House View Weekly

米国インフレ率はピークを打ったか

3月の米消費者物価指数は40年ぶりの高い伸びとなったが、同時に、一部にはインフレが鈍化し始めている兆候も見られる。

深読み

3月の米消費者物価指数(CPI)は前年同月比で8.5%上昇した。コンセンサス予想を上回り、1981年以降で最大の伸びとなった。前月からの伸び率は1.2%と2005年以降で最大だった。

また、物価上昇圧力の裾野が広がっている兆候も確認された。価格が極端に変動した品目を除いて算出されるクリーブランド連銀の刈り込み平均CPIは、約40年前に同指数の算出が始まって以来初めて6%を超えた。アトランタ連銀が算出する「粘着価格CPI(価格が変動しにくい品目の物価指数)」は30年ぶりの高水準をつけた。

CPI発表の翌日、セントルイス連銀のブラード総裁は、経済成長を抑制する水準まで利上げをせずにインフレ率を適正水準まで押し下げることができると考えるのは「幻想」だとのタカ派発言を行った。また、米連邦準備理事会(FRB)のウォラー理事は、利上げは「力ずくの手段」であり、インフレ抑制のために利上げする場合は、多少の「付随的な損害」が発生することがあると指摘した。

4月19日現在、米国10年国債利回りは2.90%に上昇しており、市場は98%の確率で5月の米連邦公開市場委員会(FOMC)での50ベーシスポイント(bp)の利上げを織り込んでいる。

だがCPIを詳しく見てみると、インフレが鈍化し始めている兆候も見て取れる。

一部品目で価格の上昇が鈍化、あるいは低下に転じており、パンデミックに起因する価格の混乱が解消し始めている兆候も見られる。食品とエネルギーを除く3月の米国コアCPIは前月比で0.3%上昇と、昨年9月以降で最も低い伸びとなった。コロナ禍の需要急増で押し上げられていた財価格も0.6%低下し、2021年2月以来初めて下落に転じた。パンデミック発生から急騰していた中古車価格は前月比では3.8%低下し、テレビやスマートフォンといった一部家電製品の価格も下落した。

ここ数カ月で消費支出が耐久財からシフトしており、サプライチェーンの混乱も一部解消している。その結果、コアCPIを構成する財価格の上昇圧力が和らいでいる。一方サービス・セクターのインフレ率については、燃料費の高騰を受けて航空運賃が対前月比で10.7%上昇するなど予断を許さない。

ベース効果により物価上昇ペースは弱まる見込み。最近の原油価格の上昇は一服するとみており、年末のブレント原油価格を1バレル115米ドル(現在は1バレル112米ドル)と予想する。エネルギー価格が再び急騰することがなければ、今後数カ月で、前年比インフレ率は低下に向かうだろう。さらに全体としてみれば、直近のインフレ指標は、正常な経済とパンデミックで抑圧を受けていた状態を比較したものである。4月のCPIは正常な経済と、経済活動が再開して物価がすでに上昇し始めた状態を比較した数値になる。さらに夏ごろには、正常な経済と、正常に近づいた2021年の経済との比較になるだろう。よってインフレ指標に対する懸念は薄れていくと見込む。

いまのところ急速な賃金上昇は生産性の向上に付随するものであり、賃上げによるインフレ押し上げ効果は顕在化していない。アトランタ連銀の3月の賃金トラッカーは3カ月移動平均で6%となり、算出開始から最大の伸びとなった。ただし、賃金上昇は、生産性の向上を伴わない場合にのみインフレ圧力となるのであり、むしろ現在は生産性が向上している。2021年10–12月期(第4四半期)の米国の単位当たり労働コストの上昇率は年率換算で0.9%と、過去20年と同水準である。

投資家にとって主なリスクは、最近の物価上昇が長引く可能性である。もしそうなれば、米連邦準備理事会(FRB)は利上げスピードのさらなる加速を迫られ、消費者の購買力を抑制する恐れがある。だが、こうしたリスクはあるものの、一方で、年末までにインフレ率が鈍化する明るい兆しもみられる。我々の基本シナリオでは、こうした兆候を受けて各国中銀が金融引き締めペースを落とし、タカ派トーンを弱めると見込んでいる。これによって、経済のハードランディングの脅威も後退するだろう。

また、多くの住宅購入者がここ数年で低金利の住宅ローンへの借り換えを進めており、返済コストが低下している。物価上昇で消費者の購買力は低下してきているが、最近のインフレ指標はそうした返済コストの低下を織り込んでおらず、過度に上振れしていると考える。インフレの鈍化ペースは不確実だが、景気後退を回避できるとの基本シナリオに変わりはない。以上を踏まえ、株式全体には中立の見方をとりつつ、5G(第5世代移動通信システム)やスマート・モビリティ、オートメーションなど長期投資テーマ等には引き続き妙味があるとみている。

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本稿は、UBS AGが作成したUBS House View-Weekly Global (2022年4月19日付)を一部翻訳・編集した日本語版として2022年4月20日付でリリースしたものです。本稿の末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本稿に記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本稿中の全ての図表にも適用されます。

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