ElectionWatch
米国中間選挙に関する10の質問
共和党は下院を制すると予想されるが、上院をめぐる情勢は接戦が続いている。投票所か郵送かを問わず、投票率が結果を左右することになるだろう。
2022.10.18
1. 今回の選挙戦で有権者が重視する政策は何か?
毎回11月の投票が近づくと、有権者の間で経済情勢への注目度が高まる。それは今年も例外ではない。米調査会社ピュー研究所が8月に実施した調査では、回答者の75%超が支持候補者を決定する上で経済対策を最も重視すると回答した。共和党員と「共和党寄り」有権者の10人中9人が、経済対策が最も重要だと回答した。民主党員と「民主党寄り」有権者も、3分の2が同じ回答をしている。このことから、党派に関係なく、経済情勢が引き続き有権者に響くことが示された1。
犯罪と治安も重視されるようになっている。政治サイトのポリティコと調査会社モーニング・コンサルトが最近行った世論調査では、75%超が暴力犯罪が大きな問題であると回答した2。共和党の候補者は、今回の議会選挙戦で、インフレと治安に加えて移民問題も重視している。
人工妊娠中絶を憲法で保障された権利とする判例を覆す「ドブス対ジャクソン女性健康機構訴訟」に関する米連邦最高裁の判決が発表されると、支持率の低い大統領の乏しい実績に意気消沈していた民主党支持層の士気が高まり、選挙戦の様相は一変した。最高裁判決が下された直後にピュー研究所が実施した調査では、民主党員が医療保険制度と中絶の権利を引き続き重視しており、一部では経済よりも重視されている向きがあることが明らかになった。最高裁判決が出された後は予備選挙への参加が増え、民主党の候補者への投票率は予想を上回った。
中間選挙の投票率は、一般的に、現役大統領の所属政党とは異なる党の支持者の方が高くなる。従って、今年の選挙結果は、民主党が歴史が示唆するよりも多くの支持者に投票を促すことができるかどうかにかかっているかもしれない。
2. 地政学リスクは今回の選挙で重要な要素なのか?
外交政策と地政学リスクは有権者の判断に影響を与える可能性があるが、影響の程度は中間選挙よりも大統領選で強くなる。ジョージ・W・ブッシュ大統領とジョン・ケリー上院議員が戦った2004年の大統領選が良い例だ。この選挙戦では、米国同時多発テロを受けて、国家安全保障問題について両候補が頻繁に議論を交わした。
ロシア・ウクライナ紛争における米国のウクライナ支援は引き続き国民から高い支持を得ており、米国が中国に対して敵対的姿勢を強めていることも同様に支持されている3。今回の中間選挙では、有権者は米国経済という観点から地政学を見る可能性が高いと考える。インフレ率は依然として高く、物価上昇局面は米連邦準備理事会(FRB)の当初の予想よりも長引く様相だ。石油輸出国機構(OPEC)と非加盟の産油国で構成するOPECプラスが下した減産の決定はすでに燃料価格の反発を招いており、これによってバイデン大統領が有権者にインフレ率が低下しつつあると納得させることは難しくなるかもしれない。
3. 連邦政府の財政赤字はどうなるか?
財政赤字の規模と範囲は数十年にわたって何度も繰り返されてきた政治問題だが、ごく最近までその政治的な意味合いは低下していた。10年超にわたって超低金利が続き、低コストで財政赤字の穴埋めができたからだ。ところが、議会がパンデミック関連の経済対策で3.4兆米ドルの追加債務を負ったことで、累積赤字は前例のない水準に増加した。
長期化する高インフレに対するFRBによる後手ながらも積極的な措置によって、今後のシナリオが変わり始めている。債券利回りの上昇で、連邦債務の返済コストがますます高くなってきた。米連邦政府の公的債務残高は、1月に30兆米ドルを超えた後、わずか9カ月で31兆米ドルを超えている4。米議会予算局(CBO)は5月、予算の修正措置を図らないと今後10年での利払い金額が8兆米ドルを超えるとの見通しを発表した。CBOが今年初めに予想していた水準よりも金利が1%高くなると(実際そうなっているが)、公的債務残高の利払いは2032年までにさらに2兆4,000億米ドル増える5。
赤字削減を成功させるには超党派の妥協が必要だが、この種の合意が得られる可能性は限定的だ。米ドルが基軸通貨であるため、米国は厳格な財政規律をとる必要からは免れているものの、財政赤字が拡大すると将来世代への財政負担が大きくなり、次の危機が起きたときの選択肢が狭まることになる。