日本株式

日銀の動き以外にも目を向ける1年に

昨年12月後半に日銀が10年国債利回りの許容変動幅の上限を2倍に引き上げて以降の2週間で、大手銀行および生保の株価は15~20%上昇している。

  • 日銀は昨年12月後半、10年国債利回りの許容変動幅の上限を0.25%から0.50%へと2倍に引き上げる決断を下した。その後2週間で、大手銀行および生保の株価は15~20%上昇している。
  • 株式バリュエーション(株価評価)にさらなる再評価の余地があるため、日本の金融株に対する投資テーマを引き続き推奨する。
  • だが同時に、日本経済再開の恩恵を受ける銘柄や、2023年の一部グロース株復活といった他のテーマの検討も勧める。

我々の見解

日銀は昨年12月後半の金融政策決定会合で、10年国債利回りの許容変動幅の上限を0.25%から0.50%へと2倍に引き上げることを公表した。年初の相場はそれが基調となっている。新年に入っても円高が続いており、日本の金融株がその直接的な恩恵を受ける銘柄として浮上した。日銀の政策変更の発表から2週間で、大手銀行と生保の株価は15~20%上昇した。

だが同時に、この日銀のガイダンス変更は今後の金融政策の予測可能性を急速に低下させたと考える。そのため不確実性が高まり、円高が進んだことで、日経平均株価は年初から昨年12月22日高値を5%下回る26,000円の水準を割り込んだ。しかしながら、我々は年内に日銀が利上げに踏み切るとは予想していない。ただし、長短金利操作(イールドカーブコントロール)の修正の可能性は否定できない。利上げに踏み切れば、世界経済が減速する中で日本経済の打撃となるからだが、黒田日銀総裁の任期が終了し新総裁が就任する4月以降はとりわけ、日銀が追加的に政策変更を行う可能性は否定できない。目下大きな問題は、新総裁の下で日銀がどの程度の政策変更を行うかだ。

現時点でそれは不確実である。誰が後任になるのか、政府と日銀がどのように足並みをそろえていくのかによるところが大きい。とは言え我々は、今回の予想外のイールドカーブコントロールの修正が金融政策引き締めの始まりだとは捉えておらず、日銀が来年金融引き締めに動くとも思っていない。結局のところ、日銀は米連邦準備理事会(FRB)の金融引き締めにもかかわらず緩和姿勢を継続すると、黒田総裁は繰り返し述べてきている。そして、新総裁は足元の政策枠組みの微調整を行うかもしれないものの、消費者物価指数(CPI)は年後半も依然2%を下回るとみられるため、日銀は当面ハト派姿勢を継続することが予想される。

したがって、市場は日銀の政策点検の可能性を過大評価しており、日経平均株価の足元の急落は日本株に投資する魅力的な水準だと考える。以下、2023年の推奨テーマについて取り上げる。

銀行およびその他金融株

2022年12月1日付日本株式レポート「金融セクターの魅力が高まる―日銀の政策要因だけではない」の中で、日銀は2023年末までに10年国債利回りの変動幅の上限を0.35~0.45%に引き上げるだろうと予想した。この政策変更は予想よりもかなり早くに実現したが、新たな上限が0.5%に設定されたこと自体に驚きはない。

日本の金融株は、政策修正の最大の恩恵を受ける資産の1つとして急浮上し、10年以上に及ぶゼロ金利政策の終焉という憶測が高まる中で急騰した。だがこうしたポジティブな影響は、日銀の追加的な政策変更がなければ限定的だ。

だが、前回レポートでも述べた通り、日銀の政策変更だけが金融セクターに明るい材料という訳ではない。バリュエーションは依然魅力的で、配当利回りは4~5%と比較的高く、株価純資産倍率(PBR)は0.6~0.8倍と割安だ。また、3月の決算期末には多くの金融機関が決算と配当支払いを発表するため、今年上期には市場イベントが見込まれる。こうしたイベントにより投資家の高い期待が維持され、今後3~6カ月に株価バリュエーションがさらに改善すると考える。よって、日銀のハト派姿勢継続という失望を誘うリスクはあるものの、日本の金融機関は引き続き我々の推奨テーマの1つである。

経済活動再開の恩恵を受ける企業

コロナ後の日本の経済活動再開の恩恵を受ける企業に注目した「日本の正常化を捉える」も、もう1つの推奨投資テーマだ。2022年10月に政府が入国規制の緩和に踏み切った後、日本に外国人旅行者が戻り始めている(図表2参照)。それでも、訪日観光客は直近ピークの3分の1ほどにとどまっている。

加えて、中国が予想よりも早く経済活動を再開し、中国本土からの旅行者が戻れば、日本経済の回復スピードも速まるだろう。円は最近上昇しているが、過去の平均と比べれば依然として円安水準にある。こうした要因が、2023年の日本の観光業を下支えするとみている。

グロース株

日本のグロース株にとって、2022年は成長見通しとバリュエーションの急落という極めて厳しい年だった(図表3参照)。だが2023年は、一部の成長シナリオがようやく実現し、成長プレミアムがさらに裏付けるだろう。米国のインフレもピークを打ちつつあり、米国債利回りは足元の水準から低下するとみられ、グロース株に対するもう1つの大きな逆風も弱まるだろう。

こうした背景から、一部のグロース株は比較的下値リスクが小さく魅力的だと考える。

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本稿は、UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社が作成した“Japanese equities: Beyond the BoJ in 2023”(2023年1月6日付)を翻訳・編集した日本語版として2023年1月12日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
居林 通

UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社
チーフ・インベストメント・オフィスジャパン・エクイティリサーチ・ヘッド

居林 通

さらに詳しく

2006年9月にUBS証券株式会社にアナリストとして入社。以来、日本の株式、経済動向を分析し、国内・海外に発信している(UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社の営業開始に伴い2021年8月に同社に移籍)。以前は1992年から2003年まで国内大手投資信託にてアジア株および日本株のファンドマネージャーを経験、その後2003年から2006年までヘッジファンドにて日本株の運用などに携わった。
日経CNBCなどにコメンテーターとして出演する傍ら、日経ビジネス、日経新聞、ロイターなどの各種メディアでも解説記事、インタビューなどを通してUBSの投資見解を提供している。現在の連載は週刊ダイヤモンド「株式市場 透視眼鏡」、日経ビジネスオンライン「市場は晴れ時々台風」。2001年エモリー大学ゴイズエタビジネススクール(米国アトランタ)にてMBA取得。

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