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トランプ・プットに懐疑的、米国株急落

S&P500種株価指数は10日、2.7%下落した。トランプ政権が経済政策の遂行のためなら、経済活動の一時的な「混乱」やインフレ率の上昇を容認する可能性があると市場が受け止め、トランプ大統領が市場を下支えする「トランプ・プット」への期待に疑問符がついたためだ。

何が起きたか

S&P500種株価指数は10日、2.7%下落した。トランプ政権が経済政策の遂行のためなら、経済活動の一時的な「混乱」やインフレ率の上昇を容認する可能性があると市場が受け止め、トランプ大統領が市場を下支えする「トランプ・プット」への期待に疑問符がついたためだ。景気後退のリスクに関して、トランプ大統領は「移行期間」に直面する可能性を示唆した。米国の関税引き上げがインフレ率の上昇につながるかどうかを問われた際には、「その可能性はある」と述べた。

S&P500種株価指数は3月3日からの1週間で3.1%下落しており、過去6カ月で最大の下落率を記録した。今回の下落で、同指数は昨年のトランプ大統領再選後に記録した約8%の上昇分をすべて吐き出した。再選によって、規制緩和や財政政策の緩和が企業に恩恵をもたらすとの期待が高まっていた。

背景

S&P500種株価指数は大きく変動しているが、他のセグメントの変動は比較的穏やかである。均等加重のS&P500種株価指数は年初来で横ばい、ラッセル1000バリュー株指数はわずかに上昇、ハイイールド債のスプレッドもあまり拡大していない。

今回の大幅下落は、モメンタム株やハイテク株など一部のセグメントで拡大していたポジションの解消によって引き起こされたものであり、米国経済に対する懸念の急速な高まりを示すものではないと考える。

もちろん、消費者や企業のマインド低下の兆候は、投資家心理の改善にはつながらない。直近発表された米サプライマネジメント協会(ISM)製造業景況感指数や消費者信頼感指数、個人消費支出のデータはすべて予想を下回った。また、トランプ政権が株式市場のボラティリティ(相場の変動率)の高まりや経済成長の鈍化懸念に応じて政策を適応させるという「トランプ・プット」への期待に対して、市場は懐疑的になっている。14日に米国の政府機関が閉鎖される可能性があることや、4月2日に実施が予定されている相互関税*に関する報道も、投資家の懸念を更に高めている。

*米国製品に貿易障壁を設けている国からの製品に対し、同等の水準まで米国の税率を引き上げる措置

シナリオの更新

最近の動向をふまえ、我々の想定するシナリオを更新した。スタグフレーションや景気減速を想定した悲観シナリオの確率を25%から30%に引き上げ、楽観シナリオの確率を25%から20%に引き下げた。

確率50%の基本シナリオでは、米国の経済成長は2024年と比較して緩やかになるものの、プラス成長を維持すると予想している。我々は経済指標やトランプ政権からの発言を真摯に受け止める一方で、長期的な経済成長を目指すためには、短期的な成果を狙うアプローチから転換し、米国経済の一時的な減速が伴う可能性はあるものの、長期的な視点にたった政策を持続的に実施する必要があると考える。

よって基本シナリオは、強硬な関税政策が取られると想定してはいるが、米国の全輸入品に対する平均実効関税率は10%を下回ると予想している。政府支出削減に関する議論は、晩春までには沈静化すると考える。

投資見解

2月27日付「マンスリーレター3月号:ディールの一環」では、投資を継続しつつ、株式エクスポージャーをヘッジして短期的なリスクを管理することが重要だと述べた。今後数週間は、株式市場のボラティリティがさらに高まり、弱含む可能性があるため、下振れリスクをヘッジすることが重要になる。

一方で、我々は株式に対し、投資判断をAttractive(魅力度が高い)で維持しており、S&P500種株価指数は2025年末時点で6,600まで上昇すると予想している。基本シナリオでは、トランプ政権の貿易に対する強硬な姿勢が成長の重石となるものの、米国が景気後退局面に入るほどではないとの見方を維持する。人工知能(AI)による構造的な追い風も継続するだろう。

株式には中期的に上昇余地があるとみているが、投資家は今後数カ月、政治情勢をめぐるリスクに対応する必要がある。株式では、下振れリスクを管理する戦略が検討できる。債券では、投資適格社債などの高クオリティ債が貿易リスクのヘッジ手段となるだろう。また、金(gold)をポートフォリオに組み入れることで、地政学的リスクやインフレリスクをヘッジする効果が期待できる。一部のヘッジファンド戦略も、ポートフォリオの耐性を高めることができるだろう。

我々は最新の状況を踏まえ、株式の投資判断を一部修正する。

  • アジア株式(日本を除く)をAttractiveからNeutral(中立)に引き下げる。年初来のパフォーマンスは5%プラスである。アジア株式は、PMI(購買担当者景気指数)が拡大圏にあるほか、2025年には1桁台後半の利益成長率が見込まれるなど、健全なファンダメンタルズ(基礎的条件)に支えられてきた。しかし、関税をめぐる不透明感が高まっており、アジアの輸出サイクルに対する悪影響が予想される。また、米国の経済指標に見られる減速の兆しは、アジアの成長期待をさらに弱める可能性がある。この不透明感によって、アジア株式のリスクプレミアムは上昇し、短期的な上昇余地は限定的とみている。MSCIアジア指数(除く日本)の12カ月先株価収益率(PER)は13.5倍で、過去の平均をわずかに上回っており、関税リスクを完全には織り込んでいない。

  • 中国のテクノロジー株もAttractiveからNeutralに引き下げる。年初来のパフォーマンスは32%プラスである。中国のAI関連企業が最近台頭していることや、全国人民代表大会(全人代、国会に相当)でもAI開発が強調されていることを受けて、中国のテクノロジー株は大幅上昇している。この状況を踏まえると、中国のインターネット銘柄の成長の可能性を市場が過小評価しているとはもはや考えにくい。また、構造的な懸念が解消されていないため、米中間の関税の応酬は激化する可能性が高いとみている。よって、当面は利益を確定させたうえで、関税措置の状況がより明確になるまで、あるいは株価が調整して再び買い場が訪れるまで待つことを勧める。中国株式全般の投資判断はNeutralで据え置く。

  • 我々は昨年12月に、ドイツの選挙後の成長重視の政策、ウクライナ戦争の停戦協定、製造業サイクルの回復が、ドイツ株式市場を支える可能性があると指摘した。ドイツが先週発表した財政政策は、欧州の景気を好転させる効果が見込まれるが、短期的には、我々の予想は概ね実現し、市場はこれらの材料をほぼ織り込み済みで、関税や経済成長の不透明感に関する今後のニュースが当面のリスクとなる。我々は投資テーマ「欧州投資の6つの方法」を通じ、欧州への選別的なエクスポージャーを勧める。
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本稿は、UBS AGが作成した“CIO Alert: Equities fall as investors question "Trump put"” (2025年3月10日付)を翻訳・編集した日本語版として2025年3月11日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
Mark Haefele

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management

Mark Haefele

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プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。

ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。

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