Year Ahead 2024
新しい世界
全世界を揺るがしたパンデミックの経済的および政治的な余波は、数年経過してもなお継続している。そして我々は今、新しい世界を迎えている。そこで求められるのは、計画を立て、バランスをとり、規律を守りつつ機動的に動くことだ。
2023.11.16
人類史上、パンデミックによって各国政府が経済を強制的、かつほぼ世界同時に封鎖し、その後未曽有の景気対策で生き返らせたことは、いまだかつてなかった。結果として、どうなったか?インフレが復活し、労働市場がひっ迫し、金利、債券利回り、そして政府債務が急上昇した。それと同時に、産油地域における紛争、成熟化する中国経済、そして自国中心主義の製造業政策や環境対策によって、世界の地政学も変化しつつある。さらに、大国が交戦状態に入るという従来型の脅威が再燃する一方で、人工知能(AI)の普及により人間のあり方も大きく変わる可能性がある。
こうした状況は我々を新しい世界へと導いている。そこは、経済的な不確実性と、地政学および環境をめぐる不安定な状況が広がる一方、テクノロジーも目覚ましい変化を遂げる世界である。
2024年をどう予想するか?
第1に、2024年は、米国の消費者がさまざまな逆風に見舞われ、米国経済の成長が減速すると予想する。欧州については、低成長が続くと見込む。一方、中国は、経済成長率が鈍化しつつも質の高い成長が見込まれる「ニューノーマル(新常態)」に移行するだろう。こうしたマクロ環境を踏まえると、株式では、テクノロジー・セクターを含め、高クオリティ銘柄への投資配分を増やすことが有効だと考える。高クオリティ銘柄は、たとえ世界成長が減速しても利益成長が期待できるからだ。
第2に、2024年には主要な中央銀行が利下げを開始すると予想する。足元の市場は金利の高止まりがニューノーマルになるとのリスクを過分に織り込んでいるようだが、国債の利回りは2024年には低下に向かうと我々は予想する。したがって、今後はキャッシュへの配分を抑え、相対的にクオリティの高い債券へ投資することで利回りを確定することを勧める。
第3に、2024年は政治の影響が強まると予想する。米国大統領選挙、イスラエル対ハマス、ロシア対ウクライナの両紛争、長引く米中対立など、いずれも世界市場に影響を及ぼす可能性がある。さらに、財源なき大型財政出動という政治判断が行われれば、基本シナリオの経済予想に対して上振れ・下振れ双方の投資リスクを生み出す。こうした状況に備え、投資家は市場リスクをヘッジする必要がある。2024年は、マクロ・ヘッジファンド、原油・金(gold)投資などが、ヘッジ手段として注目できるだろう。
変革の10年
今後10年については、AIの影響、中国経済の成熟化、クリーンエネルギーへの転換、そして世界債務水準の上昇による影響がさらに拡大すると予想する。
AIは今後、幅広いセクターで有意義な価値創造を加速させるだろう。目下のところ、投資家の注目は、AIのハードウェアやプラットフォーム関連銘柄に集まっているが、アプリケーションへの波及のすそ野は今後さらに広がると期待される。
中国はニューノーマルが視野に入りつつある。従来の成長モデルが限界に達していることから、経済成長率は過去20年の通常値よりも減速する可能性が高い。中国投資については、付加価値の高い製造業の促進、グリーン経済への転換、自給自足経済の強化など、中国政府の重点課題分野に沿った投資が最も有効と考える。
気候変動や国家安全保障をめぐる懸念も高まっており、これが脱炭素化への世界的な転換を後押しするだろう。カーボンゼロ経済への完全な移行は、複雑な問題が絡み、実現は決して容易ではない。だが、脱炭素化に向けた大規模投資は、環境関連技術を提供する企業にとっては高成長の機会となるだろう。
技術・環境・エネルギー分野から物理的なセキュリティ、さらに高齢化対策と政府による投資が拡大していることから、政府債務残高は今後さらに上昇する見通しである。政府債務が増加すれば、債券市場のボラティリティ(相場の変動率)上昇を招くとみられるが、他方、プライベート市場が資金を提供する機会も増えるだろう。こうしたトレンドに鑑みれば、資産クラス固有のリスクを許容できる投資家にとって、分散ポートフォリオにオルタナティブ資産を組み入れることの重要性が認識できる。
投資家は何をすべきか?
第1に、投資計画を明確に立てること。この新しい世界では、入手できるデータは増えているが、それらが有益な情報であるとは限らない。ソーシャルメディアの普及が進んだことで、データ量はかつてないほど増幅している。その結果どうなったか。ストーリーが行動に及ぼす影響力が高まり、情報(あるいは偽情報)が市場を動かすスピードが加速し、世論がわずか数日で反転し得るようになった。だが、明確な計画、そして投資目標と価値観に沿った戦略があれば、このようなノイズが多い環境下でも、大局を見失わず投資に集中することができる。
第2に、投資先のバランスを図ること。我々の基本シナリオでは、2024年はバランス型のポートフォリオがプラスリターンを上げると予想しており、マルチアセット型の分散投資はリスクシナリオ下でのヘッジ手段としても効果的であると分析している。長期的には、マルチアセット分散型ポートフォリオ(従来型、サステナブル投資型を問わず)をコア投資戦略とする投資家は、資産をリスクから守り成長させる可能性が高いと考える。
第3に、規律を守りつつ機動的に動くこと。規律は投資を成功させる鍵となる。「コア」戦略が適切ならば、「重要なのは投資のタイミングではなくタイム、すなわち投資を継続する時間である」という投資格言は、長期的に見れば正しい。だが、それと同様に、市場は絶えず動き、投資家のニーズは変化する。したがって、投資家は戦略的(中長期的)および戦術的(短期的)資産配分、そして「サテライト」部分の投資アイデアを定期的に見直す必要がある。
「古い世界」からの教訓
新しい世界に足を踏み入れるとき、不安を感じるのは当然である。だが、1900年以降、世界は2つの世界大戦、9回のパンデミック、数百の内戦や地域紛争、2,000回以上の核実験、世界最大国と人口最多国での革命、少なくとも12回のハイパーインフレ、15回を超える弱気相場、20回以上の景気後退局面、そして200回近い国債デフォルトまたは債務危機を経験してきたことを、我々は忘れてはならない。
投資に関して言えば、これらの苦難は我々に3つのことを教えてくれた。グローバル分散の価値、忍耐力の大切さ、そして最も大事なこととして、人類には立ち直る力と創造力があるということだ。
2024年の4つのシナリオ
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最高投資責任者
UBS Global Wealth Management
Mark Haefele
さらに詳しく
プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。
ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。