マンスリーレター4月号

TINAの終焉は訪れるのか?

株式市場が最近上昇しているのは、債券利回りとインフレ率の上昇を受けて、多くの市場参加者が、「株式に代わる投資先がない(there is no alternative:TINA)」と考えていることが一因と思われる。だが、FRBによれば、ロシア産原油への制裁がさらに強化されれば、景気後退が「不可避」となりかねない。

我々は、地政学的にも経済的にも大きな不確実性に直面している。ウクライナでの戦闘は激化し、人道危機が拡大している。制裁措置が発動され、コモディティの供給は混乱し、一部の市場は極端に変動している。停戦協議はまだ合意に達していない。

米連邦準備理事会(FRB)は、コモディティ価格上昇によるインフレへの影響の対応措置も兼ね、2018年以来の利上げに踏み切った。中国は、パンデミックの勃発以来最大の感染拡大に直面し、経済政策の大きな転換の可能性を示唆している。

こうした不透明性が高く混沌とした状況に市場はどう対応してきたのか。株式市場が最近上昇しているのは、債券利回りとインフレ率の上昇を受けて、多くの市場参加者が、「株式に代わる投資先がない(there is no alternative:TINA)」と考えていることが一因と思われる。だが、FRBによれば、ロシア産原油への制裁がさらに強化されれば、景気後退が「不可避」となりかねない。

短期的には、制裁と原油価格がいつピークになるか、あるいはそもそもピークに達しているのかどうかが、市場の先行きを占う上で重要だと考える。この答えも不透明だ。欧州代表団の中には、停戦の見通しに楽観的な見方を示す者もいるようだが、米国側は慎重だ。最近のドイツの調査では、回答者の55%が、たとえ供給問題に発展しても、ロシアからの原油と天然ガスの輸入停止に賛成している。

現在のような不確実性の高さを踏まえると、我々は市場全体の大きな方向性を判断するのではなく、将来を見通しやすい分野でポジションをとることを勧める。

第1に、今後数週間で停戦が合意されるかどうかにかかわらず、制裁は継続される可能性が高いとみている。したがって、コモディティとエネルギー関連株式はポートフォリオのヘッジ手段として引き続き有効で、我々の基本シナリオで下支え効果を発揮するだけでなく、悲観シナリオでも十分に成果を出す可能性が高い。

第2に、エネルギー価格の上昇がインフレ率を押し上げ、金利上昇の一因となる可能性が高い。FRBは政策金利をすでに引き上げ、さらに早期に追加利上げを実施する意欲を示した。金利上昇局面では、グローバル・バリュー株と金融株、米国シニアローンを推奨するが、投資適格債市場の一部にも価値が見出せるため、今月から見通しを中立に引き上げる。

第3に、ロシアのウクライナ侵攻は、エネルギー、食料、データ、国防、気候の分野にまたがる世界中のセキュリティ(安全保障)分野に新時代をもたらすだろう。国際的な不信感が高まるとともに、政府や企業は価格と効率性よりも安全性と安定性を重視するようになるだろう。

本レターのこれ以降のセクションでは、それぞれのシナリオについて、そこに至る道筋や原因、ロシアのウクライナ侵攻が長期的に見て投資家にどのような結果をもたらす可能性があるのかについて詳しくみていく。

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本稿はUBS AGが作成した“Monthly Letter: TINA or bust?”(2022年3月24日付)を翻訳・編集した日本語版として2022年3月31日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
Mark Haefele

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management

Mark Haefele

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プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。

ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。

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