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急激な相場変動に対するポートフォリオの強化と分散

トランプ米大統領が4月9日に相互関税の一部を90日間停止すると発表したことを踏まえ、我々は米国株式の投資判断を引き上げシナリオを更新した。今後もボラティリティが高い状況が続くと見込まれることから、ポートフォリオを強化し分散する方法について改めて確認する。

トランプ米大統領が4月9日に相互関税の一部を90日間停止すると発表したことを踏まえ、我々は米国株式の投資判断をAttractive(魅力度が高い)に引き上げ、シナリオを更新した。今後もボラティリティ(相場変動率)が高い状況が続くと見込まれることから、ポートフォリオを強化し分散する方法について改めて確認する。

米国株式をAttractiveに引き上げる

我々は3つの理由により、米国株式の投資判断を引き上げる。

相互関税の一部停止で経済と市場の極端なテールリスク低下:トランプ大統領が「解放の日*」として4月2日に発表した関税は予想以上に厳しい内容で、その後米中間で報復合戦がエスカレートし、米国が中国からの輸入品に課す合計の関税率は、現在145%に達している。一方、トランプ大統領は4月9日、米国への報復措置をとっていない国に対し、相互関税の上乗せ分を90日間停止すると発表した。

株式市場と債券市場の混乱を受け、トランプ政権が関税措置のスタンスを変える意欲があることを示したことから、市場のストレスをある程度考慮していることが伺え、トランプ大統領が政策変更で市場を下支えする「トランプ・プット」が何らかの形で存在することを示唆している。中国に対する高い関税率が維持されれば、経済に混乱をもたらすことが予想される。しかし、下振れリスクは依然残るものの、深刻な景気後退に陥るリスクは弱まっていると考える。

*トランプ大統領は2025年4月2日を、米国が他国による搾取から解放され、再び豊かになる「解放の日」と位置付けた。

交渉は進展する可能性が高い:米中間で関税の応酬が予想以上にエスカレートし、中国への関税によるサプライチェーンと企業活動の大きな混乱が今後の経済指標に表れるリスクには引き続き注意が必要だ。他の貿易相手国に対する相互関税の一時停止が、より長期的な合意に結びつくかも不透明であり、医薬品や半導体に対する追加関税の発表も予想される。

しかし、米国と交渉する意向を示している国も多く、トランプ政権も合意成立への意欲を見せているため、90日間の一時停止期間中に、さまざまな合意や特定のセクターの対象除外が実現すると予想する。トランプ大統領は、最終的には中国との合意も実現できるという見解も示している。交渉の進展は、投資家が関税による短期的な景気減速を乗り越え、2026年の企業の業績回復に目を向けるための好材料になると考える。

ボラティリティ上昇局面後の株式リターンはプラスの傾向:米国株式の予想変動率を示すVIX指数の算出範囲である1990年以降、S&P500種株価指数の1年リターンの平均は9.3%である。しかし、ボラティリティが高い時期の後には、リターンが通常より高くなる傾向がある。VIX指数が40を超えてから1年後のS&P500種株価指数の平均リターンは30%で、プラスリターンとなる確率は95%だ(VIX指数は4月7日に60に達し、本稿執筆時点でも50を超えている)。

また、S&P500種株価指数は4月9日に9.5%上昇した。1日の上昇率としては2008年以来の大きさで、史上3番目の大幅上昇である。1950年以降、同指数の1日の上昇率が6%以上となった13回(今回を除く)の局面を分析すると、1年後のリターンはすべてプラスで、10~63%となっている。1945年以降、S&P500種株価指数が高値から20%下落した12回の局面も分析したところ、1年後のリターンは67%の確率でプラスとなり、リターンの平均は12.9%だった。なお、S&P500種株価指数の4月8日の終値は、高値より約20%低い水準である。

さらに、貿易戦争をめぐる先行き不透明感から、個人投資家の間では弱気センチメントが依然広がっている。米個人投資家協会(AAII)による最新の週間調査(4月9日時点)では、回答者の58.9%が、今後6カ月で株価が下落するという弱気の見方を示している。前の週には、過去1年間で最高の61.9%が弱気見通しだった。注目すべきは、投資家の弱気センチメントは買いの好機とも捉えられるということである。過去に弱気見通しの回答者の割合が60%を超えた際には、S&P500種株価指数はその後1年間で平均27%のリターンを上げている。

ボラティリティが高い時期にポートフォリオ強化と分散を図る

段階的に投資する:米国株式の投資判断をAttractiveとする。過去、市場がストレスを受けている時期は、短期的なボラティリティを乗り越えて投資を継続し、または段階的に投資を行う分散投資家にとって、長期的なリターンを得る好機となってきた。同時に、ボラティリティが高い時期に投資することは、市場へのエントリーのタイミングを計ることによるリスクが高まるため、容易ではない。

このリスクを管理する1つの方法は、段階的に投資を行うことだ。1945年以降、S&P500種株価指数と米国債の60/40のバランスポートフォリオに12カ月かけて段階的に投資する戦略では、1年間のうちの約74%、3年間では約83%の期間でキャッシュ(3カ月米国債)をアウトパフォームしている。S&P500種株価指数がピークから10%以上下落した後にこの戦略を開始した場合、1年間の82%、3年間の94%の期間でキャッシュをアウトパフォームしている。

