中国経済再開による投資機会

恩恵を受けるグローバル市場

中国の経済再開により、リスク資産の見通しは総じて明るさを増している。だが、具体的な影響は個々の市場によって異なるだろう。

  • 中国の経済再開により、リスク資産の見通しは総じて明るさを増している。だが、具体的な影響は個々の市場によって異なるだろう。
  • 経済再開の進展に伴い、中国では国内消費、不動産セクター、そして旅行需要という3つの重要な分野が回復に向かうと我々はみている。回復のスピードはそれぞれ異なるだろう。
  • 今回我々は、様々な資産と地域の中から中国経済再開の恩恵を受ける具体的な投資機会を特定した。

中国の経済再開は、大きな停滞もなく着実に進展している。大都市の多くでは移動を示すデータが底打ちして回復に向かっており、当局も新型コロナウイルスの今後の感染動向について楽観的な見方を示している。1月下旬の春節(旧正月)の大移動で中国の新型コロナ感染状況はピーク付近で高止まりする可能性が高く、医療設備が脆弱な農村部まで流行が広がるおそれがある。だが、春節の大移動はクリアすべき数少ない最後のハードルの1つだ。こうした状況は、中国の経済再開は決して平たんな道のりではないものの、今後本格的に動き出すと予想する我々の基本シナリオと一致する。

中国経済再開の進展に伴い、世界経済の追い風となる材料が3つ出現するだろう。1つ目は、中国の国内消費の伸びの回復だ。国内消費は2023年には7%近くまで持ち直すと見込まれる。消費の回復は早ければ2月にも始まると我々は予想しており、第2四半期(4-6月期)以降はさらに勢いが加速する見通しだ。これは、経済再開の恩恵を受ける中国株(消費、インターネット、医療機器、運輸関連)や、中国の消費に大きく依存する米欧の企業(消費、シクリカル(景気敏感株)、コモディティ関連の銘柄)、人民元や豪ドルなどの通貨にとって好材料となるだろう。

2つ目に、不動産セクターの回復である。経済再開は住宅購入者の信頼を取り戻すうえで重要な一歩となる。ただし、住宅販売が安定するには、あと数カ月の時間と追加の需要喚起策が必要となるだろう。建設活動が上向き、中国の経済成長率がトレンドを上回る水準に戻れば、主に産業用に使用される銅、アルミニウム、亜鉛などの卑金属需要も上昇する見通しだ。

3つ目に、旅行需要の回復である。中国人旅行者が本格的に戻ってくるまでにはあと数四半期はかかる見通しだが、積み上がった貯蓄と旅行需要を背景に、ひとたび再開すれば急回復が見込まれる。旅行再開でジェット燃料需要が上向けば原油の消費も下支えられ、これも勝ち組の1つとなる。また、マカオ・カジノ企業、航空業界、香港の賃貸不動産セクターなどの信用見通しも好転しつつある。他のアジア市場も観光需要の回復による恩恵を受ける可能性が高い。

グローバル市場における投資機会

中国の経済再開に伴い、主要な資産クラスおよび地域における特定の投資機会にリターン上昇の可能性が見込まれる。

株式

株式においては1月、新興国株式の投資判断を推奨に引き上げた。新興国企業の株価純資産倍率(PBR)は先進国企業に対して40%割安な水準で推移しており、業績モメンタムも底入れに近づいている。中国株式についても推奨を維持する。中国株式のバリュエーションは過去平均を下回っており、今年の中国株の 1株当たり利益(EPS)成長率予想は13.8%と、アジア(除く日本)株式全体の同成長率(6%)をけん引する見通しである。

中国以外にも、中国の経済再開から明らかに恩恵を受ける市場がある。米国には中国の消費やコモディティ需要の影響を強く受ける企業が多数ある。また、欧州企業の中国向け売上比率は8%と、各国・地域の中で第2位の高いシェアを占めている。アジア企業も中国の景気サイクルとの連動性が一層強まっている。我々は、こうした欧米やアジア市場での勝ち組を選定するに当たって、経済再開の直接的および間接的な影響を考慮した定性的アプローチをとっている。また、経済再開で利益の急成長が見込まれ、かつバリュエーションが割安の銘柄に注目することで、足元の対中エクスポージャーが低い銘柄の中からも収益機会を追求している。

債券

国境再開や国境をまたぐ人の移動の回復により、複数のセクターの見通しが上向くことが期待される。中国本土の旅行者が戻ってくるにつれ、マカオ・カジノ業界、航空、国内消費セクターや、香港の賃貸不動産、保険、証券といった業界の発行体では信用状態に顕著な改善が見込まれる。

コモディティ

我々はコモディティを推奨しており、コモディティ全体の今年のトータルリターンを10%台後半と予想する。特に推奨するのはエネルギーで、産業用金属がこれに続く。

原油: 原油は、中国の経済再開の恩恵を最も大きく受ける可能性が高い。今年は中国人旅行者が戻るに伴い、あらゆる石油製品の中でジェット燃料への需要が最も速く伸びるとみている。その結果、ブレント原油価格は今後数カ月で1バレル当たり100米ドルを上回るだろう。

卑金属(ベースメタル) 金属在庫が低水準で推移する中、2023年第2四半期から、中国の需要と世界の経済成長率が上向き始める。金属の中では構造的な需要増が見込まれる銅、アルミニウム、亜鉛を推奨する。

通貨

豪ドル: 豪ドルも、中国の経済再開関連で我々が推奨する資産クラスだ。資源国通貨であることに加え、年内は利下げが実施される可能性が低く、しかもスポット価格はコモディティ相場を参考に算出した豪ドル/米ドルの適正水準(0.80~0.85)に対して大幅に割安となっている。我々は豪ドル/米ドルの推奨を維持し、3月末の予想を0.72と従前予想の0.70から引き上げるとともに、6月、9月、12月の予想をそれぞれ0.72、0.74、0.76とする。

中国人民元: 中国と米国との成長軌道の乖離は、今後の米ドル/人民元の下落を示唆している。市場は中国の足下低調なマクロ経済データを無視して、中長期的な景気回復シナリオを重視するだろう。中国株式に関する楽観シナリオと海外直接投資(FDI)の持ち直しも資本流入の支えとなる。現時点における我々の2023年3月末、6月末、9月末、12月末の米ドル/人民元予想をそれぞれ6.6、6.6、6.5、6.5とする。

主な投資リスク

以上の資産クラスに対する我々の強気見通しは、中国経済の急回復を前提としている。しかし、市場の期待があまりに高まったため、期待外れとなる可能性も生じている。仮に、経済再開が頓挫すると、国内需要の低迷が続き、不動産市場が安定するまでには時間がかかり、旅行需要の回復が遅れる可能性が高い。他のリスクとしては、世界のインフレ率が予想ほど落ち着かなかった場合の金融引き締めサイクルの再開、各地での経済成長率の減速、業績リセッション(2四半期連続で前年同期比減益)の拡大、各企業個別のリスクなどが考えられる。

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本稿は、UBS AG Singapore BranchとUBS Switzerland AGが作成した“Global financial markets: China reopens: Our global picks”(2023年1月27日付)を一部翻訳・編集した日本語版として2023年2月6日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。

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