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エネルギー供給不安後退で株価上昇

19日のS&P500種株価指数は2.75%上昇し、ユーロ・ストックス50指数は2.2%上昇した。ロシア産ガスの欧州への輸出再開報道で、欧州の景気後退懸念が緩和された。

何が起きたか?

19日のS&P500種株価指数は2.75%上昇し、ユーロ・ストックス50指数は2.2%上昇で取引を終えた。ロシアが天然ガスパイプライン「ノルドストリーム1」を再稼働し、欧州へのガス輸出を再開するとの報を受け、欧州の景気後退懸念が緩和されたことによる。

ロシアのガス輸出先の3分の1以上を占める欧州への供給を行うこのパイプラインは、11日から保守点検のため停止されていた。ロシアの侵攻に対抗するウクライナを支援し続けている欧州を弱らせるため、同パイプラインを運営する半国営ガス会社はパイプラインを再開しないのではないかとの憶測が広がっていた。しかし、同パイプラインが予定どおり21日に操業再開される見通しを複数メディアが報じた。

これを受け市場センチメントは改善し、原油価格の回復にも反映している。先週は1バレル100米ドルを下回り、6月上旬から20%以上の下落となっていたブレント原油は19日、1バレル107米ドルとなった。

最近の資金逃避先需要に押し上げられてきた米ドルは後退し、DXY指数(米ドル指数)は106.6と、1%近く下落した。一方、21日の政策金利決定会合で欧州中央銀行(ECB)は0.25%ではなく0.5%の利上げを検討していると示唆するECB高官の発言を受け、ユーロは続伸した。先週、対米ドルでパリティ(1ユーロ=1ドルの等価)を下回ったユーロは0.9%上昇し、1ユーロ1.023米ドルとなった。

しかし、ロシアのガス輸出に関する色よい報道の一方で、米国での金融引き締めによる景気減速の兆候が暗い影を落としている。6月の米国の住宅着工件数は2021年9月以来9カ月ぶりの低水準となり、建設許可件数も減少した。連邦準備理事会(FRB)の速い金融引き締めペースを受け、30年固定住宅ローン金利は6%近くに上昇し、年初の水準のほぼ2倍となり、住宅価格の値ごろ感は失われつつある。

住宅市場をめぐっては中国でも懸念が高まっている。国営メディアによると、約50の都市で住宅購入者がローンの支払いを拒否する動きが広がっており、経済成長への新たな逆風となっている。過剰債務を抱え資金繰りに窮した建設業者が建設を中断し、未完成物件が増えていることがその背景だ。

米国では、大手数行の4-6月期決算発表で、景気減速が収益を圧迫している影響がみられた。今後続く他の米国企業の決算発表も注目されよう。

今後の展開

19日の市場は明るいムードに包まれたが、景気、中央銀行の金融政策、政治リスクについて投資家が確信を持てるまでは市場センチメントの継続的な改善にはいたらないとみている。いずれの点でも不透明感が根強い。

先週発表された6月の米消費者物価指数(CPI)が前年同月比+9.1%と1981年以降で最も早いペースの上昇となるなど、最近のインフレ指標は引き続き予想以上に上振れしている。6月のユーロ圏CPIは前年同月比+8.6%に達した。インフレ率が予想を上回る状況が続く中、各国中銀の多くは想定以上に金融政策を引き締めている。例えばカナダ銀行(中央銀行)は先週、1%の利上げを実施して市場を驚かせた。フィナンシャルタイムズ紙の集計によると、6月までの3カ月間で、62の政策金利が少なくとも0.5%引き上げられ、7月は今のところさらに17の政策金利が0.5%以上引き上げられている。今週はECB、来週はFRBと、予想を上回る大幅利上げを行う可能性も依然として残り、一段とボラティリティ(変動率)の上昇リスクが高まっている。

