CIO Alert
市場はトランプ氏勝利を織り込み始める
トランプ前大統領が大統領職を確保し、共和党が両院を掌握する可能性が高まっている。投資家には、相場が大幅に下落した局面において、より強靭かつ長期的なポートフォリオの構築に備えることを勧める。
2024.11.06
本稿執筆時点で、予測市場では、トランプ前大統領が大統領職を確保し、共和党が両院を掌握する可能性が高まっている。Polymarketはトランプ氏が大統領となる可能性を94%(PredictItは91%)とし、大統領職と両院をすべて共和党が掌握するレッド・スウィープの可能性を73%としている。
S&P500種株価指数先物は1%超の上昇となり、米国小型株の代表的指数であるラッセル2000も約3%上昇した。これは国内の経済成長の加速や、M&A(合併・買収)の活発化、個人所得税減税の延長を期待した動きとみられる。トランプ氏は法人税の引き下げも公約として掲げている。選挙結果の見通しが立ってきたことも、先行き不透明感の払拭につながり、先物価格を押し上げている可能性がある。
米国10年債利回りは、名目GDP成長率の上昇と財政赤字の拡大を見込んで、14ベーシスポイント(bp)上昇している。米ドルはユーロに対して1.6%上昇し、金(gold)はほぼ横ばいで取引されている。
トランプ政権の下で貿易関税が引き上げられる可能性があるため、香港のハンセン指数とテクノロジー・セクターのサブ指数はそれぞれ約3%下落しており、中国人民元も下落している(米ドル/人民元は0.7%の上昇)。アジアの他の地域では、円が1.4%下落する中で日本株式が2.2%上昇し、台湾株式も1%上昇した。メキシコ・ペソは米ドルに対して3%下落している。
投資家は今後数時間、主要な激戦州の結果予測を注視することになるだろう。本稿リリース時点で、AP通信はトランプ氏がノースカロライナ州で当選確実と報じており、残る6州(ペンシルベニア、ミシガン、ウィスコンシン、ネバダ、アリゾナ、ジョージア)の結果は確定していない。
米連邦議会選の最終的な結果が判明するのは数日後になる可能性が高い。それでも、共和党がウェストバージニア州で議席を獲得し、オハイオ州とモンタナ州でリードしていることから、共和党が上院を掌握する可能性が高い(訳注:執筆後、既に共和党が上院多数派となることが確定)。共和党への支持率が高まることは、共和党が下院を確保する可能性も高いことを意味する。
投資家への影響は何か?
各州の集計を市場が織り込む中、今後数時間で複数の資産クラスのボラティリティが大幅に上昇することが予想される。投資家には、株式、債券、金への投資機会に焦点を当て、相場が大幅に下落した局面において、より強靭かつ長期的なポートフォリオの構築に備えることを勧める。
米国株式は魅力的であり、選挙結果に関係なく、穏やかな成長、金利の低下、AIからの構造的な追い風によって下支えされるだろう。法人税の引き下げと金融およびエネルギー・セクターの規制緩和が実現すれば、トランプ氏の再任期において更なる追い風となるだろうが、関税の影響を受ける貿易関連企業には逆風となるだろう。
トランプ氏の勝利は、中国から米国への輸出品に対する関税が大幅に引き上げられる可能性を高め、中国株式の見通しにはマイナスだ。その点で、初期の市場のネガティブな反応は妥当な動きだ。一方で、中国株式はすでに割安であり、中国政府は景気刺激策の支出をより積極的に前倒しする可能性がある。11月8日に終了する第14期全国人民代表大会(全人代)常務委員会会議では、重要な発表が予想される。
債券は、最近数週間で利回りが大幅に上昇し、ここ数時間でさらに上昇している。現在の高い利回りは、魅力的な利回りを確保し、ポートフォリオの分散効果を高める機会を提供していると考える。ただし、選挙の勝者に関係なく、金利は今後低下すると予想する。
通貨は、トランプ氏勝利を見越して米ドルが強含んでおり、実際にトランプ氏が勝利すれば、短期的にさらに強含む可能性がある。中期的には、勝者に関わらず米ドルは下落すると予想する。
最後に金価格は、米ドルの上昇と米国の金利上昇にもかかわらず横ばいで推移している。しかし、地政学的および経済的不確実性に対する貴重なヘッジ手段であることから、トランプ氏またはハリス氏勝利のいずれのシナリオにおいても、今後6カ月および12カ月でさらなる上昇を予想する。
最高投資責任者
UBS Global Wealth Management
Mark Haefele
さらに詳しく
プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。
ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。