日本株式
2025年の日本株はROEの上昇が鍵
トランプ次期政権への移行をふまえ、日本株式に対してはNeutral(中立)のスタンスを維持する。株式のファンダメンタルズは概ね堅調だが、関税引き上げや米国金利上昇懸念などリスクが高まっていると考える。
2024.11.20
- 我々はトランプ次期政権への移行をふまえ、日本株式に対してはNeutral(中立)のスタンスを維持する。株式のファンダメンタルズ(基礎的条件)は概ね堅調だが、関税引き上げや米国金利上昇懸念などリスクが高まっていると考える。また、急速な円高進行の可能性も排除できない。
- 2024年度(2025年3月期)の企業業績予想を9%増益、2025年度(2026年3月期)を5%増益に上方修正した。ただし、特にトランプ次期政権初期は、株価の上振れ余地は限定的とみている。
- 利益率の高い高クオリティ株の推奨という投資戦略は変わらない。特に金融、小売、ITサービス、不動産などの内需株をすすめる。
我々の見解
間近に迫るトランプ次期政権への移行をふまえ、日本株式に対してNeutral(中立)のスタンスを維持する。最近の円安、底堅い米国経済に加えて、2025年の賃金上昇継続の可能性は、日本の実質賃金がプラスに転換する可能性を示唆している。これらは株式のファンダメンタルズの下支え要因だが、関税引き上げや米国金利上昇懸念などリスクも高まっている。また、8~9月にみられたような急速な円高進行の可能性も排除できない。
我々は直近の円安傾向を反映し、日本企業の増益率予想を2024年度(2025年3月期)は1%引き上げ前年同期比9%増益に、2025年度(2026年3月期)を5%増益に上方修正した。だが、上述のリスクをふまえ、日本株式に対しては中立のスタンスを維持し、特にトランプ次期政権誕生に向かう中での上振れ余地は限定的と考える。また、株価収益率(PER)14.3倍は直近平均の14.5倍と同水準であり適正とみる(図表1参照)。
2025年は正念場
2025年は日本株式にとって正念場になるだろう。2024年の日本株式は、円安に加えて、インフレと賃金上昇、コーポレートガバナンス改革という2つの大きな構造改革期待を背景に、海外投資家からの資金流入という追い風を受けた。これらが特に、2024年上期の株価上昇を牽引した。海外投資家は2023年1月~2024年6月までの18カ月間、日本株式を7.3兆円買い越したが、2024年7月以降の直近4カ月間は5.3兆円の売り越しに転じた。この間、日本企業は一貫して株式を買い越しており、自社株の購入額は、2023年の同期間と比べて70%増の6.8兆円と過去最高に達した(図表2参照)。
2025年はコーポレートガバナンス改革の進展が求められる
2025年は円安による追い風はないと予想する。日本企業のコーポレートガバナンス改革は自社株買いにとどまらず、自己資本利益率(ROE)の拡大が求められる段階に入る。日本のインフレと賃金上昇の好循環は2025年も続くとみる(図表3参照)。日本は緩やかながら着実にデフレから脱却しており、米国経済の底堅さが続く中、日本企業はマクロ環境に対処できるものと考える。
2025年はROE上昇が鍵
ROEの上昇は日本の構造改革が着実に進展しているという裏付けとなり、海外投資家を再び日本株式市場に呼び戻す鍵となると考える。東京証券取引所は2022年からコーポレートガバナンス改革を推進しているが、日本企業のROE上昇は期待通りに進んでいない(図表4参照)。ROE拡大に対する海外投資家の期待値は低い。そのため、ROEの上昇が確認できれば、円高により日本企業の利益が多少下押しされたとしてもバリュエーションの拡大につながるだろう。
2025年のポジティブ材料
• 実質賃金の伸びが安定的にプラスを維持し、消費が拡大し始める。日本労働組合総連合会(連合)は、1991年以降最大の伸びとなった2024年の5.1%の賃上げに続き、2025年も5%以上の賃上げを要求している。2024年は過去最高の賃金上昇率にもかかわらず、インフレの影響で実質賃金の伸びはおおむねマイナス圏で推移している(図表5参照)。
• ROEの上昇。ROEの上昇は日本の構造改革が着実に進展しているという裏付けとなり、海外投資家を再び日本株式市場に呼び戻す鍵となると考える。
2025年のリスク
• 米国向け日本製品を含む全輸入品への一律関税引き上げ。 日本企業の売上高のうち約15%が米国向けであり、そのうち現地生産比率は50~70%である。よって、一律10%の関税引き上げによる売上高への直接的な影響は全体の3~5%になると試算される。一方、間接的な影響を含め、売上高の15%以上は好調な米国経済から恩恵を受けるだろう。だが、こうした関税引き上げの発表直後は、株価は下押しされると予想される。特にゴム製品、輸送用機器、医薬品、機械、精密機器といった一部のセクターでは大きく影響を受けるだろう。
• 中国に対する大幅な関税引き上げ。間接的売上高を含め、日本企業の売上高の1桁%後半は中国向けである。中国政府による景気刺激策が中国経済に対する悪影響をいくぶん相殺するものと予想される。日本企業の中国依存度は低下しており、中国経済の回復期待は高くはない。とはいえ、繊維、電子機器、精密機器、化学、機械といった中国向け販売比率が相対的に高いセクターの株価は下押しされる可能性が高いだろう。
• 急激な円高進行。8~9月にみられたような急激な円高進行は株価への逆風になるだろう。
• 米国金利上昇。米国金利の上昇はバリュエーションの下押し要因となる。
• 日本の政治的不確実性の高まりと増税リスク。2025年夏の参議院選挙で、増税と財政再建を主張する政党が過半数を獲得すること。
UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社
チーフ・インベストメント・オフィス
ストラテジスト
小林 千紗
さらに詳しく
チーフ・インベストメント・オフィスにて、ストラテジストとして株式の調査分析、テーマ投資、SI投資などを担当。投資銀行部門での経験を活かし、幅広い業種についてマクロ・ミクロの視点から投資見解を提供している。
2013年11月に入社。それ以前は米系・欧州系証券会社にて株式アナリストを務める。