House View Weekly
米引き締め加速と株価上昇は矛盾せず
米連邦準備理事会(FRB)は2018年以来となる利上げの開始を決定し、今後引き締めペースを加速させる可能性を示唆した。
2022.03.21
今週の要点
株式市場は停戦期待で反発も、見方は慎重に
ロシアとウクライナの停戦合意に対する期待が高まる中、先週の世界の株式市場は反発した。S&P500種株価指数は6.2%上昇、ストックス欧州600指数は5.4%上昇し、ロシアのウクライナ侵攻開始以降の下落分を一部取り戻した。
市場の反発要因となったのは、ウクライナのゼレンスキー大統領が停戦交渉について「現実味を帯びてきた」と述べ、ロシアのラブロフ外相が「妥協点に向けていくぶん期待が持てる」と述べたことだ。
だが、停戦合意の行方はまだ不透明だ。ウクライナの安全保障のために西側諸国がどのような形で保証を提供し、ロシアの占領地域をどうするかが合意に向けた障害になるだろう。不確実性は極めて高いことから、相場上昇の一方向に掛けるのではなく、株式市場の中でも領域によって選別的にオーバーウェイトとアンダーウェイトとに分け、株式全体への資産配分は中立とすることを勧める。
不確実性が高まる環境下では、ベンチマークの資産配分に沿って投資を継続することを基本とし、ポートフォリオを分散し、下落へのプロテクションを講じ、長期リターンに注力することを勧める。
要点:このところの株式市場の反発は、投資家の地政学的リスクに対する認識が変われば相場の潮目があっという間に変わり得ることを示すものだ。これはまた、単純にリスク資産を売ることはウクライナ危機への対応として最善策ではないとする我々の見解を裏付けるものでもある。投資資産を売却するよりも、ヘッジを強化し、長期的視点に立って運用を行うことを勧める。
FRBの引き締め加速と株式市場の上昇とは矛盾せず
米連邦準備理事会(FRB)は2018年以来となる利上げの開始を決定し、今後引き締めペースを加速させる可能性を示唆した。米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーの年内の利上げ回数の予想中央値は足元7回となっており、残りの全ての会合で利上げが行われると想定されている。政策金利の見通しを示すドット・チャートでは、来年も3回の利上げが予想されており、中立金利(政策金利の長期的な到達地点)を上回ることとなる。
これは想定以上にタカ派的な内容であるが、利上げ決定当日の株式市場は2.2%上昇した。この利上げと株価上昇の動きは、以下の通り矛盾するものではないと考える。
第1に、FRBはインフレ・ファイターとして信認を再び築きつつある。これは長期の経済成長にとってポジティブなこととみている。市場は先手を打つためのFRBの取り組みをまずは好感したようだ。市場の長期インフレ期待を示す5年先5年物フォワード・インフレーション・スワップは、利上げ決定後に2.65%から2.51%まで低下した。
第2に、イールドカーブのフラット化(平坦化)は景気リスクが高まっていることを示唆するものではあるが、市場が当面の景気後退の可能性を示唆しているわけではない。2年債/10年債のイールドカーブは依然として右肩上がりの傾きを示しており、利回り格差は約20ベーシスポイント(bp)と逆イールドにはまだ距離がある。しかも、逆イールド化から景気後退に至るには長いタイムラグがあり、それも9カ月から34カ月と幅広い。
第3に、株式市場のリターンは利上げサイクルの初期段階ではプラスとなる傾向がある。1983年以降、最初の利上げから6カ月間のS&P500種株価指数の平均リターンは5.3%であった。
要点:以上から、投資家には利上げに備えつつ、株式市場への投資を継続することを勧める。既存のリスク資産に対してヘッジ戦略を講じ、選別した株式エクスポージャーを保有することを推奨する。
市場に好ましい政策示唆を受け、中国の見通しはポジティブ
中国株式市場は3月16日に急上昇し、1日の上げ幅としては2008年以降で最大の水準を記録した。国務院がハイテク企業への規制、米国預託証券(ADR)の上場廃止の恐れ、景気減速など、投資家が懸念する主な問題に取り組むことを約束したことが好感された。同日はMSCI中国指数が14.5%上昇し、香港市場に上場する中国本土企業で構成されるハンセン中国企業指数が12.5%上昇した。
