中国経済

中国不動産市場に対する基本/楽観/悲観シナリオ

中国の不動産開発会社は資金難に陥っているが、協調的な政策対応で不動産危機は収束し、中国経済の全般的な回復は頓挫しないとの見方を我々の基本シナリオとしている。

  • 中国の不動産開発会社は資金不足に陥っており、買い手の信認を失っている。しかし、銀行には十分な資金があり、政府は住宅購入者による住宅ローン返済拒否が他セクターへ波及するのを抑える取り組みを行っている。我々は、協調的な政策対応で不動産危機は収束し、新型コロナ危機後の中国経済の全般的な回復が頓挫することはないとの見方を基本シナリオとしている。
  • とはいえ、不動産市場の問題はしばらく続きそうであるため、投資家は不動産関連資産の保有を避けるのが得策だろう。悲観シナリオでは、政策協調が不十分で債務不履行(デフォルト)が続出し、銀行の不良債権が急増するとの見方をしている。その場合、2022年の経済成長率は3%を下回る可能性がある。
  • 最後に、中国不動産市場についての我々の基本/楽観/悲観シナリオについて表にまとめた。

中国の住宅市場は周期性が高い

中国の不動産市場は周期性が非常に高く、しかも政府の政策に大きく左右される。従来、政府が建設業や経済成長を刺激すべく緩和政策に乗り出すと、不動産市場は活況を呈してきた。物件の供給量が増加し、債務水準が上昇し、それがある水準に達すると、今度は過熱した価格を抑制する施策に転じる。不動産業が吸収できる資本と債務の額、家計債務の増加、そして不動産市場の投機水準を懸念してのことだ。

21世紀に入って以降、中国の不動産市場はそのような下降サイクルを3度経験してきた。2010~11年、2014~15年、そして直近では2018年半ばから現在までの3度だ。世界金融危機後の2009年には、4兆人民元規模の刺激策の効果で住宅販売が急増した。しかしその後は数年間にわたり過熱抑制策が講じられた。現在のサイクルの前には、スラム街の再開発計画に数兆元が投じられ、需要と負債が持続不可能なレベルまで押し上げられた。この状況を受けて政府は不動産投機を管理しようと、とりわけ負債比率の抑制に積極的に動いた。

不動産は、中国経済にとって依然として非常に重要なセクターだ。住宅販売が経済成長に直接影響を与えるほか、川上から川下まで多種多様の産業に貢献している。不動産投資は国内総生産(GDP)のおよそ25~30%を占め、土地売却は地方政府にとって最大の歳入源の1つ(財政収入の約30~40%)である。しかし、この状況は変化しつつある。

今回のサイクルの中心にある不動産融資規制「3つのレッドライン」

2014~2016年の上昇サイクルが一巡すると、政策当局は、市場の過熱を抑えて不動産セクターの財務の健全性を改善しようと、2018年に債務削減政策に乗り出した。これらの施策は新型コロナのパンデミック期間中にはある程度の後退を余儀なくされたものの、2020年には新たな政策が導入された。以前の過熱抑制戦略とは一線を画した不動産融資規制、「3つのレッドライン」政策だ。この規制は、最終的に我々が現在直面している状況につながることになる。

この政策は、銀行融資の条件として不動産開発会社の自己資本、資産、短期借入金に対する負債の比率に制限を設けるものだ。政府はこれまで、プロジェクト・ファイナンスの債務再編や資金不足の穴埋めに必要な資金を調達しようとする不動産開発会社の動きをうまく抑えてきた。当初は、非中核資産を売却するか、増資するか、債務の制約から逃れるために成長が不可欠な不動産開発会社が増えた。ところが、新型コロナのパンデミック発生により、事業環境は大幅に悪化した。

パンデミック下で人々の移動が激減し、中国経済全体の成長率が鈍化したことで、消費者信頼感が後退した。債券の満期到来、自社のオフショア債券への投資需要の低下、そしてキャッシュフローの減少に直面した不動産開発会社は債務不履行(デフォルト)に陥り始め、この傾向は2021年第4四半期(10-12月期)以降加速している。その結果、中国の不動産開発会社が発行したハイイールド債の過去12カ月のデフォルト率は64.8%と、記録的な高さに上っている。

特に、2021年12月に起きた中国大手不動産開発会社のデフォルトは大きな転換点となった。このデフォルトを機に各社の事業環境は一変した。地方政府がエスクロー(第三者預託)勘定に関する厳格な管理規制を導入したために、不動産開発会社は物件のプレ販売で得た売上金を自由に使うことができなくなった(訳注:不動産開発会社はエスクロー勘定で完成前物件の売上資金を管理することが地方政府から義務づけられている)。

これにより事態はさらに悪化した。資金難で流動性を確保できなくなった不動産開発会社が、プレ販売済のプロジェクトの建設を中断したのだ。これを受け、住宅購入者が団結し、未完成物件への住宅ローン返済を「ボイコット」する動きが国内で広がった。ローン返済が中断したプロジェクトの数は、ピーク時には約300件に達した。

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本稿は、UBS AG Hong Kong Branchおよび UBS AG Singapore Branchが作成した“Chinese economy: Base, bear, and bull cases for China property?”(2022年8月12日付)の一部を翻訳・編集した日本語版として2022年8月23日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。

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