日本株式

金融セクターの魅力が高まる

銀行、保険、消費者金融を含む日本の金融株およびソフトウェア企業は割安であると考える。その上、日本は20年超ぶりに金利上昇局面に近づきつつある。

  • 銀行、保険、消費者金融を含む日本の金融株およびソフトウェア企業は割安であると考える。その上、日本は20年超ぶりに金利上昇局面に近づきつつある。
  • 今後数カ月以内に日銀が金融政策スタンスを変更することはないだろう。だが、米連邦準備理事会(FRB)は金融引き締めに転換、欧州中央銀行(ECB)は量的緩和を縮小しており、世界中で債券利回りが上昇している。日銀の金融政策正常化に対する投資家の期待感が、低水準にある日本の金融株のバリュエーション(株価評価)の再評価を後押しするだろう。
  • さらに、円安が進行しており、2015年以来初めて対ドルで一時125円をつけている。インフレ率が2%近辺に上昇すると、来年にむけ日銀が0.25%を超える10年国債利回りを容認することにより、金融政策の正常化を開始する可能性がある。

我々の見解

日本はこれまで20年以上にわたりデフレ圧力に悩まされており、日銀はその間、ゼロ金利政策を続けてきた。だが、FRBは金融引き締めに転換、ECBは量的緩和を縮小しており、インフレが高進する中で、米国では債券利回りが上昇している。さらに、円安が進行しており、2015年以来初めて対ドルで一時125円をつけている。問題は、数十年ぶりに起こるこうした変化が、日本経済や金融株にどのような影響をもたらすか、ということだ。

日本は20年超ぶりに金利上昇局面に近づいており、以下3つの理由から、日本の金融株が魅力的であると考える。 第1に、日本は長年デフレ圧力に悩まされてきた(ただし消費増税が行われた2008年、2014年、2019年を除く)。2000年以降、日本の消費者物価指数(CPI)は平均して約-0.04%であった一方、この間の米国のコアインフレ率は+2.1%だった。だが現在、コモディティ価格の上昇が進行する中で、日本企業はその上昇分を徐々に製品価格に転嫁している。日本政府は賃金上昇を後押ししている。こうしたコモディティ価格と賃金の上昇により、2022年4月以降、CPIは約2%に上昇すると考えている。インフレ率が2%近辺になれば、日銀は10年債利回りを現行の上限である0.25%を上回る水準に許容することで、金融政策の正常化を開始する可能性がある。

第2に、日本の金融企業はここ十数年で海外事業を拡大してきていることから、米国およびその他海外市場における金利上昇の恩恵を受けるとみられる。しかし、そうした業績へのプラスの影響は株価に十分に織り込まれていないと我々は考える。また、長年に及ぶデフレ圧力は日本の銀行やその他金融企業の国内貸出利鞘を圧迫してきたが、緩やかな物価上昇基調に加え、各国中央銀行による政策金利の引き上げにより、国内市場でも金融企業の利益が回復するとみられる。

第3に、金融銘柄の株価はいまだ割安で、こうした事業環境の転換を織り込んでいない。例えば、我々の推奨銘柄の平均バリュエーションは、株価収益率(PER)が9.5倍、株価純資産倍率(PBR)は0.7倍、配当利回りは4.3%である。日経平均株価のPER15倍、PBR1.4倍に対して割安であり、配当利回りも日経平均株価の2.2%より高い。今後は増配や自社株買い、東南アジアを中心とした海外事業の拡大といった好材料が出てくる可能性がある。

日銀の政策判断

この投資テーマの鍵を握るのは、日銀の金融政策である。具体的には、日銀がマイナス金利政策と長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)を解除するかどうかである。

今後数カ月ないし数四半期は、経済回復を下支えるため、日銀は国債利回りを抑えようとするだろう。よって、我々は当面の間、日銀の政策変更は予想していない。政府もまた、7月の参議院選挙を控え、新型コロナのオミクロン株の感染拡大やサプライチェーンの混乱、エネルギー価格の高騰により打撃を受けている経済の回復に取り組んでいる。したがって日本の10年国債利回りは当面、足元の0.2~0.25%の水準で推移するだろう。

