Daily Asia

強弱まちまちの米雇用統計を受け、株価下落

8月の米雇用統計は、米国の景気後退懸念を払拭できる内容ではなく、市場は悲観的に受け止めた。しかし今回の結果は、米国経済がソフトランディングに向かうという我々の見解と一致している。

何が起きたか?

S&P500種株価指数は6日に1.7%下落した。8月の米雇用統計が、米国の景気後退懸念を払拭できる内容ではなかったためである。

S&P500種は景気不安により1週間で4.2%下落し、週間ベースでは2023年3月以来の大幅な下げとなった。テクノロジー・セクターが売りを主導し、米国主要テクノロジー10銘柄で構成されるNYSE FANG+指数は1日で4.2%下落した。リスクオフ・ムードの中で債券価格は上昇し、米国10年国債の利回りは1週間で3.90%から3.72%に低下した。

米国の8月の非農業部門雇用者数は前月比142,000人増となり、市場予想(162,000人)を下回った。また、6月と7月分も合計で86,000人下方修正された。これにより、雇用者増加数の3カ月移動平均は116,000人となり、2020年半ば以来の低水準となった。

雇用統計の中で投資家が注目したのは、失業率の低下や賃金上昇ペースの加速といったプラスの側面よりも、こうした雇用者数増加ペースの鈍化だった。結果として、米連邦準備理事会(FRB)の政策金利引き下げが遅すぎるのではないか、そして急激な景気後退のリスクが高まっているのではないかという市場の不安が増幅することとなった。

今後の見通しは?

市場は雇用統計を悲観的に受け止めた。ここから示唆されるのは、経済の底堅さがより確かな証拠で裏付けられるのを、多くの投資家が期待していたということである。

しかし今回の結果は、米国経済がソフトランディング(軟着陸)に向かうという我々の見解と一致している。雇用者数の伸びは鈍化しているものの、依然としてプラスである。前月に4.3%へ上昇した失業率は、4.2%と小幅な低下に転じ、過去のデータから見ても低水準だ。また、平均時給は前年同月比3.8%上昇と、前月の3.6%から伸びが加速し、市場予想も上回ったことから、家計も下支えされるだろう。

米国の労働市場が緩やかに鈍化する中、投資家にとって次の焦点は、8月の消費者物価指数(CPI、9月11日発表)と小売売上高(米連邦公開市場委員会(FOMC)初日と同じ9月17日発表)だろう。個人消費は予想以上に堅調に推移しており、経済成長を支える重要な要素となっている。現時点では、中間所得層の消費者が失業への恐れから支出を急激に減らすとは考えていない。

さらに、FRBは今月のFOMCで利下げを開始した後、年内残り2回の会合でもさらに利下げを行うことで、景気を支えると予想する。ただし、最近の経済指標は、FRBがより積極的な利下げを行う根拠になるほど弱い内容ではないと考えている。

どのように投資するか?

夏場に一時的な株価急落はあったものの、株式のファンダメンタルズ(基礎的条件)は依然としてポジティブであると考えている。我々はS&P500種構成企業の増益率を、今年は11%、2025年は8%と予想している。また、過去のデータを見ると、同指数はFRBの最初の利下げ(景気後退時を除く)から12カ月で平均17%上昇している。

ただし我々は投資家に対し、ボラティリティ(相場の変動率)の上昇に備えることを勧めている。経済や政治情勢の不透明感は続くとみられるため、強い競争優位性と盤石な収益源を持ち、構造的な成長要因に支えられている高クオリティ企業に重点を置くのがよいだろう。こうした企業は、景気への懸念が高まった局面において、特に底堅さを発揮するとみている。

投資家には、利下げへの備えも引き続き勧める。下げ幅が25ベーシスポイント(bp)か50bpかはともかく、FRBは今月の会合を皮切りに、利下げサイクルを始める見通しであり、金利は現在の水準よりも大幅に低くなるだろう。他の主要中央銀行も利下げサイクルを継続するとみられるため、キャッシュの利回りは足元の水準から急速に低下する可能性がある。我々は、投資適格債や分散型債券投資戦略、および安定高配当の高クオリティ銘柄から、キャッシュよりも魅力的なリスク・リターン(リスクに見合ったリターン)が得られると考えている。また、グローバルな投資戦略において、米ドルをアンダーウェイトに引き下げ、ユーロ、英ポンド、豪ドル、スイス・フランをオーバーウェイトとしている。この4通貨は、2025年6月にかけて対米ドルでの上昇が見込まれる。

最後に、固有のリスクを許容できる投資家は、オルタナティブ資産をポートフォリオに組み入れることも有効だと考える。例えば一部のヘッジファンド戦略は、過去にボラティリティが高まった時期に、ポートフォリオを安定させ、リターンを生み出す効果を発揮してきた。プライベート・エクイティを通じて、人工知能(AI)関連企業を含む、未上場の成長企業に投資する機会を得ることもできる。

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本稿は、UBS AG Singapore Branch、UBS AG、UBS AG London Branch、UBS Switzerland AG、UBS Financial Services Inc. (UBS FS)およびUBS AG Hong Kong Branchが作成した “Daily Asia: Equities fall on mixed US jobs data” (2024年9月9日付)を翻訳・編集した日本語版として2024年9月9日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。

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