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米IT決算、高い期待を超えられず株価下落

米国大手企業数社のさえない決算内容を受け、S&P500種株価指数は7月24日に2.3%下落した。相場は足元下落しているが、今後発表される決算は、投資家の期待を支える内容になる可能性が高いと考える。

何が起きたか?

S&P500種株価指数は24日に2.3%下落した。これは、米国大手企業数社の決算発表内容がさえない結果となったためである。米IT大手持ち株会社は、4-6月期(第2四半期)の業績が市場予想を上回ったものの、人工知能(AI)関連の設備投資増加に対する投資家の懸念の方が強く表れたことで、株価は5%下落した。堅調な決算内容にもかかわらず株価が下落したことは、テクノロジー企業の見通しに対する市場の楽観的な見方によって、企業が越えるべきハードルが上がっていることを示している。米電気自動車(EV)大手は、需要の低迷や、顧客向け特典にかかる費用の増加により、利益率が過去5年超ぶりの低水準であるとの決算発表を受け、大幅安となった。さらに、米クレジットカード大手は、低所得層の支出鈍化が響き、利用額の緩やかな減速が続いた。

株価指数の下落を主導したのは、急成長を遂げている主要なテクノロジー企業だ。米国で特に取引の多いテクノロジー株10銘柄に連動するNYSE FANG+指数は5.5%下落した。テクノロジー株の比率が高いナスダック総合株価指数は3.6%下落した。しかし注目すべきは、「均等加重」のS&P500種株価指数がわずか1.2%の下落にとどまったことである。時価総額加重の同指数ほど下落していないことから、下落が幅広い銘柄に及んでいるわけではないことが見て取れる。

政治的不確実性も依然として高い。バイデン大統領が21日に、大統領選への出馬を取りやめたことを受け、ハリス副大統領が本格的に選挙戦を開始した。S&P500種株価指数は先週も1週間で約2%下落しており、今回の下落は4月以降最大の下げ幅である。

この動きをどう考えるか?

年初から約20%上昇していた株価が、いずれかの時点で調整される可能性は常にあった。最近、S&P500種株価指数が順調な上昇を見せたのは異例のことである。同指数は、350営業日以上にわたって2%超の下落がなく、過去17年間で最高のパフォーマンスとなっていた。週次では、7月8~12日の週までの過去37週間のうち、約75%にあたる28の週で上昇しており、長期にわたる上昇基調が続いてきた。そして、市場が下落するのは珍しいことではない。1927年まで遡るデータに基づくと、日次リターンが1~2%のマイナスとなった日は、全体の約8%を占める。

さらに投資家は、AIの商業化に関する多くのポジティブなニュースをすでに織り込んでおり、テクノロジー企業に対する期待値は上がっている。世界最大の半導体受託生産会社は最近、AIチップの需要が2026年までは供給を上回るとの予想を示し、2025年というこれまでの予想を修正した。世界最大手の半導体製造装置メーカーも、2025年にかけて力強い需要が続くとの見解を示している。

相場は足元下落しているが、今後発表される企業決算は、投資家の期待を支える内容になる可能性が高いと考えている。利益成長の勢いが若干鈍化している兆候は今後も現れるとみているが、ここまでの決算結果は、S&P500種構成企業の1株当たり利益(EPS)成長率が10~12%になるという我々の予想に一致するものであり、実現すれば過去2年超で最高の結果となるだろう。

また、最近の上昇相場を主導してきたのは、成長著しいテクノロジー銘柄の「マグニフィセント・セブン」だが、我々はその他の銘柄にも利益成長が広がると予想する。今回の決算シーズンでは、2022年以来初めて、マグニフィセント・セブンを除いたS&P500種構成企業(「S&P493種」)のEPSにも成長がみられる可能性が高い。我々は、このように利益成長が広がることで、最近の株価上昇はより持続可能なものになると考える。また、インフレが鈍化しており、米連邦準備理事会(FRB)が9月の会合で利下げに踏み切る条件が整いつつあるため、金融政策の緩和も市場を支えると予想する。投資家は今週後半に発表される経済指標によって、インフレ率がFRBの目標である2%に向けて鈍化しているというさらなる証拠が示されるのを期待している。

どのように投資するか?

投資家は一時的な相場の下落に備えるべきである。株式市場では、これまで長期にわたり強い上昇基調が続いてきた。それでも、S&P500種は再び上昇基調にのり、現時点での5,427から年末までに5,900まで上昇すると予想する。金融緩和およびAIインフラ投資とアプリケーション開発の加速が支援材料となるだろう。このような背景から、投資家にはいくつかの戦略の検討を勧める。

AIへの投資機会を捉える:AI市場の潜在力は極めて大きい。我々はAIが今後数年にわたり株式市場のリターンの主な牽引役になるとみている。投資家にとって重要なのは、AIへの十分な投資を長期間維持することだろう。現時点で最も投資妙味が高いセグメントは、AIバリューチェーンのイネーブリング層(AI技術への投資拡大が追い風となるイネーブリング技術分野)と、バリューチェーンに沿って競争優位性を維持している、米国と中国の垂直統合型メガキャップ(超大型株)だとみている。

クオリティ・グロース株に投資する:株式投資全般においてクオリティ・グロース株(高クオリティの成長株)への投資を推奨する。最近の増益率を牽引しているのは、競争優位性を維持し、構造的な成長要因により長期的な成長と利益の再投資を実現している企業が中心である。この趨勢は今後も続くとみており、投資家にはこの恩恵を享受するために、クオリティ・グロース株への配分比率を高めることを勧める。

利下げに備える:経済成長率とインフレ率が減速し、中央銀行が利下げを開始するに伴い、債券市場には大きな投資機会があるとみている。キャッシュやマネー・マーケット・ファンド(MMF)を保有している投資家は、クオリティの高い社債や国債に投資することを勧める。市場の織り込む金利の下げ幅が拡大するにつれ、債券価格の上昇が見込まれるからだ。また、今後数カ月は、幅広く分散された債券投資戦略も良好なパフォーマンスが期待できる。さらに、欧州市場において、利下げの恩恵を受けることができる投資戦略も勧める。

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本稿は、UBS AGが作成した“CIO Alert: Stocks retreat as earnings fail to inspire” (2024年7月24日付)を翻訳・編集した日本語版として2024年7月25日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
Mark Haefele

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management

Mark Haefele

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プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。

ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。

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