日本株式

バリュエーションはより妥当な水準に

日本株式のバリュエーションは、より妥当な水準に低下した。持続的な株価の回復は、米大統領選後となる可能性が高いが、短期的にはドル円の値動きが安定すれば、目先で反発する可能性はある。

  • 世界的なリスクオフ・ムードの高まりと急速な円高を受けて、東証株価指数(TOPIX)は直近高値から8%下落した。だが、現在のドル円相場はわずか2カ月前の水準に戻ったにすぎないため、最近の円高がTOPIXの1株当たり利益(EPS)見通しに与える影響は限定的だと考える。
  • TOPIXの株価収益率(PER)は14.7倍に低下しており、ファンダメンタルズ(基礎的条件)を考えると、この水準が底だとみている。だが、足元の高いボラティリティ(相場の変動率)と、ドル円相場、米国テクノロジー企業の決算、米国のマクロ経済指標といった不透明要素を踏まえると、株価のV字回復を示唆するほど極端に割安とは言えない。
  • 10月までファンダメンタルズ面での材料に欠けることや、季節的に低調な相場、米大統領選挙前にボラティリティが上昇する可能性から、より持続的な株価回復は11月以降となる可能性が高いだろう。

我々の見解

今までのところ7月の日本の株式市場の変動は、概ね米国市場に起因するものだが(センチメントがリスクオンからリスクオフへと急速に変化)、過去2週間は急速な円高が日本株式に対してさらに重石となっている。2024年末にかけて、そしてそれ以降も日本株式が持続的に上昇するという我々の見通しは変わらないが、米大統領選挙を控えて、ボラティリティは当面高い状況が続くだろう。バリュエーションは妥当な水準に調整したものの、ドル円相場が落ち着くまで、短期的に日本株式は値動きの大きな展開となる可能性が高い。

短期的にはドル円に注目(米国経済指標、FRB、日銀)

最近の急激な為替変動が、市場センチメントと日本株式相場に悪影響を及ぼしている。円は対米ドルで、7月上旬の161円から153円に急騰した。だが、現在のドル円相場はわずか2カ月前の5月の水準に戻ったにすぎず、最近の円高がTOPIXのEPS見通しに与える影響は限定的だと考える。

TOPIXのPERは14.7倍に低下し、ファンダメンタルズ(基礎的条件)を考えると、同水準が底だとみている。だが、足元のボラティリティと、ドル円相場、米国テクノロジー企業の決算、米国マクロ経済指標といった不透明要素を踏まえると、このバリュエーションは株価のV字回復を期待するほど割安とは言えない。

また、上半期決算時の通期計画上方修正や実質賃金上昇率のプラス転換といったファンダメンタルズ面のカタリストは、10月まで期待しにくい。したがって、株価の持続的な上昇は米大統領選挙の終了後になる可能性が高く、それまではレンジ取引に終始するだろう。

1米ドル153円であればTOPIX EPSに与える影響は限定的

企業利益に対する影響に関しては、2024年3月期(2023年度)の平均為替レートが1米ドル=146円(上期141円、下期149円)であったため、足元のレート153円であれば、EPSは前期比でプラス寄与を維持する。また、2024年度の業績予想を見ると、企業が想定する為替レートの平均は144円であるため、実際のレートが153円であれば、上期決算時に通期会社計画の上方修正余地があると考える。

米国経済が大きく減速し、米連邦準備理事会(FRB)が急速に利下げサイクルを進めれば、一方的に円高に進むリスクとなるだろうが、我々の基本シナリオではそのように想定していない。CIOの為替チームによる2024年9月、12月、2025年3月、6月のドル円予想は、それぞれ158円、155円、153円、150円である。つまり、ドル円は今の水準からまず155~158円に上昇し、その後長期的な下落トレンドに向かうとみている。全体としては、米国経済は緩やかに減速し、FRBも四半期に1度の緩やかなペースで利下げを実施すると想定しているため、ドル円についても急激ではなく徐々に下落すると予想する。

大局的に見れば、米国の経済指標も悪材料ばかりではない。6月の小売売上高は市場予想を上回り、アトランタ連銀のGDPナウの予想値も2.6%に上方修正されている。だが、円相場が安定するまでは市場の不安がくすぶり、日本株式は不安定な状態が続くだろう。

長期的な構造変化に投資する

日本の2つの大きな構造的変化であるインフレ率および賃金上昇と、コーポレートガバナンス改革は、引き続き日本株式の重要な投資テーマになるだろう。こうした変化は2024年末から来年にかけて日本株式をさらに押し上げると予想する。だが、足元はボラティリティが高く、11月の米大統領選挙終了まではレンジ取引に終始するとみている。

