マンスリーレター12月号
狂騒の20年代: 次のステージへ
「狂騒の20年代」と言っても過言ではない2020年代も半ばに差し掛かる中、今月のマンスリーレターと2025年を展望する『Year Ahead 2025』では、米国政治の変容が2020年代の次のステージにどのような影響を及ぼすのかを考察する。
2024.12.04
- 関税による混乱 : 米国の通商政策は2025年の市場に大きな影響を及ぼすだろう。最も可能性が高いシナリオは、米国の輸入品の一部への関税賦課とみている。
- 株価に上昇余地あり : 関税のリスクはあるものの、堅調な米国経済や健全な企業利益、そして発展が続く人工知能(AI)は、2025年の米国株式への追い風となるだろう。
- 金利低下に備える : 2025年も、米連邦準備理事会(FRB)をはじめとする主要中央銀行が利下げを継続すると見込まれるため、投資家には余剰キャッシュを投資に回すことを勧める。
- 資産配分 : 米国株式をAttractive(魅力度が高い)とする。債券では高格付債(国債)および投資適格債、コモディティでは金(gold)をそれぞれAttractiveとする。
「狂騒の20年代」と言っても過言ではない2020年代も半ばに差し掛かる中、今月のマンスリーレターと2025年を展望する『Year Ahead 2025』では、米国政治の変容が2020年代の次のステージにどのような影響を及ぼすのかを考察する。さらに、主要な課題を分析し、2025年およびそれ以降の投資に与える影響について見ていく。
楽観シナリオでは、減税、規制緩和、そして通商をめぐる「取引(ディール)」が、堅調な経済成長とAI投資の継続に支えられた市場へのポジティブ見方をさらに強めると予想する。悲観シナリオでは、一律関税や過剰な財政赤字、地政学的対立等が、インフレ率の上昇、成長鈍化、そして市場のボラティリティ(変動)を招くと見込む。
基本シナリオでは、潜在的なリスクシナリオに注視しつつも、米国株式を楽観的に見ており、AIを主要な成長ドライバーとして、S&P500種株価指数は2025年末までに10%程度上昇すると見込んでいる。欧州および中国の株式は、貿易に混乱が生じた場合にリスクの増大が見込まれるため、Neutral(中立)のスタンスを維持する。一方、アジア(日本を除く)株式への分散投資には妙味があると考える。
債券に関しては、FRBが追加関税による一部物価の一時的な上昇には目をつぶり、2025年末までにさらに125ベーシスポイント(bp)の利下げを実施すると予想する。投資家にはキャッシュを高クオリティ債への投資に回すことを勧める。また、米ドルは、当面は強含む展開が見込まれるが、金利低下に伴い下落するとの予想を維持する。金価格については上昇を見込む。
市場の先行きについては様々な展開が想定されるため、冷静な判断と投資対象の分散が重要だ。しかし、ここ数年の市場の力強いパフォーマンスを見ると、経済の適応力、革新的技術が生み出す力、そして長期的な市場の成長性を改めて認識させられる。
関税に関するシナリオ
11月5日の米大統領選挙を通過したことで、市場に不透明感をもたらしていた要因が1つ取り払われた。それ以降、市場は減税、規制緩和、追加関税など、予想される政策の実現可能性、規模、影響を精査してきた。これらのうち貿易は、最も影響力があり、進展の速い政策分野の1つとなる可能性が高く、今後の展開については、次の3つのシナリオを想定している。
包括的な一律関税(確率25%)
選挙戦の中で、トランプ次期大統領は、中国から米国へのすべての輸入品に60%、その他諸国からの輸入品に一律で10~20%の関税を課すと何度も公言している。法的には必要ではないだろうが、トランプ氏はそのような大規模な関税には議会の承認を求める可能性が高い。議会の承認を得ることで、トランプ政権は関税で得た歳入を減税分の埋め合わせに使うことができ、2017年に導入した個人所得税減税も延長しやすくなるからだ。
しかし、インフレ率や経済成長に及ぼし得る影響への懸念から、議会がこれを承認する可能性は低い。トランプ政権は大統領令を用いて政策の実施を試みることはできるが、法的な異議申し立てや政治的逆風を招きかねない。特に、貿易相手国による報復関税が貿易戦争を激化させた場合には、その可能性が高まるだろう。
我々は、包括的な一律関税が発表・導入される可能性を25%とみている。その経済的影響は相当大きなものになる可能性が高い。一律関税はサプライチェーンを調整しても回避できないため、コストの増加分は安易に製品価格に転化されやすく、米国では消費者物価の上昇と内需の鈍化につながるとみられる。世界中の輸出産業が打撃を受け、米国の輸出業者も報復措置による影響を被りそうだ。さらに、FRBが一時的な物価上昇を無視したとしても、このシナリオでは企業の利益追求による物価高騰といった2次的な影響の可能性も高まり、結果としてFRBは利上げを迫られかねない。
