CIO Alert

米国利上げサイクル長期化懸念が再燃

21日の米国市場は株式、債券ともに下落した。利上げ懸念、企業業績の低迷、地政学的緊張の高まりが市場のセンチメントの下押し要因となった。

何が起きたか?

21日の米国市場は株式、債券ともに下落した。利上げ懸念、企業業績の低迷、地政学的緊張の高まりが市場のセンチメントの下押し要因となった。

S&P 500種株価指数は2%下落し、全11セクターが下落した。先週発表された1月の米小売売上高 (季節調整済み)は個人消費の底堅さを示唆する内容だったが、大手小売企業の業績見通しはネガティブな内容となった。住宅リフォーム・建設資材・サービスの米小売大手は、2023年の業績見通しを市場のコンセンサス予想である若干の増益に対して1桁台半ばの通期減益見通しを発表した。また米大手スーパーマーケットチェーンも通期で予想を下回る減益見通しを発表した。

プレジデントデーの祝日明けの21日は、米連邦準備理事会(FRB)の利上げサイクルが長期化し、政策金利が高止まりすることへの懸念が投資家の間で高まった。米国10年国債利回りは14ベーシスポイント(bp)上昇して3.95%となり、今年最高を更新した。フェデラルファンド(FF)金利先物が織り込む利上げの最終到達地点(ターミナルレート)はさらに6bp上昇して7月に5.37%となり、12月の金利は5.19%が示唆された。

バイデン米大統領が欧州を訪問し、ウクライナへのさらなる支援を約束したことで、地政学的緊張は依然として高い状況にある。ロシアのプーチン大統領は21日、米国と交わした配備可能な戦略核弾頭の数を制限する新戦略兵器削減条約(新START)の履行を停止することを表明した。

今後の展開

市場のセンチメントは引き続き、米国経済が「ハードランディング」に向かうのか「ソフトランディング」に向かうのかで揺れている。

1月は、急速なディスインフレの兆候、世界経済成長見通しの引き上げ、主要中央銀行の利上げ停止が近づいたことを受け、ソフトランディングへの期待感から株式、債券市場ともに上昇した。しかし、予想を上回る好調な雇用統計と高止まりの続く米国のインフレ率を受け、その上昇は2月初旬に終了した。

当初、株式市場は足元の米国経済の強さに注目し、利下げへの転換期待と米国10年債利回りの両方を支援要因に、比較的健闘していた。しかし、需要の減少と、特に人件費を中心とした継続的なコスト上昇圧力で企業収益が圧迫されている兆候から、株式はさらなる圧力にさらされている。

FRBの政策金利のターミナルレートの予想値は2月の初め以降50bp上昇しており、米10年国債の利回りも同程度上がっている。S&P500種株価指数は年初からの上昇の半分程度下げた。FF金利のターミナルレートの市場予想は12月のFRBの予想中央値を超えており、これは3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げが予想されていることを示唆している。

経済が最終的に「ハードランディング」するにせよ「ソフトランディング」するにせよ、それまでの道のりで生じる経済成長とインフレの軌道には複数の組み合わせがある。我々は2023年内に米国の成長は減速しインフレ率も低下するとみているが、減速と低下の程度は定かではない。歴史的には経済成長とインフレの低下というマクロ環境においては、クオリティの高い債券のパフォーマンスが良く、一方で株式とリスクの高い社債のリターンは低下するかマイナスとなってきた。

地政学的な緊張に関して、米国がロシアへの軍事支援に関して中国に警告したと報道されている。中国の次のステップは和平計画を提示することだと予想されるが、バイデン米大統領が繰り返しウクライナ支援を実施していることを考慮すると、現時点では米国にとって受け入れがたいだろう。

投資見解

市場は、経済の「ハードランディング」と「ソフトランディング」の2つの潜在的な着地点の間で揺れ動いている。株式相場は2022年10月の安値から大きく反発しているが、これ以上上昇する要因にも欠けている。

昨年発行した「Year Ahead 2023」で、2023年はインフレ、金融政策、経済成長の「転換点の年」になると我々は述べた。この見方に変わりはないが、以前にも述べたように、年初の市場は穏やかなソフトランディング期待を過度に織り込んでいた。

21日の市場の下落は、こうした環境下では銘柄の選別が重要となることを改めて示唆するものであり、我々はそうした見方をポジションに反映している。高インフレ・景気減速の局面でアウトパフォームが期待される、ディフェンシブ株、バリュー株、インカム収入の機会を狙う戦略(高インカム銘柄等)をポートフォリオに組み入れることを勧める。また、市場が転換点の到来を織り込み始めたときに堅調なパフォーマンスが見込まれる一部の景気敏感株も併せて組み入れることを勧める。

米国では、高格付社債と投資適格社債を推奨し、株式とハイイールド社債を非推奨とする。その一方で、バリュエーションの魅力が高く、中国と欧州の経済成長の早期転換による恩恵が期待される新興国株式とドイツ株式を推奨する。また、インフレの長期化と金利の上昇を勘案すると、バリュー銘柄がグロース銘柄をアウトパフォームすると予想する。米国経済へのリスクを勘案し、ディフェンシブ銘柄にある程度のエクスポージャーを維持することも勧める。

地政学的イベントが金融市場に与える影響は短期にとどまることが多いが、ロシアによるウクライナ侵攻は約1年にわたっており、安全保障に長期にわたり強い影響を及ぼすだろう。政府や企業はコスト削減や効率性改善よりも安全保障と供給の持続性を優先してゆくと我々は考える。そうした環境下、コモディティ、グリーンテック、エネルギー効率化、農産品収穫量の向上、サイバーセキュリティの分野に投資機会が生まれるだろう。

全文PDFダウンロード
本稿は、UBS AGが作成した“CIO Alert: Stocks and bonds fall amid higher-for-longer rate concerns”(2023年2月21日付)を翻訳・編集した日本語版として2023年2月22日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
Mark Haefele

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management

Mark Haefele

さらに詳しく

プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。

ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。

最新CIOレポート

UBSのウェブサイトに遷移します。

(3秒後に自動で遷移します)

×

三井住友信託銀行のウェブサイトに遷移します。

(3秒後に自動で遷移します)

×