短期的に不安定な相場だが、2024年末から来年にかけてさらなる上値が期待できる

日本企業の4–6月期(第1四半期)決算発表が始まった。底堅い米国経済と円安が追い風となり、増益率は8~10%と予想するが、これが株価を大きく押し上げる要因にはなりにくいだろう。というのも、第1四半期の決算発表時に通期業績見通しを上方修正する日本企業は少ない傾向がある上、最近の円高への動きもあって業績修正は期待できず、短期的にカタリストに欠けるからだ。

また、ここまでの世界のテクノロジー企業の決算発表を見ると、実績がコンセンサス予想を上回ったとしても、先行きの会社計画がコンセンサスを下回れば株価は下落する傾向にある。投資家の期待値はすでに高く、株価上昇のハードルは短期的に上がっている。マクロ経済の観点では、仮にFRBが9月に利下げを開始すれば、短期的にドル円のボラティリティは一段と高まるだろう。さらに、夏場は日米ともに株式相場が弱含む傾向にある(図表2参照)。また、米大統領選挙前には不確実性が高まるため、ボラティリティも上昇しがちである。過去のトレンドを見ると、選挙に向けて9月以降はボラティリティが高まり(図表3参照)、S&P500種株価指数は選挙前の数カ月間弱含む傾向にある。

11月の選挙終了後は、不確実性の払拭に加えて、日本企業の上期決算での業績上方修正と、実質賃金上昇率のプラス転換(直近の円高がこのトレンドを下支えするだろう)が株価を牽引するものと予想する。さらに2025年は、今年のインフレ率を反映した持続的な賃金上昇、自己資本利益率(ROE)の向上や企業価値の改善をさらに意識したコーポレートガバナンス改革の進展、新規の少額投資非課税制度(NISA)への資金流入など、多くのカタリストが待ち受ける。

バリュエーションはより妥当な水準に

TOPIXのPERは、7月上旬は15.7倍まで上昇していたが、現在は6月下旬の水準である14.7倍まで低下した(図表4参照)。MSCIオール・カントリー・ワールド指数(ACWI)のPERが17.7倍であるのに対し、TOPIXはそれを17%下回っており、ディスカウント幅は2023年以降の平均(13%)からわずかに拡大している。ドル円の値動きが安定すれば、株価が目先で反発する可能性はある。だが、より持続的な株価の回復は、11月以降となる可能性が高いだろう。

構造改革と循環的な回復に引き続き注目

2024年下期も、ファンダメンタルズとクオリティに注目する。

• 銀行株と不動産株を引き続き選好する。金融政策などマクロ経済的要因から短期的に株価が左右されたとしても、両セクターは日本の2つの大きな構造的変化であるインフレ率および賃金の上昇とコーポレートガバナンス改革の恩恵が大きいとみている。

• 我々は、電子部品関連銘柄など、出遅れの景気循環株に対するエクスポージャーを徐々に増やしている。こうした企業の業績は、在庫調整が終了し、需要が回復することにより改善が期待される。人工知能(AI)関連株は最近、株価が25~30%調整しており、リスク・リターン(リスクに見合ったリターン)水準が改善した。とはいえ、世界の大手テクノロジー企業の4-6月期決算が出揃うまで、ボラティリティは高い状況が続くとみる。

• 円高リスクが徐々に意識される足元の状況に鑑みて、国内事業の構成比率が高く、為替の影響を受けにくい、独自の成長ドライバーを備えた内需株へのエクスポージャーも徐々に増やしている。

•高配当銘柄も、個人投資家からの資金流入が続いており魅力的だ。コーポレートガバナンス改革への期待の高まりが、株主還元強化につながる公算が大きいと考えられる。

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本稿は、UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社が作成した“Japanese equities: Valuation has adjusted more reasonable levels but short-term volatility is likely to remain”(2024年7月26日付)を翻訳・編集した日本語版として2024年7月30日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
小林 千紗

UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社
チーフ・インベストメント・オフィス
ストラテジスト

小林 千紗

さらに詳しく

チーフ・インベストメント・オフィスにて、ストラテジストとして株式の調査分析、テーマ投資、SI投資などを担当。投資銀行部門での経験を活かし、幅広い業種についてマクロ・ミクロの視点から投資見解を提供している。


2013年11月に入社。それ以前は米系・欧州系証券会社にて株式アナリストを務める。

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