長期的なエクスポージャーを構築する機会を提供している。

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本稿は、UBS AGが作成した“US stocks rebound on hopes over trade and earnings” (2025年4月22日付)を翻訳・編集した日本語版として2025年4月23日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
Mark Haefele

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management

Mark Haefele

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プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。

ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。

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