CIO Alert
スイス中銀 15 年ぶりの利上げ
スイス国立銀行(中央銀行)が16日、予想外に50 ベーシスポイントの利上げに踏み切った。これを受け、スイス・フランが急騰し、スイス株式は下落した。
2022.06.16
何が起きたか?
スイス国立銀行(中央銀行)が16日、予想外に50 ベーシスポイント(bp)の利上げに踏み切った。これを受け、スイス・フランが急騰し、スイス株式は下落した。本稿執筆時点、ユーロ/スイス・フランは2.4%下落して1.0140、米ドル/スイス・フランは2.2%下落して0.9725、スイス株価指数は2.7%下落(訳注:終値ベースではおよそ2.9%下落)している。
スイス国立銀行の利上げは15年ぶりで、政策金利は-0.75%から-0.25%に引き上げられた。公表した金融政策報告書には、高インフレがスイス経済に蔓延するのを抑制するため追加利上げの可能性も排除しないと明記された。この想定外の大幅利上げは、インフレとの戦いが主要中銀の最大の関心事であり、その代償として恐らく景気が減速するとの投資家の認識を強める結果となった。15日に75bpの利上げを決めた米連邦準備理事会(FRB)は、フェデラルファンド金利の年末予想を3.4%とし、今年の国内総生産(GDP)成長率の見通しを潜在成長率を下回る1.7%に引き下げた。
金融引き締めが経済成長と株価バリュエーションに与える影響への懸念から株価は下落し、ユーロストックス50 指数は2.1%、E-ミニ S&P 500 先物は2%低下した。
今後の展開
スイス中銀の予想よりも早いマイナス金利からの脱却は、先週の欧州中央銀行(ECB)による想定外のタカ派コメントが契機となったものと考える。利上げのタイミング(ECBよりも前)も、その幅も、ともに想定外であり、スイス中銀による国内インフレ率の見方が大幅に変化したことを示している。スイス中銀は物価見通しを前回予想から大幅に引き上げ、2022年のインフレ率を2.8%、2023年を1.9%、2024年を1.6%とした。この新しいインフレ予想は中銀が大幅な引き締めに動く可能性を強く示唆するものだ。我々はスイス中銀が9月に0.5ポイント、12月と3月に0.25ポイントの利上げに踏み切ると予想する。つまり、年後半にはマイナス金利が終了する可能性が高いということだ。
想定よりも急速な利上げになる公算が大きいとはいえ、政策金利は2023年末でも1%を切る水準と予想する。スイスのインフレリスクは、5月の消費者物価指数(CPI)が8.1%だったユーロ圏を依然として大きく下回る。したがってひとたびマイナス金利から脱却すれば、スイス中銀の政策運営はECBより慎重になるだろう。
投資見解
為替
スイス・フランは、ユーロ圏よりも早く引き締めサイクルに入った恩恵を受けるとみている。グローバル・ポートフォリオの中で引き続きユーロを「非推奨」とする一方、最近スイス・フランを中立に引き上げた。とはいえ、ECBもまたタカ派姿勢を強めており、今後数四半期はECBとスイス中銀は多かれ少なかれ足並みを揃えて金融政策運営を進めてゆくことから、スイス・フランはユーロに対して緩やかな上昇にとどまると予想する。
ユーロ/スイス・フランの購買力平価(PPP)は1ユーロ=1スイス・フランのパリティを割り込んでいる。また、スイス中銀の積極的な行動姿勢や利用できる政策ツール(利上げ、為替介入、当座預金残高に適用する階層方式)が、安全通貨とされるスイス・フランに対する投資家の信認を高める可能性がある。だがスイス中銀は、今後数四半期にスイス・フランが大幅に上昇すれば為替介入を行う準備があると同時に、下落局面では外貨準備を売却する用意があると強調した。スイス・フランのボラティリティ(変動率)を抑えることが引き続きスイス中銀の主眼である。
最高投資責任者
UBS Global Wealth Management
Mark Haefele
さらに詳しく
プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。
ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。