CIO Alert

米政府閉鎖回避で株価は大幅上昇

米国株式市場は荒れ模様の週となったが、米政府機関の閉鎖が回避される見通しであるとの報道を受け、14日のS&P500種株価指数は2.1%、ナスダック総合指数は2.5%上昇して取引を終えた。

何が起きたか?

米国株式市場は荒れ模様の週となったが、米政府機関の閉鎖が回避される見通しであるとの報道を受け、14日のS&P500種株価指数は2.1%、ナスダック総合指数は2.5%上昇して取引を終えた。米議会上院の民主党トップであるシューマー院内総務が13日、共和党が提出したつなぎ予算案の成立を阻止しない意向を示したためだ。よって、つなぎ予算案は14日に上院で可決され、政府機関の運営資金は9月末まで確保されることになる(訳注: 既に14日に上院で可決し、15日に成立)。また、トランプ米大統領は14日、前日にロシアのプーチン大統領との間で「生産的な」協議が行われたことを明らかにし、ロシアとウクライナの戦争が終結する可能性が「非常に高まっている」と述べた。

14日の市場は楽観的な反応だったものの、週次で見ると、S&P500種株価指数とナスダック総合指数は、政治面および経済面での不透明感が高まるなかで4週連続の下落となっている。実際、14日にミシガン大学が発表した3月の消費者信頼感指数(速報値)は57.9に悪化し、市場予想の63.2を下回った。

今後は、米連邦準備理事会(FRB)が18~19日に開催する米連邦公開市場委員会(FOMC)に投資家の注目が集まるだろう。先物市場は、政策金利据え置きの可能性を織り込んでいる。

どう考えるか?

上院でのつなぎ予算可決による政府機関の閉鎖回避は、今後数年間の減税政策や財政支出に関する財政調整プロセスの風向きにはポジティブだ。

共和党が僅差で多数を占める下院でつなぎ予算案が可決されたことからは、党内の結束がうかがえる。また、これまでは、上院が下院に対して予算案の修正を迫ることが多かったが、今回下院で通過した予算案は、上院で過半数の賛成票を得るだろう(訳注:上院で可決、成立済み)。今後の財政支出をめぐる議論でも同じ動きが見られれば、予算の確保をめぐる迅速な決議につながる可能性があるが、現実となるかは不透明だ。

企業の景況感調査には、経済に対する信頼感の低下が表れており、注目の指標である米アトランタ連銀のGDP予測「GDPナウ」は、2025年1-3月期(第1四半期)が年率2.4%のマイナス成長になることを示唆している。ただし我々は、この数値には金(gold)輸入の急増が影響していると考える。実際のGDPの算出では金輸入は除外されるため、金の影響を除けばGDPナウは2ポイント高くなる。

最近の景況感には低下の兆候が見られるものの、堅調な労働市場が引き続き景気を支えると我々は考える。2月の雇用統計では、雇用者数が堅調に伸び、失業率は低水準で、賃金の上昇も見られ、いずれも個人消費を下支えするだろう。

一方、インフレの鈍化により、FRBは年内に追加利下げを実施するとみている。2月の米消費者物価指数(CPI)は、総合指数とコア指数(食品とエネルギーを除く)のいずれも予想を下回る上昇率となり、物価上昇が鈍化するディスインフレの傾向がさらに強まった。我々は、FRBが年内6月と9月の2回、25ベーシスポイント(bp)ずつ利下げを行うと予想する。

さらなる関税引き上げのリスクは、依然として大きな懸念材料である。我々の基本シナリオでは、強硬な貿易政策によって米国の経済成長が圧迫されると予想するが、米国が景気後退に突入したり、株式市場の回復が妨げられたりするほどではないと考える。ただし、我々は10日にシナリオを変更し、下振れリスクの高まりを反映させた。米国の非常に強硬な関税政策を主因としてスタグフレーション*が生じる確率を15%から20%に引き上げ、経済のハードランディングにより弱気相場となる確率は引き続き10%とみている。

*スタグフレーション:インフレと経済停滞が同時に起きること

投資見解

我々の基本的なメッセージは変わらず、株式への投資を継続しつつ株式エクスポージャーをヘッジして、関税や地政学リスクの影響によるボラティリティ(相場の変動)を管理することが重要である。投資家には、足元の相場状況を効果的に乗り切るために、高クオリティ債、金、オルタナティブ資産などを含むポートフォリオで十分な分散投資を行うことを勧める。

政治リスクを管理する:関税をめぐる不透明感や貿易政策の変化により、ポートフォリオの分散とリスク管理の必要性はいっそう高まっている。株式では、下振れリスクに備えた戦略が検討できる。債券では、関税リスクをヘッジする効果が期待できる投資適格社債などの高クオリティ債を引き続き選好する。

株価の更なる上昇機会を捉える:我々の基本シナリオでは、米国株式が年末にかけて現在の水準から大幅に上昇するとみており、S&P500種株価指数は2025年12月末時点で6,600に達すると予想する。米国の政策の不透明感は短期的なボラティリティをもたらす可能性があるが、先行き不安がピークを過ぎた後は、人工知能(AI)による構造的な追い風の継続と企業の堅調な利益成長が相場を牽引すると考える。

AIへの投資機会を捉える:2024年10-12月期の決算内容は、AI業界のファンダメンタルズ(基礎的条件)が依然として強固であることを示した。景気と政策の不透明感が短期的なボラティリティをもたらすとみられるが、我々はAIバリューチェーン全体に長期的な投資機会が広がっていると引き続き考えており、特に価格決定力の強いAIインフラ関連企業や、超大型のプラットフォーム企業に注目している。短期的なボラティリティ上昇局面は、AI関連銘柄への長期的なエクスポージャーを構築する機会となるだろう。

全文PDFダウンロード
本稿は、UBS AGが作成した“CIO Alert: Stocks bounce at end of volatile week” (2025年3月14日付)を翻訳・編集した日本語版として2025年3月17日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
Mark Haefele

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management

Mark Haefele

さらに詳しく

プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。

ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。

関連レポート

UBSのウェブサイトに遷移します。

(3秒後に自動で遷移します)

×

三井住友信託銀行のウェブサイトに遷移します。

(3秒後に自動で遷移します)

×