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トランプ大統領、上院共和党、下院は接戦続く

米大統領選はトランプ前大統領が勝利し、第47代大統領に就任する見通しである。投資家にはトランプ氏の勝利を踏まえ、将来を見据えた投資判断を行うことを勧める。

何が起きたか?

米大統領選はトランプ前大統領が勝利し、第47代大統領に就任する見通しである。主要な激戦州での集計結果予測に基づくと、トランプ氏は勝利に必要な270の選挙人票を確保した可能性が高い(訳注:その後、過半数を確保)。AP通信はトランプ氏が勝敗を分けると言われる接戦州のペンシルベニア州で勝利したと報じている。連邦議会選では集計はまだ続いているが、共和党が上院で多数派を奪還する見通しだ。一方、下院では接戦が続いており、議会全体の構成が確定するまでには数日から数週間かかる可能性がある。接戦となった州では再集計の実施も予想されるが、選挙の明白な結果が再集計によって変わる可能性は低いとみており、投資家にはトランプ氏の勝利を踏まえ、将来を見据えた投資判断を行うことを勧める。

本稿執筆時点で、S&P500種株価指数先物は1.9%の上昇となり、米国小型株の代表的指数であるラッセル2000の先物も約4.5%上昇した。これは国内の経済成長の加速や、M&A(合併・買収)の活発化、個人所得税減税の延長、そして法人税の引き下げを期待した動きとみられる。選挙結果の見通しが立ってきたことも、先行き不透明感の払拭につながり、先物価格を押し上げている可能性がある。

米国10年債利回りは、名目GDP成長率の上昇と財政赤字の拡大を見込んで、13ベーシスポイント(bp)上昇している。米ドルはユーロに対して1.7%上昇し、金(gold)価格は0.6%下落している。

トランプ政権の下で貿易関税が引き上げられる可能性があるため、香港のハンセン指数とテクノロジー・セクターのサブ指数はそれぞれ約3%下落しており、中国人民元も下落している(米ドル/人民元は0.7%の上昇)。アジアの他の地域では、円が1.5%下落する中で日本株式が2.6%上昇し、台湾株式も0.5%上昇した。ユーロ・ストックス50指数先物は0.6%上昇し、メキシコ・ペソは米ドルに対して3%下落している。

政策、経済、地政学への影響は?

トランプ氏は、個人所得税減税の延長、法人税の引き下げ、規制緩和、貿易関税、移民制限、米国の国際的役割の再評価という政策要綱を掲げて選挙戦を展開した。共和党が議会を掌握すれば、大統領は政策課題を追求しやすくなるが、僅差で過半数を確保した場合、連邦予算がすでに大幅な赤字であることからも、一部の政策措置が制約を受ける可能性がある。

経済面で最も影響が大きい政策は関税だとみている。公約通り中国からの輸入品に60%、その他の地域からの輸入品に10%の関税が課された場合、米中貿易の大半が成り立たなくなり、米国内の需要と企業利益が減少して、中国をはじめとする世界全体でGDP成長率が低下する可能性がある。こうした関税は、米国でのインフレ率上昇にもつながるだろう。

もちろん、交渉、貿易やその他の問題に関する譲歩、あるいは法的な異議申し立てによって、最終的な追加関税が引き下げられる、または導入されないという結果につながる可能性もある。関税の導入には時間がかかるため留意する必要があり、実施は2025年後半から2026年になると見込まれる。

財政政策では、今回の選挙結果によって、つなぎ予算(2024年12月20日期限)や債務上限停止措置の期限切れ(2025年1月2日から上限適用)をめぐる短期的な財政リスクは軽減されると考える。トランプ氏は2025年末に期限を迎える個人所得税減税の延長、法人税率の21%から15%への引き下げ、その他所得に対するさまざまな減税措置を公約に掲げて選挙運動を行った。対GDP比の財政赤字がトランプ氏の1期目開始時の2倍になり、金利も上昇している中で、議会の財政タカ派は赤字のさらなる拡大につながる法案を阻止するか、規模を縮小させることが予想され、共和党が僅差で議会の多数派となった場合には、その可能性が特に高くなるだろう。

我々は、米連邦準備理事会(FRB)が中立的な政策スタンスへ徐々に移行すると予想している。トランプ氏が政策を実行できるかどうかが依然として不透明なことから、FRBがすぐに経済見通しを変更することはないと考えている。11月7日の米連邦公開市場委員会(FOMC)で25bpの追加利下げを行う可能性が高く、我々の基本シナリオでは、12月にさらに25bp、2025年に100bpの利下げを行うと予想している。移民および貿易関連政策、または財政政策の変更でインフレ上昇懸念が高まると判断した場合には、FRBは利下げのペースを遅らせる可能性がある。

他に、化石燃料エネルギーおよび金融サービス業界の迅速な規制緩和措置が期待される。地政学的な観点では、トランプ大統領の下で中国との対立姿勢が強まり、欧州との関係は、貿易およびロシア・ウクライナ紛争の両側面で見直しを迫られると考える。また、イランに対する「最大限の圧力」政策により、中東情勢の緊張が激化するリスクは高止まりする可能性がある。

市場にとって何を意味するのか?