資本保全戦略:投資家は、ポートフォリオの上昇余地を維持しつつ、ボラティリティの上昇を考慮して潜在的な損失を抑える手段を検討することができる。

(gold):金価格はトランプ大統領が相互関税を発表した「解放の日」以降、投資家のレバレッジ解消により下落したが、今週は再び上昇に転じ、4月10日には1オンス当たり3,176米ドルまで上昇した。金価格は、関税や地政学をめぐる不確実性、米連邦準備理事会(FRB)の利下げ加速の可能性により、引き続き下支えされるだろう。金は、特に悲観的なシナリオにおいて、ポートフォリオの分散効果をもたらすと考える。基本シナリオでは、金価格は年末までに1オンス当たり3,200米ドルまで上昇するとみている。

高クオリティ債:執筆時点の米10年国債利回りは4.42%で、我々の年末の予想値の4.0%を上回っている。今後債券価格が上昇することで、高いトータルリターン獲得の可能性とポートフォリオの分散効果をもたらすだろう。悲観シナリオでは、米10年国債利回りは2.5%まで低下し、債券価格上昇により大きなキャピタルゲインをもたらす可能性がある。長期債に投資する投資家は、財政悪化懸念やヘッジファンドによるレバレッジを効かせたポジションの巻き戻しに関連するボラティリティに引き続き注意を払う必要がある。

ヘッジファンド:マクロ経済の変化に機動的に対応することができるヘッジファンド戦略(裁量マクロ、株式マーケット・ニュートラル、レラティブバリュー、マルチストラテジーなど)は、ボラティリティが高い下落相場においてポートフォリオの損失を和らげ、急速に変化するマクロ経済環境の中でプラスのリターンを上げる可能性がある。

基本シナリオの更新

基本シナリオ(確率50%)

年末のS&P500種株価指数予想:5,800

年末の米10年国債利回り予想:4.0%

基本シナリオでは、株式は引き続きボラティリティが高いものの、関税交渉の合意や対象除外、中央銀行の利下げ、米国の財政調整法案の進展により、年末にかけて上昇すると考える。

今後数カ月の間で医薬品や半導体などに追加関税が課されると予想するが、他のセクターでの除外措置の交渉や特定の国との交渉成立の発表も予想される。また、必要に応じて相互関税上乗せ分の90日間の停止が延長されると考えられる。全体として、対中国以外の米国の実効関税率は10~15%の範囲に落ち着き、カナダとメキシコは引き続き概ね関税の対象外と予想する。時間はかかるかもしれないが、米中の報復合戦は沈静化し、米国の対中関税は34%程度で落ち着くと考える。トランプ大統領は、中国との合意を「望んでいる」と述べている。

相互関税の一部90日間停止にもかかわらず、米国の消費者信頼感の低下と、中国に対する異常に高い関税に関連する混乱の可能性から、米国経済は減速するだろう。しかし、2025年の米GDP成長率は平均で1%未満に低下するも、失業率は5%を下回る水準にとどまると予想する。その他の地域も2025年に成長が鈍化する可能性が高いが、通年の成長率はプラスを維持すると予想する。欧州と中国では、景気刺激策によって関税による経済活動への悪影響を部分的に相殺するだろう。

米国のインフレ率は短期的に上昇するものの、日銀を除くすべての主要中央銀行は2025年半ばまでに徐々に金融緩和に転じると予想する。FRBは2025年に75~100ベーシスポイント(bp)の利下げを行い、欧州中央銀行(ECB)は2025年半ばまで毎回の会合で25bpの利下げを行うと予想する。

悲観シナリオ(確率30%)

年末のS&P500種株価指数予想:4,500

年末の米10年国債利回り予想:2.5%

経済のハードランディングを予想する悲観シナリオでは、関税交渉が全般的に成功せず、米国の内需低下から景気後退を引き起こし、株価はさらに下落するとみている。経済成長の見通しが大幅に下方修正され、高クオリティ債は上昇するだろう。

このシナリオでは、今後数週間の関税交渉は成果を上げず、米国の一律10%の基本税率に対して一部の国が報復措置を取ると予想する。米国と欧州連合(EU)は、一律10%の関税水準、防衛費、デジタルサービス税などの問題で交渉が難航するだろう。全体として、中国以外の国に対する実効関税率は15~20%の範囲に落ち着くと予想する。米国と中国は現在の100%を超える異常な関税を一部引き下げる可能性があると考えるが、年末時点で米国の対中関税は60%を超える水準にとどまると考える。

世界貿易の混乱が続くことにより、米国の国内需要への下押し圧力は続き、米国経済は景気後退に陥り、失業率は約2%上昇すると予想する。一方で、トランプ政権の政策の柔軟性により、経済下振れが深刻化するシナリオは回避されると考える。

主要中央銀行はインフレ期待の上昇を恐れて、短期的には金融緩和に慎重なアプローチを取る可能性がある。しかし、景気の回復を目指し、金融市場の安定性に対するリスクを意識する中で、年後半には金利を大幅に引き下げるだろう。FRBは年末までに政策金利を約300bp引き下げると予想する。

楽観シナリオ(確率20%)

年末のS&P500種株価指数予想:6,500

年末の米10年国債利回り予想:4.75%

楽観シナリオは想像しにくいかもしれないが、米国がEUや中国などと関税交渉を進め、早期に包括的な合意に達した場合、株式市場が大幅に上昇する可能性がある。

景気は当面不安定な状態が続くが、関税リスクの低下と健全な消費により、その後米国経済は予想を上回る成長を遂げ、規制緩和と米国の財政刺激策により、残る関税の悪影響も相殺されるだろう。

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本稿は、UBS AGが作成した“CIO Alert: Strengthening portfolios in volatile times” (2025年4月10日付)を翻訳・編集した日本語版として2025年4月11日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
Mark Haefele

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management

Mark Haefele

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プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。

ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。

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