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トランプ氏勝利で米国株は大幅高
米大統領選挙でトランプ前大統領が勝利し、規制緩和や減税、インフレ率上昇を見越した動きが強まったことから、11月6日は株式、債券利回りともに上昇した。
2024.11.07
何が起きたか?
米大統領選挙でトランプ前大統領が勝利し、規制緩和や減税、インフレ率上昇を見越した動きが強まったことから、11月6日は株式、債券利回りともに上昇した。S&P500種株価指数は2.5%上昇して5,929に達し、米国10年債利回りは16ベーシスポイント(bp)上昇して4.43%となった。
トランプ氏は執筆時点で295の選挙人票を確保し、ハリス副大統領の226票を上回って勝利を確実にした。共和党は4年ぶりに上院も掌握した。下院では、共和党が民主党を205対189でリードしており、過半数を確保する可能性が高いが、正確な結果はまだ確定していない。ハリス氏は6日にトランプ氏へ電話し、大統領選挙での敗北を認めた。
株式セクター別では、金融セクターが規制緩和への期待から6.2%上昇し、6日の株高を牽引した。エネルギー、資本財、一般消費財の各セクターも力強い上昇を示した。小型株も急騰し、米国小型株の代表的指数であるラッセル2000は5.8%上昇した。
米ドルは英ポンド、ユーロ、円などの主要通貨に対して全面高となった。米国株式市場の変動率予想を示すVIX指数は9月末以来の最低水準に低下し、選挙結果が迅速かつ明確な形で決まったことに対する市場の安心感を反映している。
次の注目点は?
11月7日の米連邦公開市場委員会(FOMC)における決定内容:我々は、米連邦準備理事会(FRB)が中立的な政策スタンスへ徐々に移行すると予想している。トランプ氏がどの程度政策を実行できるかが依然として不透明なことから、FRBがすぐに経済見通しを変更することはないと考えている。今回のFOMCでは25bpの追加利下げを行う可能性が高く、我々の基本シナリオでは、12月にさらに25bp、2025年に100bpの利下げを行うと予想している。移民および貿易関連政策、または財政政策の変更がインフレ率の上昇につながると判断した場合には、FRBは利下げのペースを遅らせる可能性がある。
中国の財政刺激策:トランプ氏の勝利は、中国から米国への輸出品に対する関税が大幅に引き上げられる可能性を高め、中国株式の見通しにはマイナスだ。一方で、中国株式はすでに割安である。市場は8日に終了する全国人民代表大会(全人代)常務委員会会議の結果を注視し、中国政府が財政刺激策の支出を増やし、前倒しするかに注目するだろう。現時点では中国株式に対してNeutral(中立)のスタンスを維持している。
連邦議会の最終的な議席数:執筆時点で、共和党は上院ですでに52議席(勝利に必要な議席数は51議席)を確保して多数派を奪還している。下院は435議席のうち394議席が確定し、共和党が205議席、民主党が189議席を獲得している。今後数週間は、上院での共和党の正確な議席数と、下院で共和党が過半数を確保できるかどうかに注目が集まるだろう。僅差で多数派となった場合、財政関連の法案を可決させることが困難になり、2026年の中間選挙後に政策が行き詰まる可能性が高まるかもしれない。
トランプ氏の政策に関する発言:選挙の結果が確定したことで解消された問題もあるが、新しく浮上した問題もある。選挙の決着がつかないことによる不確実性や、法人税の引き上げおよび規制強化の可能性は取り除かれた。しかし一方で、貿易関税、移民政策、地政学に関する新たな不確実性に直面している。トランプ氏は、今後数日から数週間のうちに詳しい政策の方針を明らかにするとみられ、市場のボラティリティ(変動率)が高まる可能性がある。しかし、トランプ氏が最初の任期中に、S&P500種株価指数のパフォーマンスを自身の成功のバロメーターとして掲げていたことには留意しておきたい。
投資への影響は何か?
市場はトランプ氏の勝利を織り込み始めており、経済成長の加速、インフレ率の上昇、利下げペースの鈍化、貿易関税の引き上げを見越した動きがみられる。トランプ新政権の詳細な政策案が明らかになるのに伴い、投資家は相場のさらなる変動に備える時にある。相場が大幅に下落した局面において、より強靭かつ長期的なポートフォリオの構築に備えることを勧める。
株式では、S&P500種株価指数が現在の5,929から2025年末までに6,600に達すると予想する。堅調な米国の成長、金利低下、人工知能(AI)に対する構造的な追い風の継続が株価の下支えになると考えているからだ。セクター別ではテクノロジー、公益事業、金融セクターなどを選好している。規制緩和で恩恵を受けるとみられる金融とエネルギーは相場を主導し、S&P500種は6日に最高値を更新した。トランプ氏勝利の場合の我々の予想通り、これらのセクターが市場全体をアウトパフォームした格好だ。テクノロジー・セクターも上昇した。関税引き上げ等の貿易摩擦による逆風に直面する可能性があるものの、中期的にはAIの商業化の加速などの構造的成長ストーリーを打ち消してしまうことはないと考える。
中国から米国への輸出品に対する関税の引き上げリスクが高まり、中国のCSI300指数と香港のハンセン指数は6日に下落した。関税による逆風を認識しつつも、一方で中国株式はすでに割安であり、中国政府は財政刺激策の支出をより積極的に前倒しする可能性がある。
債券では、米10年国債利回りが10月初めの約3.8%から執筆時点で4.43%に上昇している。投資家は、より拡張的な財政政策がインフレ率上昇とFRBの利下げペースの鈍化につながる可能性に注目しているからだ。我々は、利回りの上昇は行き過ぎとみており、利下げサイクルが続く中で、足元の状況は魅力的な利回りを獲得する機会とみている。
通貨では、トランプ氏の勝利から米ドルが更に勢いをつけ、米ドル指数(DXY)は1.7%上昇して、1日の上昇率としては2年ぶりの高さを記録した。しかし中期的には、このような上昇は続かないだろう。米ドルの過大評価と米国の大幅な双子の赤字は、時間とともに米ドルに重くのしかかる可能性が高い。
金価格は最近の過去最高値から値を下げている。しかし、今後を見据えると、赤字拡大、地政学的不確実性、中央銀行の継続的な金購入により、金価格は今後数カ月で上昇すると考える。執筆時点で金価格は1オンス当たり2,670米ドルであるのに対し、2025年9月の予想値は2,900米ドルを見込んでいる。
選挙結果の投資への影響についての詳細は、「CIO Alert:トランプ大統領、上院共和党、下院は接戦続く」をご覧ください。
最高投資責任者
UBS Global Wealth Management
Mark Haefele
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プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。
ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。