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FRB 政策金利0.75%引き上げ
米連邦準備理事会がフェデラルファンド金利の誘導目標を75ベーシスポイント引き上げ1.5~1.75%としたことを受けて、15日は株式、債券相場ともに上昇した。
2022.06.15
何が起きたか?
米連邦準備理事会(FRB)がフェデラルファンド金利の誘導目標を75ベーシスポイント(bp)引き上げ1.5~1.75%としたことを受けて、15日は株式、債券相場ともに上昇した。S&P500種株価指数は前日比1.46%上昇し、週ベースの下落幅は7.9%に縮小した。金利上昇による打撃を受けてきたハイテク株中心のナスダック総合指数は2.5%上昇して引けた。
FRBは、こうした急速な引き締めペースが7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)でも続くことを示唆した一方、同日に発表された経済見通しは景気減速の可能性を示す内容だった。FOMCメンバーによるフェデラルファンド金利の年末中央値は3.4%、国内総生産(GDP)成長率は潜在成長率を下回る1.7%まで減速すると予想している。
債券利回りは低下(価格は上昇)し、米国2年国債利回りと10年国債利回りはそれぞれ22bp、19bp低下したものの、共に先週の水準をまだ40bpと25bp上回っている。20年ぶりの水準に上昇している米ドル指数(貿易加重米ドル指数)は、0.6%下落した。
FOMCに先立ち、欧州中央銀行(ECB)が一部のユーロ圏債券市場の急落について議論するための臨時の会合を開いた。会合後の声明文には、債券市場分断の再発リスクに対してECBが対応すると公約し、パンデミック緊急購入プログラム(PEPP)で購入した債券について「償還を迎えるものは柔軟に再投資をする」と明記された。だが、新しい対策は何ら打ち出されなかった。
今後の展開
グロース株よりもバリュー株を推奨する我々の投資テーマ全体を変更するような理由は見当たらないが、過去1週間に発表された経済指標からは、FRBの金融政策が「ソフティッシュ・ランディング(ある程度緩やかな着陸)」を達成することが難しくなっていることが伺える。
10日に発表された5月の米消費者物価指数(CPI)は、インフレ率の上昇を示す「悪い」内容だった。もちろん「悪い」からといって、来月「良い」内容が出ないわけではない。だがCPIを受けて、米国10年国債利回りは週初に3.5%に向かって上昇しており、こうした債券市場の反応は、インフレファイターとしてのFRBの信認が大きく失墜したことを示唆している。FRBが早々に75bpの利上げで対応したのは、景気後退の危険性が高まっても信頼を取り戻そうとしている態度の現れだ。
インフレの減速を示す明らかな証拠が見えるまでは、FRBはタカ派姿勢を継続するだろう。長引く高インフレ率とFRBの金融政策反応関数のシフト(経済指標に応じた金融政策の変化)は、ターミナルレート(最終的な利上げ到達地点)の期待値を、本稿執筆時点で4%を若干下回る水準まで押し上げている。実際問題としてFRBが4%まで利上げを続ける必要はないかもしれないが、その可能性は景気後退リスクとともに高まっている。
以上を踏まえ、我々は年末の米国10年国債利回りを3.25%と予想するが、その間その水準を上回ることもあるだろう。債券市場のボラティリティ(変動率)はFOMC、新たなインフレ指標や期待インフレ率の発表のたびに上昇する可能性がある。インフレ懸念が山場を越え、景気下支えのために将来の利下げの可能性を市場が織り込み始める2023年になってようやく、債券利回りはより継続的に低下すると予想する。
FRBがインフレ退治に注力する姿勢をさらに鮮明に押し出したことで、経済活動へのリスクが高まっている。金融環境の引き締まり、債券利回り上昇の影響、クレジットスプレッドの拡大、株価の大幅下落などが、経済活動の重しとなる可能性が高い。住宅ローン金利は2009年以来の高い水準に上昇しており、住宅市場を冷え込ませている。また、経済指標は成長モメンタムの失速を示唆している。アトランタ連銀の「GDPナウ」(最新の経済指標に基づき実質GDP成長率予想を算出)では、2022年4-6月期の実質GDP成長率は5月17日時点では年率換算2.5%と予想されていたが、本稿執筆時点では0%に低下した。
