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イランへの攻撃で緊張が続く中東情勢
イランの空軍基地付近で19日、イスラエルによるとみられる攻撃があったとの報道を受けて、株式市場は下落し、安全資産が買われた。中東での攻撃と緊張は今後数カ月間続くものの、イスラエルとイランの大規模な直接的衝突は免れるとみている。
2024.04.22
何が起きたか?
イランの空軍基地付近で19日、イスラエルによるとみられる攻撃があったとの報道を受けて、株式市場は下落し、安全資産が買われた。イスファハンにある基地近くでの爆発は、13~14日にイランがかつてない規模で行ったドローン(無人機)とミサイルによる直接攻撃に対するイスラエルの報復とみられている。米国債や金(gold)などの安全資産に買いが集まる一方、19日のS&P500種株価指数は0.9%下落した。米10年国債利回りは1ベーシスポイント(bp)下落して4.62%となった。金は約0.2%上昇して1オンス2,403米ドルをつけた。両国の衝突が原油供給に影響するとの懸念から、ブレント原油は0.1%上昇して1バレル87米ドルとなった。米国株式の予想変動率を示し、投資家の不安の指標とされるVIX指数は、昨年10月以来の高水準に上昇した。
報道によると、今回のイランへの攻撃で大規模な被害はなく、犠牲者も出なかったとされている。そのため、この攻撃が報復合戦につながることはないとの期待が高まった。とはいえ、情勢は依然として流動的であり、投資家の警戒は高い状況が続くだろう。
米国の高金利が長引くとの懸念からリスク資産への圧力がすでに強まっていたところに、今回のイランへの攻撃が起こった。16日にパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長が、ここ数カ月の想定を上回る強いインフレ指標を受けて、利下げ開始時期が遅れる可能性があることを示唆した。投資家は、本格化してきた米国企業の1–3月期(第1四半期)決算シーズンが好調な結果となり、信頼感の回復につながることを願っているだろう。
今後の見通しは?
イランとイスラエルの次の一手が重要になる。最近イランは、イスラエルの攻撃には即座に強硬な対応をとると警告しており、18日には、核施設が攻撃を受ければ核政策を見直す可能性があると述べた。イスラエルは、イランによる核爆弾の開発は実在する脅威だとみている。だが現時点で、イランの国営メディアは、今回の攻撃の被害は軽微だとしており、国際原子力機関(IAEA)もイランの核施設への被害はなかったことを確認している。今回の攻撃がイスラエルによるもので、目先で追加的な報復措置がないと仮定すれば、13日のイランによる攻撃への慎重な対応として限定的な攻撃にとどめたものとみられる。
我々はイラン、イスラエル、米国のいずれも、これ以上中東情勢を緊迫化させる意図はないとみているが、誤算は起こり得る。現時点で入手可能な情報を踏まえると、イランとイスラエルはともに、自国への攻撃に対して、相手方の反応をエスカレートさせない程度に何らかの形で報復するという際どい動きを取ろうとしていると考えられる。我々の基本シナリオでは、中東での攻撃と緊張は今後数カ月間続くものの、イスラエルとイランの間で大規模な直接的衝突が起き、他国を巻き込み、原油の供給に影響が出る事態は免れるとみている。
だがこの1週間で、こうした大規模衝突の可能性が著しく高まった。誤算は別として、イスラエルおよびその同盟国とイランの代理勢力との戦闘が継続する限り、関係当事者の予測とリスク評価もまた、いとも簡単に変わりうることを意味する。
投資方針
昨年10月後半から株式相場は堅調に上昇してきたが、ボラティリティ(相場の大幅変動)が再び戻ってきた。地政学的リスクが高い状況が続き、市場が米国の利下げ開始時期が遅れる可能性を織り込むことで、当面は値動きの荒い相場が続くだろう。だが、我々は、国際紛争の激化を警戒して投資を止めてしまうことには警鐘を鳴らす。原油供給や貿易ルートに深刻な混乱が生じなければ(依然としてリスクはあるが)、こうした地政学的対立の影響は短期間で収束することが多い。1941年の日本の真珠湾攻撃以降、危機発生後の12カ月のうち、その3分の2の期間においてS&P500種株価指数は上昇している。市場がわずか1カ月で回復している場合も多い。
むしろ、相場回復局面を捉えるために、ポートフォリオの強靭性を高めるオルタナティブ投資を勧める。さらなる中東情勢の悪化に備える有力な選択肢として、引き続きブレント原油を勧める。金や米国債への資産配分もまた、状況悪化に対するプロテクションの役割を果たすだろう。経済状況の面からみても、これら資産は底堅く推移し、基本シナリオの場合でもプラスのリターンを上げるだろう。
また、マクロ・ヘッジファンドも選好する。金利サイクルの変化を利用できるだけでなく、地政学の変化にも対応しやすいからだ。最後に、システマティック戦略は経済トレンドや市場トレンドの変化に対応してポートフォリオの株式配分を機動的に調整し、リスク管理体制を強化できる。