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バイデン氏、米大統領選から撤退表明

今後は、民主党の新たな候補者として誰が承認されるか、政策上の優先事項に大きな変更が生じて市場に影響を与えないか、そして新しい候補者の選出により、11月にトランプ氏に勝利する可能性が高まるのかが焦点となるだろう。

何が起きたか?

バイデン大統領は2期目に向けた出馬を取り下げ、民主党候補者としてハリス副大統領への支持を表明した。6月27日に行われた共和党候補のトランプ前大統領とのテレビ討論会で、バイデン氏が精彩を欠くパフォーマンスを見せてから、数週間を経ての発表となった。

バイデン氏が次の4年間の職務を全うできるか懐疑的な民主党幹部や主要な寄付者からは、選挙戦からの撤退を求める声が強まっていた。一方のトランプ氏は、7月13日に発生した暗殺未遂事件後、全米はもとより激戦州でも、世論調査でリードを広げていた。民主党は、8月19~22日にシカゴで開催される民主党全国大会で新しい候補者を選出する必要があり、ハリス氏が指名されるとの見方が有力だ。

今後の見通しは?

今後は、民主党の新たな候補者として誰が承認されるか、政策上の優先事項に大きな変更が生じて市場に影響を与えないか、そして新しい候補者の選出により、11月にトランプ氏に勝利する可能性が高まるのかが焦点となるだろう。

第1に、バイデン氏が撤退とハリス氏への支持を表明したことで、ハリス氏は候補者指名を獲得するための有利な立場に立っている。それでもハリス氏は、バイデン氏を支持する義務がなくなった代議員に対して、11月にトランプ氏を破るために最も適した候補は自分であることを、党大会の場で納得させなければならない。我々はハリス氏が、バイデン氏の政策の踏襲、副大統領として経験、そして女性や若年層、人種マイノリティの有権者に対するアピール力を強調するとみている。

党大会前に他の候補者が現れる可能性もあり、ハリス氏を上回る好感度の高さをアピールできる一部の州知事の名前も挙がっている。しかし、ハリス氏にはもう1つの大きな強みがあり、それが決定打となる可能性がある。バイデン陣営が米連邦選挙委員会(FEC)に提出した書類にハリス氏が登録されているため、バイデン陣営の選挙資金を使用する際の法的な障壁が、他の候補に比べて少ないという点だ。

第2に、民主党の新たな候補者が誰になったとしても、投資家の関心事に対する政策上の優先順位に大きな変化はないと考える。バイデン氏の政策の継続が最も明らかなのは、ハリス氏が候補者となった場合だろう。しかし、誰が候補になった場合でも、気候変動対策への注力、大企業に対する反トラスト法の施行強化、対中貿易規制の継続といったバイデン氏の方針から大きく逸脱することはないと予想される。

第3に、バイデン氏の再選の見込みは、テレビ討論会での不調によって低下していた。また、暗殺未遂事件にも屈しないトランプ氏の姿勢によって、同氏の支持基盤が強固になり、投票先を決めていない有権者を取り込む可能性もあるが、まだ定かではない。我々はバイデン氏の撤退表明前の時点で、トランプ氏が勝利する確率を60%と予想していた。

レッド・スウィープ(トランプ氏勝利、両院で共和党勝利): 45%
バイデン氏勝利、ねじれ議会(上院共和党/下院民主党): 30%
トランプ氏勝利、ねじれ議会(上院共和党/下院民主党): 15%
ブルー・スウィープ(バイデン氏勝利、両院で民主党勝利): 10%

バイデン氏の撤退により、大統領選はリセットされることになった。しかし、ハリス氏がバイデン氏の後継の民主党候補として指名される限りにおいて、選挙動向はそれほど大きくは変わらないと考える。米国の有権者は二極化が進んでおり、バイデン氏の支持者の多くは、候補者が変わったとしても、民主党への支持を取りやめることには消極的だろう。

今後数カ月間、両政党は11月の選挙でいかに票を獲得できるかに重点を置くことになる。民主党は若年有権者の支持を獲得する必要があり、共和党はトランプ氏を支持する有権者に対し、選挙当日に同氏へ確実に投票するよう促す必要がある。

また、バイデン氏が民主党候補になるという前提で実施された過去の世論調査の結果から、他の民主党候補者とトランプ氏との対決シナリオをむやみに想定することは控えたい。仮定ではなく実際の可能性に基づいた有権者からの支持率が世論調査に反映されるまでには、時間を要するだろう。

バイデン氏の異例の撤退決定は、民主党にとって大きな試練であるが、同時に共和党にとっても、新たな若い対抗馬に対して新しい選挙戦略を練る必要が生じる。

投資家はどのように対応すべきか?

選挙の結果は、特に一方の党がホワイトハウスと議会の両方を掌握した場合、投資家にとって重要な影響を及ぼす可能性がある。トランプ氏が勝利し、議会でも共和党が多数を占める「レッド・スウィープ」の場合は、減税や規制緩和に対する市場の期待が高まる一方で、関税引き上げへの懸念が増大する可能性がある。規制緩和の恩恵を主に受けるのは金融サービスセクターであり、一方で輸入品に対する関税の引き上げは、グローバルなサプライチェーンを持つ米国企業にとって不利となる可能性がある。民主党政権の場合は、引き続きグリーンエネルギー、エネルギー効率化、電気自動車のメーカーを支援する政策を推進するだろう。

短期的には、投資家が一連のニュースを消化する中で、相場の変動がいくぶん高まると予想される。最近の市場のモメンタムは共和党に有利で、ここ数週間で共和党勝利で有利なセクター(レッド・セクター)へのシフトと、民主党勝利で有利なセクター(ブルー・セクター)離れが見られた。しかし、この動きは今後数日間で、少なくとも部分的に巻き戻される可能性がある。

とはいえ、投資家は、米国の選挙結果が、金融市場のリターンやセクターのパフォーマンスを左右する最大の要因ではないことを忘れてはならない。経済指標や米連邦準備理事会(FRB)の利下げ見通しも、同様に重要である。さらに、11月の選挙までに多くのことが変わる可能性があり、さまざまな結果が依然として想定される。

したがって投資家は、自身の予想や政治的嗜好に基づいてポートフォリオ戦略を大幅に変更することを控えるべきである。むしろ、ポートフォリオの分散強化や、利回り収入が得られる投資方法など、選挙を取り巻くリスクに備えた戦略を幅広く検討することを勧める。

我々の基本シナリオでは、S&P500種株価指数が、本稿執筆時点の5,505から、年末には5,900付近まで上昇すると予想する。これは概ね、どの政治シナリオにおいても有効である。ただし、民主党の圧勝で法人税が引き上げられる場合や、トランプ氏が選挙演説で提案したような高い関税を課すシナリオを除く(現時点では、いずれの可能性も低いと予想)。さらに、米国の主要テクノロジー企業に対する楽観的な見通しは、政治的不確実性による影響を上回ると考える。

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本稿は、UBS AGが作成した“CIO Alert: President Biden withdraws from the race.” (2024年7月21日付)を翻訳・編集した日本語版として2024年7月22日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
Mark Haefele

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management

Mark Haefele

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プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。

ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。

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