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地域間の成長格差が米ドル高を下支え
先週は米ドル指数(DXY)が20年ぶりの高値を更新し、日本円、英ポンド、ユーロは対米ドルで数十年ぶりの安値まで下落した。
2022.09.12
地域間の成長格差が米ドル高を下支えする
先週は米ドル指数(DXY)が20年ぶりの高値を更新し、日本円、英ポンド、ユーロは対米ドルで数十年ぶりの安値まで下落した。ユーロは、欧州中央銀行(ECB)による0.75%の利上げ予想(8日の理事会で決定)が高まる中でも下落した。0.75%の利上げは、ユーロ圏が誕生した1999年以降で最大の上げ幅となる。
米ドル指数は9月12日時点で先週のピークから2%超下落の108をつけ、米ドル高は弱まったが、今後数カ月はさらに上昇するとみている。欧州ではエネルギー危機が注目されており、ECBが大幅利上げを行っても、ユーロの上昇が持続するとは予想していない。米ドル指数内で57%のウエイトを占めるユーロは、深刻な景気後退や債務負担の大きいユーロ圏各国の借入費用の上昇に対する懸念の影響を引き続き受けよう。
欧州とは対照的に、米国のマクロ経済データは引き続き堅調で、FRBの利上げサイクルが続くことが再確認された。8月の米サプライマネジメント協会(ISM)の非製造業景況感指数は、下落のコンセンサス予想に反して2カ月連続で上昇し、55を上回る水準を維持し、経済活動の緩やかな拡大を示した。
米国の堅調なマクロ経済データとは対照的に、中国の経済データは引き続き失望を誘うものとなった。市場予想を下回った8月の貿易統計は、軟調な外需と、新型コロナウイルス対策の移動制限ならびに直近の熱波による景気停滞が影響したと考える。中国経済は今後数カ月にわたり緩慢ながら成長すると足元みており、年内は1米ドル=7人民元近辺で推移するが、7元を突破する可能性もあるとみる。
要点: 米ドルは、最近の上昇によりファンダメンタルズ(基礎的条件)に基づくバリュエーションは一段と割高となったが、来年年初には下落し始めると予想する。しかし、投資期間が短い投資家にはドル高の継続に備えることを勧める。我々は安全通貨としてスイス・フランを推奨する。周辺国に比べてエネルギー不足の影響が少ない背景、スイス国立銀行(中央銀行)の目標値までの迅速なインフレ抑制への決意とその実現可能性が、スイス・フランを下支えしよう。
新首相誕生で英ポンドは引き続き弱いが、株式は魅力的
トラス新首相の任命を受けて政治的な不確実性は低下したが、先週の英ポンド相場は即座に上昇とはならなかった。英ポンドは対米ドルで取引時間中では1985年ぶりの安値まで売られ、年初から15%近く下落した。週後半は米ドルが広範囲に売られたため持ち直したが、今後数カ月は新政権の政策が英ポンドの下支え要因になるとは見ていない。むしろ、トラス新首相はエネルギー費高騰に対応する政策パッケージを皮切りに減税や歳出拡大を提案しており、財政赤字の拡大が英ポンドにさらなる逆風になる可能性がある。
7月の英消費者物価指数(CPI)は前年同月比10.1%に上昇し、今後もさらに上昇する可能性が高まるなど、ユーロ圏や米国よりも英国の物価上昇圧力は強い。また、経済見通しも冴えない。イングランド銀行(中央銀行)は最近、英国が年後半に15カ月の景気後退に陥り、国内総生産(GDP)が2%以上落ち込むとの見通しを示した。
だが、グローバル株式が年初から17.5%下落しているのとは対照的に、英国株式は0.5%上昇と底堅く推移しており、このアウトパフォームは継続すると予想する。FTSE100種企業の売上高の約75%は英国外で発生しており、国内経済の成長懸念に影響されにくい。また、高い海外売上比率は、英ポンド安によって企業利益が押し上げられることを意味する。FTSE100種総合株価指数の約4割を占めるエネルギー、素材、金融などのバリュー株は、金利上昇とコモディティ価格高が追い風になる。ヘルスケア、生活必需品のディフェンシブ・セクターもおよそ32%を占めている。
最後にバリュエーション(株価評価)の観点から見ると、FTSE100種企業の12カ月予想1株当たり利益(EPS)に基づく株価収益率(PER)は9.4倍と、MSCIオールカントリー・ワールド指数を35%下回っており魅力的だ。
要点:英国を引き続き推奨する。今後数カ月は市場の中心銘柄が様々にわたるため、英国株式市場に幅広くエクスポージャーを取ることを勧める。
エネルギー市場の不確実性がサステナブル投資への流れを加速
供給不安よりも景気後退懸念が強まる中、先週は原油および天然ガスの価格が一段と大きく変動した。ブレント原油は1バレル当たり90米ドルを下回り、6月の高値を一時28%下回る水準まで下落した。欧州の景気減速懸念を受けて、欧州天然ガス価格の指標であるオランダTTF先物価格は、週初の日中高値から3割程度下落した。
世界経済の鈍化から原油価格の見通しが抑えられているものの、足元の下落相場が過ぎれば再び持ち直すと予想する。石油輸出国機構(OPEC)と非加盟国で構成するOPECプラスがわずかながらも10月の減産を決定したことは、最近の価格下落への対抗意識の現れであり、産油国は価格下落が将来の生産投資を損なうことに危機感を募らせている。発電への利用増により原油需要は世界的に底堅く推移するとみられるが、これはまたガスと石炭の価格上昇や供給不足を反映したものでもある。
だが、短期的な価格変動の先を見通すと、今回のエネルギー危機でサステナビリティに向けた潮流が勢いを増している。
ここ数年にわたる化石燃料への投資不足は、化石燃料の価格上昇が続きグリーンエネルギーの経済性が一段と改善する可能性を意味している。国際エネルギー機関(IEA)によると、2014~2020年の間に燃料供給への投資は約半分に減少し、最近上向いてはいるがまだパンデミック前の水準を下回っている。世界のオイルメジャーは思いがけない利益享受にもかかわらず採掘には慎重で、自社株買いを優先している。
また、エネルギー価格と供給に対する不安が、クリーンエネルギーに対する政府の支援拡大につながっている。米国で8月に可決された歳出・歳入法(インフレ抑制法)には、3,000億米ドル相当の気候変動対策が盛り込まれた。化石燃料価格のボラティリティ(変動)が高まる中、再生可能エネルギーの安定したコストはますます魅力的に映る。
要点:世界的なエネルギー危機は、炭素排出量ネットゼロへの移行を一段と加速し、セキュリティの時代という投資テーマにおいて妙味のある複数の分野を浮き彫りにするものと考えている。我々は、空気浄化と脱炭素、エネルギー効率、スマート・モビリティ、グリーンテックなど関連する長期投資テーマに強い追い風になるとみている。