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米AI半導体規制強化は上昇相場の抑止力となるか?

6月27日、米バイデン政権が先端AIチップに対する輸出規制の厳格化を検討していると報じられた。AI関連株は今年堅調だが、下振れリスクを念頭に置く必要がある。

米国政府はこの数カ月、AI(人工知能)チップやデータセンター向けハードウェアの需要の急拡大を注視してきた。その中には、中国の大手テクノロジー企業からの引き合いもある。米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は27日、バイデン政権が中国向けを含む先端AIチップの輸出規制を強化すべく、従来の規制の抜け穴をふさぐ新たな措置を検討していると報じた。WSJによれば、国家安全保障上の理由で7月にも規制が厳格化されるとみられている。米半導体大手が中国市場向けに開発し、需要が伸びているAIチップに対する輸出規制や、中国のAI企業とのクラウドサービスの契約締結に対する制限も検討されている模様だ。

2023年に入り、AI関連企業株が堅調なパフォーマンスを見せていた。米国市場に上場する主要テクノロジー10銘柄で構成するNYSE FANG+指数は、AIの普及に対する市場の前向きな反応も追い風となり、年初来で66%の急上昇となった。生成AIの技術は、消費者と企業の双方にとって主流になりつつある。主要産業でのさまざまな使用事例が生まれることで、活用の幅がさらに広がっている。

規制の厳格化は予想されていたことではあるが、今回の報道が示すのは、AI関連株にも下振れリスクがあり、今後は同セクターをより冷静な視点で見たほうがよいということだ。

AI株の上昇は一時的なバブルではなく、多くの好材料が織り込まれている状態と言えよう。AIは市場への浸透が速く、用途も明確で、多額の投資を集めてきたことから、今後も長期にわたってAIへのシフトが続くだろう。我々はAIハードウェア・サービス市場の年平均成長率を20%と予想しており、市場規模は2025年までに少なくとも900億米ドルまで拡大すると考えている。一方で、AI関連株の株価収益率(PER)は約30~40倍で推移しており、テクノロジー銘柄全体の平均である25倍を大幅に上回る。AI関連株が市場全体より高く評価されるのは妥当と考えるが、一部の銘柄は企業のファンダメンタルズ(基礎的条件)に見合わないものであり、調整のリスクがある。急騰の反動から、AI関連株が近いうちに10~15%下落することも十分考えられる。

米国による対中半導体輸出規制は単なる1つの規制面での逆風に過ぎない。詳細は不明だが、今回の報道はAI関連企業の地政学と規制面でのリスクを浮き彫りにしている。バイデン大統領は20日、社会、経済、国家安全保障にAIが及ぼすリスクに対処する必要があるとの認識を示した。中国、英国、欧州、その他主要諸国は、AI活用に関する独自のルールの策定を行っている。テクノロジー及びそれが安全保障、倫理、雇用に及ぼす影響の規制に、世界の政策当局が異例ともいえる早い段階で乗り出していることを示すものだ。

供給の目詰まりと競争激化もリスク。半導体輸出の追加規制が導入された場合にデータセンター用チップの売り上げや需要にどの程度の影響が及ぶかを現時点で見積もるのは時期尚早だ。ただし、この規制による影響は米国やその他同盟諸国における旺盛な顧客需要ですぐに解消されるだろう。一方、AI関連の半導体不足と優秀なAI人材の不足がAI普及の当面のリスクであり、これが売り上げの重しとなりえる。また、米ガートナーが示すハイプ・サイクル(先進テクノロジーのサイクル)では、AIは黎明期にある。AI関連スタートアップは数多くあり、生成AI関連のユニコーン企業(評価額が10億米ドル以上、設立10年以内の非上場のベンチャー企業)は少なくとも10社ある。既存のサブスクリプションサービスなどとの競争の激化により、こうしたAI事業の利益率は上値が限られる可能性がある。

今回の米国の新規制の詳細はまだ不明だが、AI関連株については当面の間、株価のボラティリティ(変動率)が高まると予想される。地政学リスクのほか、業界再編リスクの高まりを勘案し、AIセクターへの投資においてはさらに選別姿勢を強めることを勧める。AIセクターで10%台半ばの株価調整が生じれば、AI関連銘柄への投資を再検討するよい機会となるだろう。テクノロジー銘柄の中では、一部の出遅れ銘柄やソフトウェアやインターネットの中のディフェンシブ銘柄などに、投資機会があると考えている。その他、株式の購入を検討する場合は、テクノロジー銘柄以外の出遅れ銘柄を勧める。例えば、米国株式より新興国株式、グロース株よりバリュー株、米国株式指数については時価総額加重平均よりも均等加重平均、そしてテクノロジー銘柄よりも生活必需品や資本財・サービス銘柄を検討されたい。

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本稿は、UBS Financial Services Inc. (UBS FS)、UBS AG、UBS AG Hong Kong BranchおよびUBS AG Singapore Branchが作成した“Daily US: Would new US AI chip restrictions upend the rally?”(2023年6月28日付)の一部を翻訳・編集した日本語版として2023年6月30日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。

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