House View Weekly
市場の注目は景気減速より利上げ減速に
2023年は市場センチメントが引き続き改善すると予想しているが、その転換点は、投資家が利上げペースの減速ではなく利下げを予想し始めた時、初めて訪れるのかもしれない。
2022.12.05
今週の要点
市場は景気の減速ではなく、FRBの利上げペースの減速に注目
米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が、早ければ12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げペースを減速する可能性があると再び述べたことを受けて、11月30日のS&P500種株価指数は3.1%上昇した。11月はS&P500種株価指数が5.6%上昇し、2021年以来初めて2カ月連続の上昇となった。投資家は12月のFOMCで利上げ幅が0.75%から0.50%に減速されると自信を深めている。
雇用指標はまちまちながらも、米国株式はパウエル議長の発言後に上昇を続けている。10月の求人件数は減少したが 、11月の非農業部門雇用者数は予想を上回る前月比26万3,000人増となり、平均時給は1月以降で最大の上昇率となった。
投資家は、FRBの積極的な利上げ姿勢が後退する可能性を歓迎しているが、景気鈍化で目先の株式市場の見通しには暗雲が立ち込めている。2022年にこれまで行った計4%の利上げに遅行して現れる効果は、まだ顕在化していない。11月のFOMC議事録は、来年の景気後退リスクの高まりを示唆した。購買担当者景気指数(PMI)や住宅関連指標は、経済の勢いが衰えていることを示している。そうした経済成長の減速は、2023年の米国企業利益が4%減少するとの我々の予想を裏付けている(ボトムアップによるコンセンサス予想は5%の増加)。
我々は2023年は市場センチメントが引き続き改善すると予想しているが、その転換点は、投資家が利上げペースの減速ではなく利下げを予想し始めた時、初めて訪れるのかもしれない。
要点:2022年10月に底値をつけて以来、米国株式は約13%上昇しているが、この先もボラティリティが高い相場を予想する。こうした背景から、伝統的な資産との相関の低いヘッジファンド戦略や、インカム追求戦略を推奨する。
前向きな政策対応にもかかわらず、中国の見通しはまだら模様
中国では、主要都市での激しい抗議デモを受け、政府がゼロコロナ政策による打撃を和らげるべく追加支援策を講じており、それが中国株式市場に追い風となっている。政府は経済活動の再開に向けた重要な一歩である高齢者に対するワクチン接種率の引き上げを公約し、過度に厳格なコロナ対応を行わないよう地方政府に求めていくことを示唆した。また一部の都市では陽性確認者の自宅隔離を認めており、大きな前進と言える。その前には、不動産デベロッパーのテコ入れ支援を含む経済支援策も実施された。
だがこうした最近の動向にもかかわらず、11月はMSCI中国指数が29%上昇した後、中国の見通しは依然まだら模様だ。
新型コロナウイルス新規感染者数の増加が今もなお景気の重石となっており、1日の新規感染者数は週初に4万人超と過去最多を記録した。これにより主要都市では一段と移動制限が強化されている。新型コロナに対する市民の懸念や医療制度のひっ迫を踏まえると、自主的なロックダウンが依然として重石になる可能性がある。我々は、2023年7-9月期(第3四半期)ごろに国内開発のmRNAワクチンが承認されるまで、中国経済の全面的な再開はないと予想する。
要点:今後数カ月間は、中国経済や市場に対する逆風が大幅に和らぐとはみていない。よって、中国株式は引き続き中立とする。また、中国経済の回復の遅れは世界経済と市場にとってリスクと見ており、ディフェンシブ資産の比重を高めるという我々の推奨を裏付ける。
プライベート・エクイティへの投資を継続
プライベート・エクイティ・ポートフォリオの評価額の下落は上場市場に遅行して現れる。ケンブリッジアソシエイツのベンチマーク(取得可能な最新データ)によると、米国プライベート・エクイティのリターンは、2022年1-3月期(第1四半期)が約-0.35%、第2四半期が約-5%だった。上場市場では、S&P500種株価指数の当該期間のリターンはそれぞれ-4.6%、-16.1%だった。上場市場のさらなる下落を反映して、プライベート・エクイティのポートフォリオの評価額は年末に向けて一段と下落するだろう。
しかしながら、投資家には、ビンテージ(組成年)の分散を維持して優れたマネジャーによる投資を続け、市場混乱の中で投資機会を探ることを勧める。
第1に、ケンブリッジアソシエイツの米国バイアウト指数で計測したところ、過去3回の景気後退局面では、米国プライベート・エクイティの評価額の平均下落率は、S&P500種の下落率の55%に留まった。第2に、プライベート市場(非上場市場)投資のマネジャーは、費用削減、資金投入の見合わせ、その他手段(追加の資金調達、追加の資本注入)の活用など、市場下落局面への対応で高い柔軟性を有している。
最後に、歴史的には、上場市場がボトムをつけた後数年内にプライベート・エクイティに投資をすると高リターンを獲得することができている。ケンブリッジアソシエイツのデータを1995年まで遡って分析したところ、上場市場がボトムをつけた年にプライベート・エクイティに投資した場合のIRR(内部収益率)は14.8%、翌年投資した場合のIRRは18.6%だった。上場市場がボトムをつける年の1年前、2年前に投資した場合のIRRは、それぞれ11.4%、8%だった。
要点:プライベート・マーケット投資はポートフォリオの分散化において重要な役割を担い、長期にわたり絶対ベースで魅力的なリスク調整後リターンを生むことが期待できる。一方、上場市場の投資に比べて、情報開示が限定的、流動性が低い、レポートが遅行するなどのデメリットもある。