House View Weekly

米インフレ率減速で株価上昇

7月の米消費者物価指数(CPI)が市場予想を下回ったことから、先週のS&P500種株価指数は3.3%上昇した。

今週の要点

米インフレ率が減速し、株式市場は上昇

7月の米消費者物価指数(CPI)が市場予想を下回ったことから、先週のS&P500種株価指数は3.3%上昇した。ガソリン価格の急落を受けて、総合CPIは前月比で横ばいとなった(コンセンサス予想:+0.2%、6月:+1.3%)。また前年同月比上昇率は+8.5%となった(コンセンサス予想:+8.7%、6月:+9.1%)。コアCPIは前月比上昇率が+0.3%となり、6月の+0.7%から減速した。また前年同月比上昇率は+5.9%と前月から横ばいとなった。

これを受けて、市場が予想する米連邦準備理事会(FRB)の利上げペースは鈍化した。先物市場が現在織り込んでいる12月までの引き締め幅はこれまでよりも5ベーシスポイント(bp)低下し、2年債/10年債の逆イールド(長短金利の逆転)幅は3bp縮小し、40bpとなった。

インフレ・データの発表により、我々が想定するソフトランディング(経済の軟着陸)の可能性は高まった。しかしながら、我々は比較的慎重なアプローチを引き続き推奨する。

価格が極端に変動した品目を除いて算出されるクリーブランド連銀の刈り込み平均CPIは、前月比上昇率が依然+0.45%の水準にある。物価上昇率はFRBの目標を大きく上回っており、FRB高官は早期利下げ転換への市場の期待を退けた。サンフランシスコ連銀のデイリー総裁は、インフレ鎮圧で「勝利宣言」を出すのは時期尚早と再び述べた。労働市場が景気後退の引き金を引くことなく過熱感を抑えることができるか、引き続き注視が必要である。

FRBは9月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で少なくとも0.5%の利上げを決定し、年末まで利上げを続けると我々はみている。

要点:景気の先行きが引き続き不透明であることから、様々なシナリオの下、良好なパフォーマンスが期待されるポートフォリオを構築することを勧める。株式のエクスポージャーについては、ディフェンシブ株、高クオリティ株、バリュー株に重点を置くことを推奨する。また、一部のヘッジファンド戦略は、ボラティリティ上昇局面でポートフォリオの耐性向上に寄与するものと考える。

米国CHIPS法案は短期的ではなく、長期的な支援材料になる

バイデン米大統領は先週、米国の半導体生産と研究の活性化のために530億米ドルの補助金と税額控除を提供する法案に署名した。

だが、この半導体業界を支援するCHIPS・科学法が短期的に半導体株を押し上げる可能性は低い。フィラデルフィア半導体株指数は年初から22%下落している。

米商務省がいつ助成金の交付を見直す規則を作成するか、またプロジェクトの実行にどの程度時間がかかるかはまだ不確定だ。

半導体やハードウェア、デジタルメディアといった景気循環色の強いハイテクセクターは、世界経済が冷え込むと、短期的に下落する可能性が高いとみている。景気後退懸念が高まる中、市場は半導体、とりわけ消費財セクター(例:PCやスマートフォン)の需要鈍化に注目している。一部の米大手半導体メーカーが発表した売上鈍化予想や来年の設備投資縮小計画が、不安感をさらに強めている。

だが長期的に見れば、サプライチェーンの回復力、国家安全保障、経済的な自立に対する懸念の高まりを受けて、半導体の国内製造を重視する動きは、米国だけでなく世界各国で引き続き強まると考える。

要点:多くのハイテク株の株価が最近上昇しているが、高インフレで成長見通しが不確実な今の環境では、クオリティの高いバリュー株を引き続き推奨する。長期的に、安全保障の強化とサプライチェーンの支援を目的とした投資が拡大すると予想しており、その影響は半導体だけでなく、データ、エネルギー、食料といった分野に及ぶだろう。

中国不動産問題はシステミックリスクには発展しない可能性が高い

中国不動産セクターに対する懸念から中国資産に対する地合いが悪化しており、中国人民銀行が発表した7月の新規融資額は7,560億人民元(コンセンサスは1兆3,000億人民元)と予想を下回った。8月のMSCIオールカントリー・ワールド指数は今のところ3.1%上昇している一方、前月に同指数をアンダーパフォームしたMSCI中国指数は、今月は0.2%下落している。

資金繰り問題を抱えている中国の不動産開発業者は、プレ販売住宅(訳注:中国では工事が始まる前のプレ販売の段階で住宅を購入すると、その時点からローンの支払いが発生する)の建設を停止している。これに対抗して多くの住宅購入者が団結して、未完成物件の住宅ローンの返済を停止または「ボイコット」している。

だが、政府が住戸引き渡しを公約したことを受けて、支払いがボイコットされてる不動産開発件数の増加に歯止めがかかっており、事態が安定する兆しが見えてきた。

ここから先は3つのシナリオが考えられる。基本シナリオ(確率60%)では、協調した政策対応により不動産危機が収束し、中国全体のコロナ禍からの景気回復は腰折れしない。とはいえ、不動産市場では当面苦しい状況が続く可能性が高く、よって投資家には中国不動産関連の資産の保有割合を引き下げることを勧める。

弱気シナリオ(確率30%)では、政策協調では不十分でデフォルト(債務不履行)が相次ぎ、銀行の不良債権が急増する。その結果、2022年の経済成長率は3%以下に落ち込む。

強気シナリオ(確率10%)では、中央および地方政府が協調して極めて強力な措置を講じる。だが、政府は地域市場への介入を抑制する意向であり、この可能性は低い。

要点:基本シナリオでは、中国不動産セクターのデフォルトが短期的にアジアのハイイールド債のリターンの重石になるだろう。ボトムアップの投資家には、中国以外のクレジットや短期の投資適格債を推奨する。MSCI中国指数の足元のバリュエーションには、地政学的リスクの高まりと不動産市場への懸念が織り込まれている。バリュエーションが魅力的で、緩やかな経済成長やゼロコロナ政策の中でも、持続的で予測可能な利益成長を達成できる株式や業種を引き続き推奨する。

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本稿は、UBS AGが作成したUBS House View-Weekly Global (2022年8月15日付)を一部翻訳・編集した日本語版として2022年8月16日付でリリースしたものです。本稿の末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本稿に記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本稿中の全ての図表にも適用されます。
Mark Haefele

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management

Mark Haefele

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プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。

ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。

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