日本株式

反転の時を探る

2022年度(2023年3月期)の日本企業業績については7%増益を予想しており、日本株式、とりわけ円安の恩恵を受ける輸出企業の下方リスクは限定的とみている。

  • 米S&P500種株価指数の株価収益率(PER)は過去6カ月間で調整しており、日経平均株価のPERは現在、近年の取引レンジの下限で推移している。
  • 我々は、2022年度(2023年3月期)の日本企業業績については7%増益を予想している。日本では経済活動が再開しつつあり、中国では主要都市のロックダウン(都市封鎖)が解除に向かっていることから、日本株式、とりわけ円安の恩恵を受ける輸出企業の下方リスクは限定的とみている。
  • また、2021年後半に始まったバリュエーション(株価評価)調整以降、日本のグロース株式は著しくアンダーパフォームしているものの、来年は回復することが期待される。

日経平均株価の年初来の下落率は9.3%にとどまり、米S&P500種株価指数(-21%)をアウトパフォームしている。だがもっと重要なことは、日経平均株価は3月上旬につけた24,718円の年初来安値をまだ上回っているということだ。その一因は、昨年の両指数のパフォーマンス格差にあると考える。昨年の日経平均株価の上昇率が5%だったのに対して、S&P500種株価指数はその間23%上昇した(図表1参照)。

だが、ファンダメンタルズの面から見てみると、S&P500種株価指数の株価収益率(PER)は過去6カ月で調整したのに対して、日経平均株価のPERは近年の取引レンジの下限で推移している(図表2参照)。我々は、2022年度(2023年3月期)の日本企業業績は7%の増益を予想している。また、日本では経済活動が再開しつつあり、中国では主要都市でロックダウン(都市封鎖)が解除に向かっている。そのため、日本株式、とりわけ円安の追い風を受ける輸出企業の下方リスクは限定的とみている。

とはいえ、米国のインフレ率がピークを打ち、投資家のセンチメントが改善しているという明確な兆候が確認できるまで、日本株投資家は忍耐強く待つ必要があるだろう。外国人投資家は依然として日本株式の取引を手控えており、過去5~6カ月間の市場取引の大半は自社株買いによるものだ。よって、相対的に配当利回りが高く自社株買いが期待できそうな、日本のコーポレートガバナンス改善銘柄を狙う投資テーマを引き続き推奨する。

7月10日に投開票が行われる参院選は市場の方向性を決める重要なイベントになる可能性がある。与党・自民党が参院選で勝利し、岸田政権はより政治的に安定するという、主要各国ではまれに見る結果になると我々は考える。選挙後、岸田政権は旅行、宿泊、外食といった産業への補助金支給を含む追加経済政策を繰り出すだろう。

そのため現時点では、「日本経済の正常化に備える」という日本の経済活動の再開を捉える投資テーマを推奨する。このテーマでは、航空、鉄道、ホテルといったサブセクターに加えて、一部の小売および化粧品会社に投資妙味があるとみている(詳細は6月8日付レポート「日本経済の正常化に備える:経済の再開が本格化」を参照)。

来年は日本の金融機関、特に保険会社が米国および欧州の金利上昇の追い風を受けると予想する。日本の銀行銘柄は、配当利回りが高く、株価純資産倍率(PBR)が低いという点で魅力的だが、日銀の金融政策が大きく変わるまで待つ必要があるだろう。とはいえ、少なくとも黒田日銀総裁の任期が終了する2023年4月までは、そうした政策変更はないと予想する。 加えて、来年は日本のグロース株式のバリュエーションが回復することが期待される。米国金利が上昇し始めた2021年後半のバリュエーション調整以降、グロース株は大幅にアンダーパフォームしている(図表3参照)。日本は依然として金利が低く、消費者物価指数(CPI)の伸び率も相対的に低いことを踏まえると、日本のグロース株がこれ以上バリュエーション調整するのは理に適っていない。日本株投資家には、来年はグロース株のエクスポージャーをある程度維持することを勧める。

我々の予想に対するリスクとしては、中国経済の一段の減速や、パソコンやスマートフォンに対する循環的な需要後退の可能性が挙げられる。また、米国金利の上昇により米国の住宅指標が悪化し、その他の循環的な需要が来年減少することも懸念材料だ。

経済および地政学的な不確実性から、とりわけ将来を予測しづらい状況にある。だが、CIOが最近リリースしたレポート「弱気相場の手引き」で述べた通り、こうした市場環境は長期投資家にパフォーマンス改善の機会を提供すると考える。景気循環株のポジション引き上げを裏付けるような市場センチメントの改善の兆候が現れることを引き続き期待している。

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本稿は、UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社が作成した“Japanese equities: Time for patience”(2022年6月27日付)を翻訳・編集した日本語版として2022年6月29日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
居林 通

UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社
チーフ・インベストメント・オフィスジャパン・エクイティリサーチ・ヘッド

居林 通

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2006年9月にUBS証券株式会社にアナリストとして入社。以来、日本の株式、経済動向を分析し、国内・海外に発信している(UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社の営業開始に伴い2021年8月に同社に移籍)。以前は1992年から2003年まで国内大手投資信託にてアジア株および日本株のファンドマネージャーを経験、その後2003年から2006年までヘッジファンドにて日本株の運用などに携わった。
日経CNBCなどにコメンテーターとして出演する傍ら、日経ビジネス、日経新聞、ロイターなどの各種メディアでも解説記事、インタビューなどを通してUBSの投資見解を提供している。現在の連載は週刊ダイヤモンド「株式市場 透視眼鏡」、日経ビジネスオンライン「市場は晴れ時々台風」。2001年エモリー大学ゴイズエタビジネススクール(米国アトランタ)にてMBA取得。

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