こうした状況から、年内の株価の上昇余地は低下したと考える。株式相場はFRBの利上げ発表後に一時急上昇したが、これは利上げの加速によりインフレが抑制され、景気後退とインフレが同時に起きるスタグフレーションのリスクが後退するとの一部の楽観的な見方の反映と、米国株式市場の予想株価変動率を表すVIX指数が30を下回る水準に戻ったことを受けた動きだ。だが、FRBの利上げは経済成長と株価バリュエーションにはマイナスだ。そのため、我々は基本シナリオにおけるS&P500種株価指数の見通しをこれまでの4,300から3,900に引き下げた。債券の期待利回りが上昇したことを受け、2023年の1株当たり利益(EPS)予想を2%引き下げ235米ドルとしたこと、および予想株価収益率(PER)の前提をこれまでの17.9倍から16.6倍へと引き下げたことを反映したものだ。
一方、ユーロ圏では製造業のモメンタムが鈍化している。好調な名目経済成長率とユーロ安が2022年の企業業績を下支えするとしても、直近の新規受注データは企業業績のコンセンサス予想に下振れリスクがあることを示唆している。ロシア産天然ガスの欧州への供給をめぐる不確実性が再び高まっていることや、域内での債券利回り格差が広がる市場の分断化のリスクなども、マクロ経済のリスク要因となっている。また、債券利回りの上昇は株価バリュエーションにマイナスとなる。
ECBの臨時会合及び会合後の声明では、金融引き締めから生じる金融市場へのリスクを放置しないとの姿勢が示されたが、いずれは新たな政策手段の導入が必要になるだろう。また、ユーロ圏周縁国債はスプレッドが拡大する可能性が高いと考える。こうした状況から、我々は基本シナリオにおけるユーロ・ストックス50指数の今年12月時点の予想を3,400に引き下げた。
投資見解
流動性を管理する。値動きの荒い相場環境では、強制売りのリスクを軽減し、長期的な投資機会をとらえることができる。投資家には、今後3~5年間に必要となる支出ニーズに合わせて、質の高い債券を様々な残存期間にわたって均等にポートフォリオに組み入れることを勧める。こうしたラダー型の債券ポートフォリオにより、高利回りを確定しつつ、長引く金利の変動に対する耐性を高めることができる。
ポートフォリオの防衛を強化する。10日の取引開始時点では約26だったVIX指数は15日には約29となっており、S&P500種株価指数の日次変動率は平均2%程度を示唆している。こうした高いボラティリティの影響を緩和するために、高クオリティ銘柄、高配当銘柄、ヘルスケア銘柄などに注目したい。これらはいずれもポートフォリオの変動を抑えるのに寄与し、景気後退時にアウトパフォームする可能性が高い。
バリュー株に投資する。高インフレで金利上昇期待が高まる環境下では、グロース株よりもバリュー株が有利だ。事実、過去を振り返ると、インフレ率が3%を上回る環境下ではバリュー株がグロース株をアウトパフォームしてきた。よって、我々はエネルギー・セクターとバリュー株式の比率が高い英国株式を推奨する。これらは今年に入って市場全体をアウトパフォームしており、その傾向は今後も続くとみている。一方、実質利回りが上昇している期間は、グロース株には不利な傾向がある。よって、我々はグロース株と一般消費財セクターの非推奨を維持する。
オルタナティブ(代替)資産で分散投資を図る。金利上昇懸念により株式と債券の相関性が高まっている昨今、相関性の低いリターンを提供できる潜在性のあるヘッジファンドが注目される。また、ヘッジファンド戦略(特にマクロ戦略)の中には、景気後退シナリオ下で優れたパフォーマンスを上げられるものもある。また、相場の急落は、長期的にプライベート・エクイティをポートフォリオに組み入れる機会をもたらしている。米大手投資管理会社ケンブリッジ・アソシエイツの1995年以降のデータによるとと、MSCIオールカントリー・ワールド指数(MSCI ACWI)のピークから1年後に組成されたグローバル成長バイアウト・ファンドの年間平均リターンは18.6%を記録している。一方、公開株式がピークに達する2年前に投資が開始されたファンドの同リターンは8%にとどまっている。
最高投資責任者
UBS Global Wealth Management
Mark Haefele
さらに詳しく
プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。
ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。