CIO Alert
パウエル議長、利上げ減速示唆で株価上昇
米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が「早ければ12 月会合でも」利上げペースを減速する可能性を示唆したことを受け、30 日のS&P500 種株価指数は3.1%上昇した。
2022.11.30
何が起きたか?
米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が「早ければ12 月会合でも」利上げペースを減速する可能性を示唆したことを受け、30 日のS&P500 種株価指数は3.1%上昇した。
4回連続の0.75%の利上げの後、市場は現在12月の0.5%の利上げを織り込んでいる。ただし、30日時点では市場が織り込む利上げの最終到達点はほとんど変わっていない。フェデラルファンド先物金利は2023年5月に4.93%と、7ベーシスポイント(bp)の低下にとどまった。
10 年米国債利回りは14bp低下し3.6%、2年米国債利回りは16bp低下し4.31%となった。米ドル指数(DXY)は0.8%下落した。30日発表の経済指標は労働市場が徐々に沈静化していることを示す内容だった。米労働省が発表したJOLTS求人件数では10月の求人件数は35.3万人増加の1,030万人だった。またADP発表の雇用統計では、11月の民間部門雇用者数は12.7万人増となり、市場予想の20万人増を下回った。
同日の欧州株式市場では、ユーロ圏インフレ率の予想以上の低下を受け、ユーロストックス50指数は0.8%上昇した。ユーロ圏の11月の消費者物価指数(速報値)は前年同月比10.0%となり、10月の10.6%から鈍化した。
今後の展開
30 日にパウエル議長がブルッキングス研究所で行った講演は、一部の投資家が懸念していたほどタカ派的な内容ではなかったため、相場上昇に弾みがつき、S&P500 種株価指数は10 月安値から約13%高い水準まで上昇した。FRB のタカ派的金融政策の後退期待に加えて、投資家からの資金流入とポジション調整から相場は反発した。またパウエル議長もそれを抑えるような発言をしなかった。
パウエル議長は、製造業のボトルネック(目詰まり)や財価格の上昇といったインフレの複数の主要因が軟化していることを認めた。今後数カ月は住宅サービス関連の物価上昇が続く可能性はあるものの、それもまた「来年後半」には低下し始めるとみられる。
これらは明るい材料ではあるが、パウエル議長は同時に、米国労働市場は「一時的な調整の兆し」を示しているにすぎず、賃金の伸びは依然として「長期的に2%の物価目標と矛盾しない水準を優に上回っている」と述べた。12 月2 日に発表予定の雇用統計では、11 月の非農業部門雇用者数が10 月の26 万1,000 人増から20 万人増に鈍化し、失業率は引き続き50 年ぶりの低水準である3.7%をわずかに上回ると予想されている。
我々は、FRB は12 月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で0.5%、2023 年1-3 月期(第1 四半期)にさらに0.5%の利上げを行ってから利上げサイクルを終了するとの見方を変えていない。だが、過去の利上げの累積的な効果が、経済成長と企業利益に引き続き重石となるだろう。11 月のFOMC 議事要旨では、米国が来年辛うじて景気後退を回避できるという「基本シナリオとほぼ同じ確率で」、景気後退に陥る可能性もみているとのFRB 高官の見通しが明らかになった。
こうした景気後退により、2023 年のS&P500 企業の利益は4%低下すると予想する。ボトムアップによる足元の1 株当たり利益(EPS)のコンセンサス予想は5%増と、楽観的すぎるおそれがある。貸出基準の引き締め、米供給管理協会(ISM)製造業景況感指数のさらなる低下の可能性、FRB による失業率上昇予想は、来年のEPS が低下することを示唆している。
投資見解
最近の株式相場の反発にもかかわらず、相場の持続的な上昇に必要なマクロ経済の前提条件はまだ整っていないと考える。今後3~6カ月の株式は、リスクに見合ったリターンは見込みにくいとみている。ただし、周期的な相場上昇の可能性はあることから、上昇局面を見逃すことなく、下方リスクをプロテクトする戦略を勧める。
各資産クラスにおいてよりディフェンシブな資産に焦点を当てることを勧める。株式では、元本確保戦略とクオリティ・インカム銘柄(高クオリティ・高配当銘柄)を推奨する。経済成長が鈍化する局面では比較的耐性のあるグローバル・ヘルスケア、生活必需品も推奨する。通貨では、英ポンドとユーロに対し「安全通貨」として米ドルとスイス・フランを推奨し、債券では、米ハイイールド債より高格付債と投資適格債を推奨する。
インフレ率が依然として中央銀行の目標値を大きく上回る中、バリュー株はグロース株をアウトパフォームすると予想する。グローバル株の中でエネルギー株も引き続き推奨する。地域別では、米国株式に対して割安でバリュー株比率の高い英国株式とオーストラリア株式を推奨する。米国株式は、情報技術やグロース銘柄比率が高く、バリュエーションも割高となっているからだ。
今年みられた株式と債券の高い相関は、ヘッジファンドなどのオルタナティブ投資(代替投資)の重要性を浮き掘りにしている。今年はマクロ戦略がとりわけ好成績で、高ボラティリティ市場では引き続き良好なパフォーマンスをみせるだろう。
最高投資責任者
UBS Global Wealth Management
Mark Haefele
さらに詳しく
プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。
ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。