Monthly Letter 5月号

インフレに備えたポートフォリオの構築

我々は景気後退に備える時期は到来していないと考え、インフレ率が高く、中央銀行の過剰反応への懸念が市場をけん引している間に、いかに投資機会を捉えられるかに注目している。

古代キリスト教神学者、聖アウグスティヌスの名言の翻訳としてよく知られているのが、“Lord, make me pure, but not yet.”(仮訳:神よ、私に貞潔さと堅固さをお与えください。ですが、いますぐにではなく)だ。

いつか景気後退が訪れるのは100%間違いないが、それはまだ先になると考える。我々の基本シナリオでは、景気後退に備えてポートフォリオを構築する時期は到来していない。むしろ我々は、インフレ率が高く、中央銀行の過剰反応への懸念が市場をけん引している間に、投資家がいかに投資機会を捉えられるかに注目している。

先月のレターで指摘した地政学上、経済上の不確実性は収まる気配を見せていない。ロシア・ウクライナ紛争は、すでに多くの人々が犠牲になっており、状況がさらに悪化する兆候を見せている。また、中国はなお新型コロナの対応に追われている。こうした懸念以外の問題に目を向けると、高インフレ率とFRB発の景気後退が注目を集めている。

米連邦準備理事会(FRB)は、もはや高インフレ率が一過性のものとは考えておらず、目標水準(2%)に近づける努力に本腰を入れている。米国の決算発表シーズンを迎え、高インフレ率にもかかわらず企業の利益率は健全に保たれていることがわかってきた。個人消費は堅調で、新規雇用も創出されており、米国は2023年末まで理論上毎月20万人以上の雇用を増やすことが可能と考えられる。よって、直近の国内総生産(GDP)はマイナス成長だったものの、潜在成長率を上回る成長の好循環が、6カ月をはるかに超えて継続すると思われる。すると、次の質問に戻ってくることになる。「FRBは自らの公約を実現できるのか」、つまり、景気後退に陥ることなく、インフレを抑制し経済成長率を潜在成長率に近づける経済のソフトランディング(軟着陸)に米国を導くことができるのだろうか。

景気後退に備えてポートフォリオを構築するとは、つまり、FRBが最終的にすべてのカードを支配し、ほぼすべてのルールを設定するゲームでも、FRBは勝つことができないと(投資家が)判断するということだ。言い換えれば、FRBはそれを望んでいないにもかかわらず、米国経済を景気後退に導く積極的な手を打ってしまう可能性が依然としてある、ということだ。我々、FRB、そして市場は、景気後退を回避する余地が時間とともに狭まってきたことを認識している。だが、多くの投資家には、現時点でも将来の可能性にすぎない景気後退よりも、現在の明確なインフレ率の動向に注目したポートフォリオの構築を勧める。

1年前の本レター「ストーリーの変化」で紹介したように、我々はすでに昨年の今頃に、グロース株をそれまで支えてきた「低水準の長期化」のストーリーを離れ、バリュー株とコモディティなど、高インフレの環境下で高パフォーマンスを上げられそうな銘柄にシフトしていた。しかも最近になって、ウクライナ侵攻とサプライチェーンの混乱でインフレ率がさらに注目を集め、景気後退リスクが高まったため、高インフレ環境に備えつつ高成長シナリオの後退を反映させるポジションを取った。我々は米ドルとコモディティを一段と重視し、株式の配分には選別的になり、クレジット市場に投資機会を見いだした。

今後6カ月以降を見据えると、インフレ率は現在の水準から低下しそうだが、パンデミック前の水準を下回ることはないだろう。インフレ率が下がれば、FRBには政策措置の余地ができ、市場の利上げ期待は後退する可能性がある。2022年の経済成長率は昨年より低下するが、景気後退には陥らないと予想する。成長率とインフレ率が緩やかな環境では、株式市場は現在よりも高水準で年を越すと予想している。

期待リターンが低下し、債券と株式の相関が高い環境下では、投資家にはポートフォリオを十分に分散させ、ヘッジファンドやプライベート市場などのオルタナティブ資産(代替資産)にも投資することを勧める。より積極的なポートフォリオ運用も重要で、高インフレ率、金利上昇、高ボラティリティの環境下で良好なパフォーマンスを上げられる資産クラスやセクターも勧める。特に次の3分野に注目したい。

第1に、コモディティはインフレ高進と地政学リスクを回避する魅力的で有効なヘッジ手段だ。

第2に、我々はバリュー株、エネルギー株、およびヘルスケアなどのディフェンシブ性の高いセクターの保有比率を増やす。

第3に、債券では、利回りの上昇を受けて、投資妙味のある資産クラスがでてきた。先月、我々は投資適格債の非推奨をとりやめたが、今月は高格付債(国債および政府機関債ならびにAA-格付以上の債券)の非推奨をとりやめる。利回りの急騰中に良好なパフォーマンスを上げた米国シニアローンも、推奨をとりやめる。


本稿はUBS AGが作成した“Monthly Letter: Positioning for inflation”(2022年4月28日付)を翻訳・編集した日本語版として2022年5月5日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
Mark Haefele

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management

Mark Haefele

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プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。

ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。

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