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トランプ新大統領就任と2期目の政策課題
ドナルド・トランプ氏が第47代米国大統領に就任した。トランプ氏が示した政策課題は選挙公約に沿ったものであり、インフレの抑制、エネルギー生産の拡大、輸入品への関税賦課が盛り込まれている。
2025.01.21
ドナルド・トランプ氏が第47代米国大統領に就任した。トランプ大統領は就任演説の中で、言論の自由からパナマ運河の所有権に至るまで幅広い分野の課題に取り組むと表明した。経済的観点から見ると、トランプ氏が示した政策課題は選挙公約に沿ったものであり、インフレの抑制、エネルギー生産の拡大、輸入品への関税賦課が盛り込まれている。
報道によるとトランプ氏は、各政府機関に対して広範な覚書を発令し、恒常的な貿易赤字に関する調査や、他国による不公正な貿易・通貨政策への対処が指示される。覚書では、2020年に発効した米中経済・貿易協定の履行状況や、2026年に見直しが予定されている米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)を、検証の対象に指定している。
20日はキング牧師記念日で祝日のため、米国の株式市場と債券市場は休場だったが、本稿執筆時点でS&P500種先物は0.4%上昇し、米ドル指数は1.2%下落している。トランプ氏が就任初日に関税を賦課する大統領令を発出しなかったことで、安堵感が広がったものとみられる。
今後の見通し
トランプ氏の政策課題は、すべて実行されれば、マクロ経済に大きな影響を及ぼすだろう。しかし、実行される政策のリスクは、財政的・政治的制約により、選挙公約から想定されたほど大きくない場合も考えられる。また、トランプ氏は問題解決の手段としてあえて緊張を高めることも考えられ、提案の一部は交渉戦術である可能性が高い。
例えば、トランプ氏は南部国境の非常事態を宣言し、不法移民の送還手続きを直ちに開始すると述べた。しかし、現時点ではこのようなプログラムの資金はなく、移民の送還による労働供給の減少はインフレ率の上昇につながる可能性がある。
トランプ氏は、石油の生産を増加させ、戦略石油備蓄(SPR)を補充することも表明した。しかし、石油生産量は主に民間企業によって管理されており、現時点では、選挙結果の影響による設備投資や掘削活動の状況の変化を示す明確な兆候はない。SPRの補充には議会から追加資金の承認を得る必要もあるため、迅速な補充には物理的な制約がある。
大統領は、輸入品に関税を課すために大統領令を行使することができるが、まずは現行の貿易慣行の精査を指示する覚書を利用するとし、直ちに新たな関税を課さなかったことから、短期的には市場を安心させた。新たな輸入税の最終的な規模や範囲に関しては不透明だ。
基本シナリオでは、中国に対する実行関税率が25~30%(現在の10%から)に引き上げられると予想する。また、技術的利益を保護するための措置、積替えを制限する規則、EUの自動車や医薬品に対する関税が導入される可能性もある。中国による報復措置としては、報復関税、人民元安、重要鉱物の輸出制限などが考えられる。
リスクシナリオとしては、すべての米国輸入品に対する一律関税、中国に対する特に高い関税(例:60%)、さらにはメキシコとカナダに対する影響力があり継続的な関税の賦課の組み合わせが考えられる。
投資見解
米国経済の基本シナリオは「関税に屈しない成長」である。リスクには注視するが、我々の想定する基本シナリオの関税措置によって米国の経済成長が頓挫するとは考えていない。また、このような関税によりインフレ率の低下が妨げられることもなく、米連邦準備理事会(FRB)は年後半に50ベーシスポイント(bp)の利下げを行うことができると考えている。
関税リスク、米国の財政政策への懸念、インフレとFRB政策をめぐる期待の変化により、株式市場は短期的にボラティリティが高まる可能性がある。しかし、米国経済の底堅さ、企業の堅調な利益成長、借入コストの低下、資本市場の取引拡大の可能性が相まって株価は上昇し、S&P500種株価指数は年末に6,600に達するとみている。
一方、長期金利は、FRBへの利下げ期待の再評価と財政懸念により、米国の大統領選挙以降上昇している。ここ数日、利回りはピークから下落しているが、依然として利回りを固定するための魅力的なエントリーポイントになっていると考える。我々は高クオリティ債、特に国債と投資適格債を選好する。基本シナリオでは、米国10年債利回りは年内に4%に低下すると予想する。
通貨では、投機的な米ドル買いポジションが高水準にあり、米ドルは高値圏にあるため、年内に米ドルはいずれ弱含むとみている。しかし、米国の経済指標が堅調であること、関税政策をめぐる不確実性が続いていることから、短期的には米ドル高が続くと予想する。
最高投資責任者
UBS Global Wealth Management
Mark Haefele
さらに詳しく
プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。
ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。