日本株式

2023 年の新たなカタリスト

2022 年初頭以降、円は米ドルに対して25%超下落したが、その間の日経平均株価(円ベース)の下落率はわずか4%と、他国の株式指標の大半をアウトパフォームしている。

  • 2022年初頭以降、円は米ドルに対して25%超下落したが、その間の日経平均株価(円ベース)の下落率はわずか4%と、他国の株式指標の大半をアウトパフォームしている。
  • 2023年には日本経済の再開が明るい材料になりそうだ。日本政府は2022年10月に外国人入国制限の大半を解除しており、インバウンド観光は岸田政権にとって重要な焦点になると見ている。
  • 日本の金融企業では、貸出利ざややリースマージンが拡大する見通しで、約7~8倍にある現在の株価収益率(PER)は魅力的に思われる。金利上昇が見込まれることから、この投資テーマは2023年以降上昇すると考える。
  • 2022年には、前年に続き日本のグロース株がアンダーパフォームした。米政策金利の緩和がみられれば、日本のグロース株は2023年にアウトパフォームする可能性があると考える。

我々の見解

日本株にとってイベントの多い今年は、円急落の影響が最大の関心を集めた。2022年初頭以降、円は米ドルに対して25%超下落したが、その間の日経平均株価(円ベース)の下落率はわずか4%と、他国の株式指標の大半をアウトパフォームしている。

我々にとって、円安が日本株の下支え要因として機能してきたことは明白だ。日本の企業収益の約20~25%は海外売上が占めるが、この利益を自国に還流し現地通貨換算する際に利益額が増大する。実際に、2022年度には軟調な円相場が日経平均株価の1株当たり利益(EPS)を4~5%押し上げ、年初来7%の業績の伸びを支えたと見積もっている(図1)。

円安の下支えは消失

しかし、こうした状況は2023年には一変しそうだ。我々は円が現在のレベルから一段と下落する(大幅な円安に向かう)とは予想しておらず、将来の利益成長要因としての有効性は乏しいと考える。また新たな下支えがないため、2023年度に日本の企業利益の伸び率は3%前後に低下すると見ている。

こうしたことは、投資家にとって数々の逆風が吹く中で起きるとみている。世界的な景気悪化が今後3~6カ月のうちに顕在化する可能性があり、景気変動に敏感な日本の輸出企業にマイナスの影響を及ぼすだろう。こうした懸念から、日経平均株価はすでに2万8,000円程度で推移しており、株価収益率(PER)は14倍と、過去10年間のレンジの最低水準に近い(図2)。

2023年に企業利益成長の減速が予想されているため、日本株を上昇させるには新たなカタリスト(材料)が必要だと考える。本稿では、日本経済の再開・正常化、日本銀行の金融政策変更、日本のグロース株の復活という、上昇牽引の可能性がある3つの要因に着目する。

日本経済の再開

2023年には日本経済の再開が明るい材料になりそうだ。日本政府は2022年10月に大半の入国制限を解除しており、インバウンド観光は岸田政権にとって重要な焦点になると見ている。実際にインバウンド観光の奨励は、コモディティ価格の上昇と円安により大幅に悪化している日本の経常収支を改善しうる、数少ない実施可能な政策の1つであるかもしれない。

いくつかの調査で、日本は人気の海外旅行先の1つとなっている。ここでも円安と累積需要が経済再開をさらに後押しするだろう。図3は訪日観光者数回復の可能性を示している。

こうした過程を経て消費が蘇り、航空や鉄道、ホテルなどのセクター、そして一部の小売企業と化粧品企業を下支えるとみている。「日本正常化への備え」という2022年の推奨投資テーマは、2023年も引き続き推奨する。

日銀の政策シフト

来年は、日本の経済と投資家に新たな転換点がもたらされるだろう。2023年4月に黒田総裁が退任し新総裁が就任すれば、日銀はハト派的な金融政策スタンスを変更するとの憶測が高まっている。

この転換は象徴としては大きな転換点になるだろうが、実際の最初の変化はごく小規模に行われる可能性が高いとみている。例えば、最初の小さなステップとして、イールドカーブ・コントロールの目標金利水準がやや引き上げられるかもしれない。その小さな変化でも、引き締め政策への転換から恩恵を受ける企業においては、株価上昇のカタリスト(材料)としては十分だろう。

特に日本の金融機関は貸出利ざやとリースのマージンの増加を享受できるだろう。現在の株価収益率(PER)は7~8倍付近でバリュエーションは魅力的である。配当性向は40%で4.5~5.5%の配当利回りを提供している。金利上昇の可能性は俎上にあり、2023年以降はこの投資テーマにより高いリターンを期待している。


本稿は、UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社が作成した“Japanese equities: New catalysts in 2023”(2022年11月10日付)を翻訳・編集した日本語版として2022年11月15日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
居林 通

UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社
チーフ・インベストメント・オフィスジャパン・エクイティリサーチ・ヘッド

居林 通

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2006年9月にUBS証券株式会社にアナリストとして入社。以来、日本の株式、経済動向を分析し、国内・海外に発信している(UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社の営業開始に伴い2021年8月に同社に移籍)。以前は1992年から2003年まで国内大手投資信託にてアジア株および日本株のファンドマネージャーを経験、その後2003年から2006年までヘッジファンドにて日本株の運用などに携わった。
日経CNBCなどにコメンテーターとして出演する傍ら、日経ビジネス、日経新聞、ロイターなどの各種メディアでも解説記事、インタビューなどを通してUBSの投資見解を提供している。現在の連載は週刊ダイヤモンド「株式市場 透視眼鏡」、日経ビジネスオンライン「市場は晴れ時々台風」。2001年エモリー大学ゴイズエタビジネススクール(米国アトランタ)にてMBA取得。

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