選別的な関税(確率65%)
一律関税の導入が様々な要因から困難である場合、選別的な関税(特定の国または地域における、特定範囲の財あるいはセクターを対象とする)の方が、はるかに容易に実施できる。1974年通商法301条や1962年通商拡大法232条に基づき、大統領に与えられた権限を行使できるからだ。我々は、選別的な関税賦課が最も現実的とみている。
この基本シナリオでは、トランプ政権は2020年の米中間の貿易交渉における第1段階の貿易合意を再交渉の対象とし、中国からの輸入品に対する関税引き上げを段階的に実施して、現行約10%の実行関税率を2026年末までに30%程度まで引き上げると予想する。
米国政府当局はデジタルサービス税の導入をめぐって欧州も標的にし、米国産品への置き換えが容易な主要輸入品目(例えば自動車)に対して二国間関税を課す可能性が高い。さらに、米国は中国製品のメキシコ経由での積み替えや、コネクテッドカー(常時インターネット接続する車)に関して中国の技術を使用した電気自動車の輸出に対する調査を開始すると予想される。
選別的な関税は一律関税よりも回避が容易であり、消費者物価への影響も低減させることができるだろう。
関税回避に向けた合意(確率10%)
最後に、確率は非常に低いものの、新大統領の就任が米国と貿易相手国の交渉を促し、追加関税の回避に至る可能性がある。この新たな取引では、一部の製品に軽い関税が課されるか、もしくは米国の貿易赤字を減らすための輸入数量について合意が成立する可能性が高い。取り締まりの強化や原産地規則要件など、執行は以前よりも厳しくなるだろう。
関税が中国に及ぼす影響
中国当局が最近発表した、地方政府債務の複数年にわたる解消計画は予想通りだった。前回のマンスリーレターで述べた通り、中国経済が負のスパイラルを回避するには、個人消費や不動産市場に対する新たな刺激策が必要だと考える。中国の政策当局は、米国の政策が明らかになるのを待って、追加の刺激策を発表するものとみられる。
我々の基本シナリオでは、中国製品に対する米国の実行関税率が現行の約10%から2026年末までに約30%へと引き上げられることになれば、それが財政刺激策を促す契機になるとみている。不動産の在庫消化、社会福祉支援、銀行資本の強化に関する具体的な施策は現在検討されている模様で、2025年3月の全国人民代表大会(中国の国会に相当)までには最終案がまとまる可能性がある。中国政府はさらに、2025年には国債発行の拡大や金融緩和政策を通じて、財政赤字の対GDP比を約4%まで引き上げる(現在は3%)と予想される。そのようなシナリオでは、関税はGDP成長率を今後3年間に累積で70~100bp押し下げる可能性があるものの、追加の景気刺激策がそれを相殺するだろう。
リスク・シナリオでは、米国によるあらゆる中国製品への実行関税率が2026年末までに60%へ引き上げられる想定だ。このシナリオに基づくと、関税の引き上げがGDP成長率に及ぼす3年間の累積的な影響は200~300bpになる試算だが、その場合、さらに大規模な景気刺激策が講じられるとみている。
我々は中国株式全体への投資判断をNeutral(中立)としており、関税についての発表、景気刺激策の内容、外部のマクロ経済環境に端を発する相場の変動が当面続くとみている。
このような環境の中で、我々は中国株式については、ディフェンシブで利回りの高いバリュー・セクターが他のセクターをアウトパフォームすると予想する。金融、公益事業、エネルギー、通信など、平均配当利回りが6%前後(中国の国債利回りよりも4ポイント高い)のセクターを推奨する。
グロース株は、景気刺激策が期待を下回る内容だった場合や、関税リスクが高まった場合に影響を受けやすい。しかし、安定した成長基盤、支配的な市場シェア、政府の景気刺激策の恩恵を受ける可能性を踏まえると、中国のインターネット・セクターには中期的に投資妙味があるとみている。MSCI中国指数構成企業の売上高に占める米国の比率は約3%にすぎないため、我々の基本シナリオでは、関税が2026年までに利益成長率に及ぼす影響はおよそ150bpにとどまると予想する。
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最高投資責任者
UBS Global Wealth Management
Mark Haefele
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プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。
ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。