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インフレ率低下を受け株価上昇

7月の米消費者物価指数(CPI)が市場予想を下回ったことから、10日(水)の株式市場と債券市場は反発した。

何が起きたか?

7月の米消費者物価指数(CPI)が市場予想を下回ったため、10日(水)の株式市場と債券市場は反発した。

ガソリン価格の急落を受けて、米国のCPI総合値は前月比横ばいとなり、6月の同1.3%上昇、コンセンサス予想の0.2%上昇のいずれをも下回った。前年同月比でのCPIは8.5%上昇し、6月の9.1%、コンセンサス予想の8.7%をいずれも下回った。

10日の取引ではS&P500種株価指数は2.1%高、ナスダック総合指数は2.9%反発した。市場は幅広く上昇し、全セクターが前日比プラスで取引を終えた。

米連邦準備理事会(FRB)による今後の利上げペースは、これまでの予想よりも鈍化するとみられる。先物市場が現在織り込んでいる12月までの引き締め幅は、これまでよりも6ベーシスポイント(bp)低下している。政策金利のピークは来年3月で、7月CPI発表前と比べて4bp低い3.63%とみられている。米2年国債利回りが5bp低下し、10年国債利回りが1bp上昇した結果、2年/10年の逆イールドはやや縮小した(現在は-44bp)。米ドルは対ユーロで0.9%下落し、ユーロ/米ドルは1.03となった。

発表されたCPIの内訳を見ると、インフレ鈍化も見て取れる。食品価格は前月比1.1%上昇し、ガソリン価格の下落の影響を一部相殺している。価格変動の大きい食品とエネルギーを除いたコア指数は前月比0.3%上昇し、6月の0.7%から低下した。その結果、前年同月比では5.9%の上昇と、前月から横ばいとなった。コアCPIは、過去3カ月低下した後、上昇に転じると予想されていた。

今後の展開

先週発表された7月の雇用統計は、非農業部門雇用者数が前月比52万8,000人増、失業率もパンデミック前の最低水準である3.5%と力強い結果となったものの、市場の反応はまちまちだった。労働市場の強さを受けて債券利回りは上昇したが、株価は小幅に下落し、10日のCPI発表までは弱含みに推移していた。

しかしCPI発表後の市場の反応は明確だった。インフレデータは、我々のソフトランディング・シナリオの方向を示唆する動きである。CPIバスケットに含まれている品目のうち前月比マイナスとなったのがおよそ30%と、ここ数カ月で最も多い。この中には、ガソリンの他、自動車・トラックのレンタル料(-9.5%)、航空運賃(-7.8%)などが含まれる。ガソリン価格と航空運賃は8月もこれまでの所さらに下げており、CPIは8月もおおむね横ばいの可能性がある。

しかし我々は引き続き、比較的慎重なアプローチをとることを勧める。

FRBはデータを重視しているが、金融政策の転換にあたってはより多くのデータを確認したいだろう。投資家はFRBの利上げ姿勢の軟化を金利予想に織り込んでいるが、FRB高官は早期の政策転換という市場の期待を退けた。これまでのコメントを見ると、サンフランシスコ連銀のデイリー総裁は、インフレに対する米金融当局の闘いは完了には「ほど遠い」と指摘し、またクリーブランド連銀のメスター総裁は、物価上昇が前月比で緩やかになっていることを示す「非常に説得力のある証拠」を確認したいと述べた。次回の米連邦公開市場委員会(FOMC)が開催される9月21日までは間があるため、データ発表のたびに過剰反応すべきではないだろう。インフレ率は依然FRBの目標をはるかに上回っており、コアCPIの前月比上昇率が0.3%と予想を下回ったからといって、FRBが利上げサイクルの一服を検討するのは性急すぎる。さらに、CPIの品目に含まれる家賃は遅行指標であるため、今後上昇する可能性があるとみている。つまり、月次のコアインフレ率はしばらくの間高止まりする可能性が高い。我々は、FRBが9月のFOMCで少なくとも50bpの利上げを実施し、年末まで利上げを継続するとの見方を変えていない。投資家の関心は、今や8月25~27日に米ジャクソンホールで開催される経済シンポジウムに向かい、FRBの考え方が変わる可能性があるかどうか、その兆候を探ろうとしている可能性がある。

景気後退に陥らずに労働市場を均衡させることができるかどうかは、現段階では不透明だ。現在、米国の労働市場には、歴史的に高い求人率と、歴史的に低い失業率という特徴がある。FRBによると、求人率を6.8%から4.6%に下げることは、失業率の1%ポイント未満の上昇に値する。最近の労働市場が強いおかげで、FRBは景気後退があるとしてもその開始時期を2023年へとさらに先送りし、ソフトランディングへの道幅を広げることで時間稼ぎができている。ただし、このシナリオが現実可能かどうか、そして失業率の上昇が個人消費やリスク資産にどのような二次的影響を及ぼすかは、依然不透明だ。

投資見解

景気とFRBの金融政策の方向性が依然として不確実であることから、現在は市場の方向性に大きく賭ける時期ではないとのこれまでのスタンスを再度強調し、株式に対する短期的なスタンスとしては中立を維持する。

投資家は、様々なシナリオ下で高パフォーマンスを上げられる堅固なポートフォリオの構築を目指すのが得策である。世界のエネルギー関連株や英国市場など、バリュー株を引き続き推奨する。一部のヘッジファンド戦略を用いれば、ポートフォリオをボラティリティ(市場変動)から保護できるだろう。また、世界のヘルスケア株や高インカムの高クオリティ銘柄などのディフェンシブ株、高格付債などの一部の債券、通貨ではスイス・フランなども、ポートフォリオのボラティリティ抑制に有効となろう。

今回のCPI発表を受けて米ドルは当初全面安となり、スイス・フランをはじめとするいくつかの通貨がその恩恵に浴した。しかし、対ユーロと英ポンドでの米ドルの優位性は揺らいでいないとの見方を我々は変えていない。ユーロと英ポンドに対する弱気の予想は、エネルギー供給不足への懸念、およびユーロ圏と英国の政情不安に基づいている。今後数カ月間、この問題は継続するとみている。

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本稿は、UBS AGが作成した“CIO Alert: Stock rally as US inflation falls”(2022年8月10日付)を翻訳・編集した日本語版として2022年8月12日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
Mark Haefele

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management

Mark Haefele

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プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。

ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。

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