House View Weekly
経済指標は底堅くも、景気後退懸念は続く
米国の経済指標が力強さを示しているにもかかわらず、景気後退と企業利益の鈍化リスクが依然として投資家に注目されている。
2022.05.23
米経済指標は底堅いものの、景気後退懸念が続く
米国の経済指標は力強さを示している。4月の小売売上高は前月比0.9%増加し、3月の数値も大幅に上方修正され、消費者の信頼感が依然として強いことを示唆した。一方、4月の鉱工業生産指数は市場予想を上回り、自動車生産が増加するなど、パンデミックによるサプライチェーンの混乱が回復しつつあることが示唆された。
こうした指標を受けて、アトランタ連銀は米国GDPの予想レポート「GDPナウ」の4–6月期(第2四半期)の予想値を2.4%に上方修正した。これは、第1四半期の国内総生産(GDP、速報値)のマイナス成長が異例であるという我々の見方を裏付ける。
だが、こうした明るい兆しにもかかわらず、景気後退と企業利益の鈍化リスクが依然として投資家に注目されている。
米小売大手が発表した決算が市場予想に届かなかったことが、不安を煽る一因となった。燃料費と輸送費の高騰による利益圧迫に加え、消費支出対象が家具やテレビなどコロナ禍の巣篭り需要から転換していることも響き、同社株価は25%下落した。
今年は米国経済がプラス圏で成長するというのが我々の基本シナリオだが、景気と企業業績に対する逆風は米国のみならず世界中で強まっている。こうした背景から、投資家にはヘッジの積み増しと、高ボラティリティ(株価の変動幅)を切り抜ける戦略に注力することを勧める。
要点:高ボラティリティが持続する可能性があるため、グローバル・ヘルスケアなどのディフェンシブ・セクターを推奨する。また、一部のヘッジ・ファンド戦略はこうした環境でアウトパフォームすることが期待される。
FRBはタカ派路線を継続
米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は先週のインタビューで、FRBはインフレを抑えるために必要とあれば、景気が減速する水準まで躊躇なく利上げを行うと述べ、タカ派姿勢を維持した。また、「物価安定の回復にはいくぶん痛みを伴う可能性がある」とも述べた。4月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比8.3%上昇し、40年ぶりの高水準となった3月の8.5%からわずかな低下にとどまった。
我々は、米国のインフレ率はピークを打っており、消費動向が正常化し、コロナ禍で抑圧されていた昨年と比較することによるベース効果が剥落するにつれて、年後半にかけてインフレ率は鈍化すると予想する。
また、期待インフレ率も上昇していない。市場の期待インフレ率を示す10年のブレークイーブンインフレ率は、先月つけたピークの3.1%から2.6%に低下している。
だが、インフレと中央銀行の政策に対する不安が和らいでいると見るのは時期尚早だろう。最近の急激な賃上げペースは引き続き懸念材料だ。前述の米小売大手が先週発表した決算は、物価上昇圧力が一部企業にとって利益圧迫要因として表面化しつつあることを浮き彫りにした。また、英国の4月のインフレ率が前年同月比で40年ぶりとなる9%をつけるなど、先週発表された各国のインフレ指標もこうした不安を強める内容だった。
今週27日に、FRBがインフレ指標として注目する4月のコア個人消費支出(PCE)が発表される。投資家は物価圧力が弱まっている兆候を探るため、この指標に注目するだろう。
要点:投資家には、高インフレと利上げ局面にそなえたポジション構築を引き続き勧める。こうした環境では、バリュー株がアウトパフォームすると予想する。
中国とウクライナのリスクは引き続き高い
先週は投資家が注視する主なリスクについて相反する動きがみられた。プラス面では、中国で国内景気とグローバル供給網を阻害していた上海の都市封鎖が段階的に解除されることとなった。また、中国人民銀行(中央銀行)が住宅ローン金利の基準となる最優遇貸出金利を引き下げ、不動産部門の落ち込みへの懸念を和らげるために動いた。
しかし、マイナス面では、北京で新型コロナウイルス感染率が上昇し、首都で都市封鎖が実施されるとの懸念が高まった。一方、フィンランドとスウェーデンが北大西洋条約機構(NATO)への加盟を正式に申請したことから、ロシアと西側諸国の対立が引き続き注目された。これに対して、ロシアはフィンランドへの天然ガス供給を停止した。
今後数週間はこれらのリスク要因により市場ボラティリティ(変動率)の高止まりが続くと見込まれる。より広い観点からは、ウクライナ紛争によりグローバル化の変容、脱炭素化、軍事・防衛費拡大のトレンドが強まると考える。
グローバル化の変容については、世界的に不信が高まる中、企業および政府は供給網の確保に一層注力するであろう。多くの場合、生産拠点が高賃金国に移されると予想され、ロボティクスとオートメーションへの支出が拡大するとみている。
エネルギー市場での供給が不足し、各国が化石燃料への依存度引き下げを目指していることから、ロシアの軍事侵攻前からみられた脱炭素化は一層重要性が増すことになるであろう。これによりグリーン・テクノロジーと炭素削減への投資が加速すると予想する。
冷戦終結がもたらした「平和の配当」が徐々に消える中、ウクライナ紛争により軍事・防衛費は重要なテーマとなるであろう。これは、「安全保障の時代」への幅広い移行の一部であり、サイバーセキュリティや農業生産性向上への投資も加速させると考える。
要点:投資家には「安全保障の時代」に向けたポジションを組み入れることを勧める。詳細は「ウクライナ紛争による長期的な影響」を参照いただきたい。