ドル円
口先介入では止まらない円安
日銀が金融政策決定会合でハト派姿勢を明確にしたことで、財務省の円安けん制発言にもかかわらず、市場では円安が一段と進んだ。
2022.04.29
- 日銀が金融政策決定会合でハト派姿勢を明確にしたことで、財務省の円安けん制発言にもかかわらず、市場では円安が一段と進んだ。
- 行動は言葉よりも雄弁だ。日銀が金融引き締めに踏み切らない限り、財務相の口先介入では円安は止まらない。
- ドル円は節目の130円を突破した後、次の抵抗線である135円を試す可能性もある。短期的な地合いはドル高基調である。
日銀と財務省とで相反するメッセージ
日銀は28日の金融政策決定会合で、10年国債を0.25%の利回りで無制限に買い取り長期金利の上値を抑える「指し値オペ」を毎営業日実施する方針を決定し、超緩和的な政策スタンスを堅持した。黒田総裁は、為替相場の急激な変動は先行きの不確実性を高めるため望ましくないと述べるにとどまり、円安の是正には動かなかった。
日銀が円安容認の姿勢を示したことで、ドル円は130–131円の水準まで押し上げられた。これを受けて財務省幹部は、足元の円の動きは「極めて憂慮すべき」とし、「必要があれば適切な対応をとる」と述べた。
日銀と財務省のメッセージは明らかに相反する。市場は、日本が実現不可能な「トリレンマ」(2つは達成できても3つは達成できない)に挑んでいることにすぐに気づいた。すなわち、自由な資本の移動と、為替レートと金利の管理を同時に実現しようとしているのだ。したがって、日銀が国債利回りを引き上げるための具体的な手段を講じない限り、単なる口先介入だけでは円安を落ち着かせる効果はないと考える。
円安傾向が止まる要因
国内の政治的圧力:7月の参議院選挙が近づくにつれて、輸入物価の上昇(円安でさらに悪化)による家計の購買力低下が争点の1つとなり、日銀にハト派姿勢を後退させる政治的圧力が強まる可能性がある。
国外の政治的圧力:主要通貨(例:ユーロ、円、直近では人民元)の下落により、ドル指数が20年ぶりに高値を更新する中、ドル高に対して米高官が警戒を示すかどうかも注目要因である。この点については、米財務省が半期に一度、連邦議会に提出する為替報告書(4月の報告書が数週間以内に公表予定)から最初の分析・評価が把握できるだろう。
広範なリスクオフ地合い:ユーロ圏の動向(ウクライナ侵攻が長引くリスク)や中国の状況(ゼロコロナ政策による移動制限の長期化リスク)を受けて、世界の国内総生産(GDP)成長率見通しに対する不確実性が高まっている。市場センチメントの悪化から、円売りポジションの買戻しが起こる可能性がある。
黒田総裁の後任人事:黒田総裁の任期は2023年4月までである。財務省と岸田首相はいずれもリフレ政策を追求する姿勢を示しておらず、このスタンスを考えると、新総裁は黒田氏よりもハト派色が弱まると予想される。