政治リスクも高い状況が続く可能性がある。ロシア産ガス輸出に関し19日のニュースは朗報だったが、一方で、ロシアは、エネルギー輸出による収入を犠牲にしても敵対国への圧力を強める手段としてエネルギー供給を利用することを厭わない姿勢を鮮明にしている。ロシアは6月に主要パイプライン「ノルドストリーム1」のガス供給量を約6割削減しており、今後も11日の保守点検開始前の水準にしか供給量は回復しないと予想される。この供給量は、ドイツとその他諸国の冬場に向けた十分なガス備蓄には不十分だろう。これは欧州経済に相当な逆風になる。こうした厳しい見通しによりアナリストは企業収益予想を下方修正すると考えており、我々のユーロ圏株式の2023年企業収益予想は、コンセンサスを15%下回る。

中国については、建設が中断している住宅のローン返済ボイコット問題が迅速に解決すれば、投資家の注目は再び年後半のマクロ経済回復の可能性に戻るだろう。主要国の大半が金融引き締め策を講じているのとは対照的に、中国政府の財政および金融政策は緩和的であり、中国企業の増益率はアジア全体よりも高いとみている。だが、ゼロコロナ政策を継続しているため、中国株式のパフォーマンスは引き続き浮き沈みが大きいと予想する。中国経済の回復は緩やかとなるだろう。

投資見解

経済面や政局面の不透明感が強い中、様々なシナリオ下でも耐性(レジリエンス)を発揮するポートフォリオを構築することを勧める。

バリュー株に投資する。インフレ率は年内は中央銀行の目標を上回る水準が続きそうだ。1975年からの実績を分析すると、インフレ率が3%を上回る状況ではバリュー・セクターはグロース・セクターをアウトパフォームする傾向が示されている。基本シナリオである「ソフトランディング(経済の軟着陸)」下においてはバリュー・セクターが特に堅調に推移すると考える。企業業績の底堅さが確認されれば、金融やエネルギーなど景気感応度の高いバリュー・セクターの下支え要因になるからだ。また、バリュー・セクターの比率が高い英国市場も有望とみる。

ディフェンシブ銘柄とクオリティ銘柄を組み入れ、さらにボラティリティを利用する。経済指標の軟化が企業業績見通しを圧迫し、さらなる株価の下落を招く「スランプ」状況に陥る可能性に備えてディフェンスを強化するため、クオリティの高い高配当銘柄、ヘルスケア・セクター、耐性(レジリエンス)の高い社債、スイス・フランを組み入れることを勧める。また、元本確保戦略を利用することで、ボラティリティを利用した利益獲得と同時に、株価下落局面では想定されるリスクの軽減が期待できる。

Liquidity(流動性)戦略*を活用し、ヘッジファンドで分散投資を図る。強固なポートフォリオを築くための基盤として、強制売りのリスクを低減し、利回りを獲得し、将来的な投資機会に備えるために今後3~5年で必要となる支出ニーズを賄う資金を確保するLiquidity(流動性)戦略ポートフォリオ*を構築することを勧める。現金・現金等価物、短期債などがこの戦略の投資対象となる。また、債券と株式の相関が高い足元の環境下では、債券・株式ともに下落した場合でも良好なパフォーマンスが期待できるヘッジファンドを一部組み入れることも勧める。

セキュリティの時代に備えたポジションを構築する。19日の米国株式市場上昇の1要因として、ロシアのガスパイプライン「ノルドストリーム1」による欧州への天然ガス供給継続見通しの報道がある。もっとも、これについてはまだ確認を要し、今後数週間から数カ月の間にロシアからのガス供給がさらに削減される可能性も残る。いずれにしても、欧州やその他諸国において取り組まれているエネルギー安全保障の強化は今後も続くだろう。政府や企業の間では効率性や価格より安全性や確実性を重視する動きが強まっており、こうした取り組みはそのトレンドの一環であるとみている。エネルギー、食料、サイバーセキュリティなど幅広い分野にその影響は及ぶと考える。

*時間軸は様々です。戦略はお客様の目標・目的と適合性によって変わります。このアプローチは、資産構築あるいは何らかの投資利益の達成を約束または保証するものではありません。

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本稿は、UBS AGが作成した“CIO Alert: Markets rally as energy worries abate”(2022年7月19日付)を翻訳・編集した日本語版として2022年7月20日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。

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