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トランプ大統領、カナダ・メキシコ・中国に関税発動へ

米トランプ政権は、カナダとメキシコからの輸入品の大半に25%の追加関税を課し、中国からの輸入品すべてに10%の追加関税を課す大統領令に署名した。

米トランプ政権は、カナダとメキシコからの輸入品の大半に25%の追加関税を課し、中国からの輸入品すべてに10%の追加関税を課す大統領令に署名した。これは、「不法移民や薬物がもたらす異例の脅威」による国家の緊急事態を理由とするものだ。エネルギーに関しては、カナダに対して10%、メキシコに対して25%の関税が課される。トランプ大統領は巨額の貿易赤字を理由として、欧州連合(EU)に対する関税を引き上げる可能性も改めて示した。また将来的には半導体、鉄鋼、銅、アルミニウム、医薬品などにも関税を課すことを示唆している。

これに対し、カナダ政府は、米国からの一部輸入品に25%の関税を課すと発表した。まず2月4日に300億カナダ・ドル相当の輸入品が対象となり、21日後には1,250億カナダ・ドル相当の輸入品が対象に追加される。カナダは重要鉱物やエネルギーの輸出制限など、追加の措置も検討しているものとみられる。メキシコのシェインバウム大統領も経済相に報復措置を指示し、中国商務省も必要な対抗措置を取ることを表明した。S&P500種株価指数先物は、本稿執筆時点で1.7%下落している。

どう考えるか?

我々は1月23日付「マンスリーレター2月号:トランプ2.0に備える」で、米国が中国からの輸入品に対する実行関税率を30%に引き上げ、EUからの一部輸入品にも関税を課すという「強硬な」措置を基本シナリオとして想定したうえで、こうした措置が米国の経済成長を妨げることはないと述べた。しかし、カナダとメキシコに対する関税が継続的に賦課される場合、米国の経済成長に「関税ショック」をもたらし、米国のインフレを加速させる可能性があることも指摘した。メキシコとカナダは、米国の総貿易額の約30%を占めているからだ。

我々の基本シナリオでは、カナダとメキシコに対する25%の関税賦課が長期間にわたって継続されることはないと予想する。トランプ政権は、関税賦課の長期化による米国の景気悪化やインフレ加速は望んでおらず、株式市場のボラティリティ(変動率)が高まれば、アプローチを変更する可能性もある。カナダおよびメキシコとの国境地帯を拠点とする企業の業界団体が、訴訟を起こしたり、関税撤廃を求めてロビー活動を行うことも想定される。カナダとメキシコに対する関税は、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の再交渉を加速させるための単なる戦術である可能性もある。メキシコとカナダは報復を発表したが、両国に対する関税がもたらす経済的影響の大きさから、最終的には譲歩につながるかもしれない。

一方で、トランプ氏が1月31日に、今回の関税措置について、カナダおよびメキシコに対する貿易赤字の削減を目的とした「純粋に経済的」なものであると示唆したことは、より大きな懸念材料だと考える。貿易赤字は、移民や麻薬取り締まりなど、貿易以外の問題と同じように「交渉」によって比較的容易に解決することが可能なものではない。中国に関しては、トランプ氏が外交的な態度をみせていることから、米国政府が段階的なアプローチをとっても何らかの成果を得られると考えている可能性も示唆されるが、我々は米国の中国に対する実行関税率がいずれ30%(現在は11%)に引き上げられるとの見方を維持する。

今後数週間、関税は市場の重石となり、ボラティリティを上昇させるものとみられる。少なくとも、米国のこれからの通商政策の行方が明らかになるまで、影響は続くだろう。

ごく短期的には、2月4日の追加関税発動までの間に、交渉や妥協の余地があるかもしれない。2018年および2019年の前例を踏まえると、米税関・国境取締局(CBP)が実際に関税を賦課するのは、その数週間後になると予想され、さらに交渉が可能な時間は残っていると考える。もう1つの重要な日付は、各政府機関が、慢性的な貿易赤字と、他国による不公正な貿易政策に関する調査結果を報告する期日である4月1日だ。調査の結果次第では、追加関税が課される可能性がある。英フィナンシャル・タイムズ(FT)は1月27日、米財務長官のスコット・ベッセント氏が一律関税措置に関して、税率を段階的に引き上げる案を支持していると報じた。これは、初めに2.5%の関税を導入し、毎月2.5%ずつ、最大20%に達するまで引き上げるというものである。一方トランプ氏は、半導体、医薬品、鉄鋼や銅などの金属の輸入品に関税を賦課する計画を明らかにしている。

投資見解

政治的リスクを回避する:ボラティリティが高まる市場では、ポートフォリオの分散化とヘッジの活用が重要になる。株式では、下振れリスクの管理や高いボラティリティを利用し効果的な戦略をとることができる。債券では高格付債および投資適格債を選好する。これらは不確実性に対しある程度の緩衝効果があり、ポートフォリオの分散化に役立つ。また、関税リスクの影響を受ける通貨(人民元、カナダ・ドル、メキシコ・ペソ)のエクスポージャーに対してはヘッジするのが効果的で、短期的にポジションを増やすことは控えたい。金の保有による地政学的リスクとインフレリスクへのヘッジも検討できる。オルタナティブ投資におけるリスクを許容できる投資家は、一部のヘッジファンド戦略を活用することで、魅力的なリスク調整後リターンを確保できるだけでなく、市場のボラティリティが高い中でもポートフォリオの耐性を高めることができると考える。

株式はさらに上昇する:我々は通商政策を引き続き注視する一方、S&P500種株価指数が年末までに6,600まで上昇するという基本シナリオを維持する。カナダとメキシコに対する関税は長期間継続しないとみており、米国の経済成長は株価への追い風となり、さらにAI(人工知能)は企業業績と株式市場に強力な構造的追い風をもたらすと考える。中国AI新興企業による低コストのAIモデルの開発は、最終的にはAIのさらなる普及につながり、成長を促し、生産性を高めると考える。

通貨のボラティリティを利用する:通商政策の変更は通貨市場に大きな影響を与える可能性が高く、投資家はボラティリティの急上昇を利用してポートフォリオの収益を高めることができる。米ドルは短期的には上昇余地があるが、年後半には徐々に下落すると予想する。

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本稿は、UBS AGが作成した“CIO Alert: Trump presses ahead with tariffs” (2025年2月3日付)を翻訳・編集した日本語版として2025年2月3日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
Mark Haefele

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management

Mark Haefele

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プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。

ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。

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