株式

米国

米国の株価指数先物は、票の集計が進む中で上昇している。我々の基本シナリオでは、2025年末時点でのS&P500種株価指数の予想値を6,600に設定し、現在の水準から約15%上昇すると予想している。穏やかな米国経済の成長、金利低下、人工知能(AI)による構造的な追い風の継続が株価の下支えになると考えているからだ。トランプ政権下での法人税の引き下げやエネルギーおよび金融セクターの規制緩和が、さらなる恩恵となる可能性もある。

我々は株式セクターの中で、テクノロジー、公益事業、金融セクターなどをAttractive(魅力度が高い)と判断している。テクノロジー・セクターでは、トランプ氏の勝利で、ハードウェアや半導体企業の利益に対する関税の影響への懸念が高まる可能性がある。しかし中期的には、こうした影響が同セクターの構造的な成長ストーリーを打ち消してしまうことはないと考える。企業がAIをさまざまな用途で活用し、主導的な位置に立とうと競う中で、AIインフラストラクチャーへの投資は堅調な状態が続いている。AIに必要な半導体部品は来年にかけて供給の逼迫が続くとみられ、価格を下支えするだろう。

公益事業セクターにおいては、トランプ氏の勝利により、再生可能エネルギー関連企業が逆風に直面する可能性がある。しかし、企業、州、自治体が脱炭素化の目標達成に注力する中で、再生可能エネルギーの需要は依然として強いとみている。AIデータセンター分野で大幅な成長が見込まれるため、電力需要が高まり、電力価格の上昇を促す可能性があると考えている。さらに、経済成長への懸念が高まった場合には、同セクターのディフェンシブな特性がポートフォリオの安定化につながると考える。

米国の金融セクターについては、トランプ氏の勝利で規制緩和が予想されるため、即座に前向きに捉えられると考えている。さらに、中期的には、堅調な経済に加え、FRBの利下げで企業向け融資やM&Aなどの活発化が見込まれるため、強気の姿勢を維持する。

中国

執筆時点で、香港のハンセン指数とテクノロジー・セクターのサブ指数はそれぞれ約3%下落しており、中国人民元も下落している(米ドル/人民元は0.7%の上昇)。トランプ氏の勝利は、中国から米国への輸出品に対する関税が大幅に引き上げられる可能性を高め、中国株式の見通しにはマイナスだ。一方で、中国株式はすでに割安である。市場は11月8日に終了する全国人民代表大会(全人代)常務委員会会議の結果を注視し、中国政府が景気刺激策の支出を増やし、前倒しするかに注目するだろう。現時点では中国株式に対して中立的なスタンスを維持している。

欧州

関税引き上げの可能性は欧州企業にとっても懸念材料であるが、執筆時点でユーロストックス50先物は0.6%高で取引されている。欧州の上場企業の売上高の約4分の1が米国向けである。しかし、実際の輸出はこれらのごく一部であることに注意が必要である。欧州企業が米国で販売する商品は、ほとんどが米国内で生産されている。中国市場へのエクスポージャーがあり、景気の影響を受けやすい欧州企業は、より大きなリスクに直面するだろう。こうした企業の銘柄は、2018~2019年の米中貿易摩擦の時には、平均で約10%下落した。米国のグリーンエネルギー政策の一部撤回の可能性も、欧州の資本財および公益事業セクターの一部に影響を及ぼす可能性がある。

債券

米国10年国債利回りは、名目GDP成長率の上昇と財政赤字の拡大を見越して13bp上昇し、4.4%となっている。最近の急上昇により、利回りは高すぎる水準にあるとみており、今後の債券はプラスリターンを見込んでいる。キャッシュを過剰に保有する投資家は、現在の利回り水準を利用して、高利回りを確保することを勧める。

市場はトランプ氏の政策課題がインフレを引き起こす可能性を織り込んでいるようだが、そうした政策がどの程度実施されるか、またはインフレに実際にどのような影響を与えるかについては、まだかなりの不確実性がある。米国が景気後退入りするリスク・シナリオの場合に、債券価格は大幅に上昇する可能性があるため、債券はポートフォリオの観点からも魅力的である。

通貨

米ドル指数(DXY)はここ数時間で1.6%上昇している。市場は、減税、名目GDP成長率上昇、関税引き上げといった側面に注目しており、これら全てが米ドルへの追い風になる可能性がある。短期的には、トランプ氏勝利を市場が織り込む中で、米ドルが強い状況が続くだろう。しかし中期的には、今後1年で米ドルは下落していくと予想する。基本的には、米ドルの過大評価と米国の双子の赤字が、米ドルに重くのしかかることになると考える。

メキシコ・ペソは貿易規制の懸念から大幅に下落しており、中国人民元は執筆時点で、米ドルに対して0.7%下落している。トランプ政権下では、米ドル/人民元が7.4に向かって上昇すると予想する。

金(gold)

金はここ数時間で0.6%下落し、執筆時点で1オンス当たり約2,725米ドルとなっている。今後を見据えると、赤字の拡大、地政学的な不確実性、そして中央銀行の継続的な買いにより、金は数カ月間上昇するだろう。2025年9月の金価格は1オンス当たり2,900米ドルを予想する。

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本稿は、UBS AGが作成した“CIO Alert : Trump President, Senate Republican, House still uncertain” (2024年11月6日付)を翻訳・編集した日本語版として2024年11月7日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
Mark Haefele

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management

Mark Haefele

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プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。

ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。

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