だが、コモディティ価格の高騰や賃金上昇により、日本のインフレ率が年末に向けて2%近辺で推移すれば、現在の10年国債利回りの上限である0.25%を維持することは難しいだろう。米国の10年国債利回りは2%を優に上回っており、日銀は「プラスマイナス0.25%程度」としている足元の10年債金利の許容変動幅を拡大するか、ゼロ%としている今の利回り目標を引き上げることで、イールドカーブ・コントロールの調整を検討するとみられる。国内需要が回復の途にあることや、コモディティ価格の上昇による影響が遅れて顕在化する中で、日本のCPIは年後半も引き続き2%近辺で推移するだろう。よって、国債利回りに一段と上昇圧力がかかれば、日銀はイールドカーブ・コントロールを修正する公算が大きい。

金融政策の正常化が始まれば、日本経済と金融市場に重大な示唆をもたらすだろう。今後12カ月のカタリストとしては、7月の参議院選挙、2023年4月の黒田日銀総裁の任期終了後の金融政策の正常化期待など、さまざまな要因が日本の金融企業に影響を及ぼし得る。今後1年は金融政策の正常化に対する市場の期待が高まり、この間金融企業、特に大手銀行は、日銀の政策変更の可能性から追い風を受けるだろう。

以上をまとめると、国債金利の上昇が日本の金融株に与える影響はややプラス程度だが、日銀の政策変更は金融株に対する投資家の期待値を大きく押し上げるだろう。2008年の世界金融危機以降、日本株式は、配当利回りは高いが成長見込みの乏しいバリュー(割安)株と見なされ、デフレ下の事業環境で著しくアンダーパフォームしてきた。だが我々の分析によると、2008年以前は、金融株、特に銀行株は、日本市場の平均PERを上回っており、欧米の銀行とほぼ同じだった。

現在、日本の金融株のPERは日経平均株価のPERを大きく下回っており、地政学リスクの悪影響を受けている欧州銀行と同水準である。我々は、2022年度と2023度年は日本企業の利益成長率が2021年度の+48%から+5~10%に減速すると予想しており、この予想を踏まえると、金融株に対する再評価は来年の日本株式市場において重要な役割を果たすだろう。また、日本の金融銘柄の高い配当利回りと低いPERは、日本株式の投資家にとって魅力的だと考える。

リスクは対ロシア・エクスポージャーに伴う償却と損失が挙げられるが、メガバンクのロシアとウクライナに対するエクスポージャーは極めて限定的だろう。大半の日本の金融企業では、事業ポートフォリオに占める対ロシア・エクスポージャーは1%を大きく下回ると考える。

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本稿は、UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社が作成した“Japanese equities: Japan’s financial winners”(2022年3月30日付)を翻訳・編集した日本語版として2022年4月1日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
居林 通

UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社
チーフ・インベストメント・オフィスジャパン・エクイティリサーチ・ヘッド

居林 通

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2006年9月にUBS証券株式会社にアナリストとして入社。以来、日本の株式、経済動向を分析し、国内・海外に発信している(UBS SuMi TRUSTウェルス・マネジメント株式会社の営業開始に伴い2021年8月に同社に移籍)。以前は1992年から2003年まで国内大手投資信託にてアジア株および日本株のファンドマネージャーを経験、その後2003年から2006年までヘッジファンドにて日本株の運用などに携わった。
日経CNBCなどにコメンテーターとして出演する傍ら、日経ビジネス、日経新聞、ロイターなどの各種メディアでも解説記事、インタビューなどを通してUBSの投資見解を提供している。現在の連載は週刊ダイヤモンド「株式市場 透視眼鏡」、日経ビジネスオンライン「市場は晴れ時々台風」。2001年エモリー大学ゴイズエタビジネススクール(米国アトランタ)にてMBA取得。

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