我々は、中国の規制による締め付けと景気減速の最悪期はほぼピークを迎えたとの見方をしばらく前から示してきた。直近の様々な政策発表は、転換点が近いという我々の見方を裏付けるものである。中国政府は現在、経済と市場の安定に重点を置こうとしていると我々はみている。
中国政府は金融市場を後押しし、景気拡大を促す政策(2022年の財政支出の8.4%拡大など)を打ち出すことを約束した。中国政府によると、中国企業のADRを巡る米国との協議が進展を見せており、中国ハイテク企業への規制による締め付けは「まもなく」終わると述べた。
銀行の融資拡大を促すため、年内にあと1~2回の預金準備率の引き下げと、5~15bpの政策金利の引き下げもあると我々は見込んでいる。これは、直近開催された全人代で、2022年の経済成長率が比較的野心的な「5.5%程度」(大半の市場関係者は5%と予想)と発表されたことと平仄が合うものである。
要点:アジア戦略の中では、中国の推奨を維持する。MSCI中国指数の今年のリターンは10%台中盤を予想する。
深読み
米引き締め加速と株価上昇は矛盾せず
米連邦準備理事会(FRB)は2018年以来となる利上げの開始を決定し、FRBの高官は5月以降のFOMCで引き締めペースを加速させる可能性を示唆した。FOMCメンバーの利上げ回数の足元の予想中央値は年内が7回、来年が3回となっており、これは中立金利を上回る水準だ。
今回のFOMCは想定以上にタカ派的と受け止められたが、利上げを決定した3月16日のS&P500種株価指数は2.2%上昇した。買い戻しはその後も続き、同指数の先週のリターンは+6.2%となった。株式市場のこうした動きは、以下の観点から、整合性を持って説明できると考える。
FRBはインフレ・ファイターとして信認を再び築きつつあり(その後インフレ期待は低下)、パウエル議長は米国経済が堅調で利上げに十分耐えうるとの認識を表明した。新しいドット・チャート(FOMCメンバーが予想する政策金利の予想分布)では、年内の利上げ想定回数は7回となり、市場が織り込む回数と一致した。パウエル議長は、今後FRBは物価の安定に注力すると表明した。市場は先手を打とうとするFRBの姿勢をひとまず好感したようである。市場の長期インフレ期待を示す5年先5年物フォワードレート・インフレスワップは、利上げ決定後に2.65%から2.51%まで低下した。
FOMCでは、経済は堅調な拡大を続け、マクロ経済指標は「力強さを増し続けている」との景気判断が示された。パウエル議長は労働市場は「非常に逼迫している」と述べた。
イールドカーブのフラット化は、当面の景気後退の可能性を市場が予想していないことを示唆している。米国国債の5年債/10年債のイールドカーブは一時逆イールド化し、景気減速と景気後退のリスクが高まっていることを示唆している。市場は足元で2024年の利下げを織り込み始めている。過去70年において、2年債/10年債の逆イールド化はいずれの景気後退局面の前にも出現した現象である。米国債のイールドカーブは年初の約90bpから約20bpまでフラット化が進んだが、依然として右肩上がりの傾きを維持しており、今後は徐々にスティープ化(急勾配化)すると我々は予想する。
過去の経験則では、景気後退は逆イールド化の後に生じるが、その間には長いタイムラグがあり、その期間もばらつきが大きい。景気後退は逆イールド化から平均すると21カ月後に始まっているが、タイムラグは9カ月から34カ月と幅広い。1965年以降、2年債/10年債の逆イールド発現後12カ月間のS&P500種のリターンは平均して+8%となった。
株式市場は多くの場合、利上げサイクルの初期段階では上昇する。通常、株式市場のリターンは利上げサイクルの初期段階ではプラスとなる。1983年以降、最初の利上げ後6カ月間のS&P500種の平均リターンは5.3%であった。
FRBは依然として景気の軟着陸を目指していると考える。物価上昇率が前年同月比で8%に近いことから、FRBは当然ながら物価の安定に注力している。しかし、我々の想定どおりにインフレが沈静化し、景気鈍化の兆候が見え始めると、FRBの焦点は雇用の最大化という責務に再び向けられる可能性がある。 以上を総合すると、投資家は利上げに備える必要があるが、株式市場への投資は継続することを勧める。既存のリスク資産に対してヘッジ戦略を講じ、銘柄選別をより一層重視することを推奨する。エネルギー株はウクライナ危機に起因するリスクへのヘッジ機能を発揮すると期待される。また、金融株とバリュー株は利上げ局面でアウトパフォームする傾向がある。