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停戦期待とFRB利上げ決定で株価続伸

ロシアとウクライナの停戦合意に対する期待が高まる中、米連邦準備理事会(FRB)が市場予想通り25ベーシスポイント(bp)の利上げに踏み切り、米国株式は2営業日連続で上昇した。

何が起きたか?

ロシアとウクライナの停戦合意に対する期待が高まる中、米連邦準備理事会(FRB)が市場予想通り25ベーシスポイント(bp)の利上げに踏み切り、米国株式は2営業日連続で上昇した。S&P500種株価指数は2.2%上昇し、ナスダック総合株価指数は3.8%上昇した。金融およびハイテク銘柄が中心となり幅広く値上がりした。16日のストックス欧州600指数は3.5%上昇して引けた。

米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ決定を受けて、債券利回りは小幅に上昇(価格は下落)した。米10年国債利回りは5bp上昇して2.19%となり、3月7日の取引時間中につけた1.67%から52bp上昇している。FRBが同時に発表した最新の経済予測は、合計で年内7回の25bpの利上げと、2023年に4回の利上げを示唆しており、FRBが予想する中立金利の2.4%(政策金利の長期的な到達地点)をやや上回ることになる。これは想定以上にタカ派的な内容だ。FOMC後の会見でパウエルFRB議長は、FRBが物価の安定に尽力すると繰り返し強調した。

ドル指数は0.72%下落した一方、原油価格は下げ止まらず、1.8%安い1バレル当たり98.14米ドルで引けた。さらなるエネルギー供給の混乱に対する懸念が和らいでおり、ブレント原油は現在3月7日につけた1バレル当たり139米ドルから29%安い水準にある。

ウクライナのゼレンスキー大統領は停戦交渉が「現実味を帯びてきた」と述べる一方、ロシアのラブロフ外相は「妥協点に向けていくぶん期待が持てる」と述べた。停戦交渉の争点は、さらなる攻撃を阻止する国際的な安全保障と引き換えに、ウクライナがオーストリアやスウェーデンのように中立化し、北大西洋条約機構(NATO)加盟を断念するという妥協案に絞られている。

中国では、国務院が資本市場の支援を公約したと伝わり、16日の中国株式市場は2008年以降で最大の上げ幅を記録した。香港市場に上場する中国本土企業で構成されるハンセン中国企業指数は12.5%上昇し、世界金融危機後で最大の上げ幅となった。香港ハンセン株価指数も9.1%、中国のCSI300指数も4.3%上昇した。

こうした相場上昇は、中国の新華社通信が16日、劉鶴副首相の発言として、中国政府は株式市場の安定を図り、海外に上場を検討する中国企業を支援し、ハイテク企業(大手プラットフォーム企業)の是正を進め、規制当局による取り締まりを近く完了させる方針だと伝えたことを受けたものだ。

この状況をどう解釈するか?

ウクライナとロシアの停戦交渉に進展の兆しが見られたことは、何よりも、拡大しつつある人道的危機の終焉に向けた期待を抱かせる朗報だ。だが、停戦合意の行方はまだ不透明なことにも留意が必要である。ウクライナの安全保障のために西側諸国がどのような形で保証を提供し、ロシアの占領地域をどうするかが合意に向けた障害になるだろう。不確実性は極めて高く、よって株式を中立に据え置く。

パウエルFRB議長の記者会見は予想外という内容はなく、経済に対するFRBの見方を明確にするものだった。第1に、ウクライナ危機により米国の物価が一段と上昇する可能性がある。第2に、労働市場の力強い基調は、経済が金利上昇に耐えられることを意味している。第3に、物価の安定は、持続的で力強い労働市場の前提条件である。これらはすべて、FRBが目先の経済的な痛みを厭わず、物価上昇の抑制に必要ならば利上げペースを速める用意があることを示唆している。バランスシートについては、FOMCメンバー間での議論が進み、次回5月4日のFOMCで何らかの決定を発表する可能性があるとされた。資産縮小の枠組みはこれまでと同様になる模様で、本日のFOMC議事要旨が発表される3週間後には詳細が判明するだろう。

中国市場は昨年、ハイテク企業への規制、米国預託証券(ADR)の上場廃止の恐れ、景気減速などによりセンチメントが冷え込んだ。今回の国務院による市場支援の公約は、中国政府がこうした主な問題点の解決に取り組み、今年は景気支援策を推進する方針との我々の見方を裏付ける。最近開かれた全人代では、2022年の経済成長率が比較的野心的な「5.5%程度」と発表された。また、2022年は財政支出を8.4%拡大するなど、より積極的な景気刺激策の強化を通じた政策支援も公約された。我々は年内にあと1~2回の預金準備率(RRR)の引き下げと、5~10bpの政策金利の引き下げを見込んでいる。

投資見解

2日間にわたる相場上昇でS&P500種株価指数は4.4%上昇し、地政学的リスクに対する投資家の認識が変われば相場の潮目があっという間に変わり得ることを示した。これはまた、単純にリスク資産を売ることはウクライナ危機への対応として最善策ではないとする我々の見解も裏付けられた。不確実性が高まる環境下では、ベンチマークの資産配分に沿って投資を継続することを基本とし、ポートフォリオを分散し、下落へのプロテクションを講じ、長期リターンに注力することを勧める。また、相場変動に対応するために以下のポートフォリオ戦略を勧める。

  • ポートフォリオのヘッジを強化する。 コモディティ全般が効果的なヘッジとして引き続き機能すると考える。需給ひっ迫を背景に原油価格は引き続き高水準が続くと想定され、年末のブレント原油価格は1バレル当たり105米ドルと予想する。現在推奨しているエネルギー株は足元の原油高を十分には織り込んでいないとみられ、またコモディティ価格がさらに高騰した場合にもその恩恵を受ける可能性が高い。このほか、グローバル・ヘルスケア・セクター、ダイナミック・アセットアロケーション戦略などもポートフォリオの価格変動を低減する手段として検討できる。
  • 利上げのリスクに備える。 経済成長への下押しリスクは懸念されるものの、FRB、欧州中央銀行(ECB)ともに利上げによるインフレ抑制を引き続き優先課題とする方針を示唆している。株式市場では、通常利上げは金融銘柄の追い風となり、またバリュー株はグロース株をアウトパフォームする傾向がみられる。また債券市場では、利回りが魅力的で、利上げ局面でプロテクション効果を発揮する変動利付きの米国シニアローンへの投資が検討できる。
  • セキュリティの時代。 ロシアのウクライナ侵攻を機に、西側諸国とロシアの間にはさらなる対立と経済的つながりの希薄化が広がり、各国政府の政策に多岐にわたり多大な影響を及ぼすものと考える。今後はセキュリティが、軍事、サイバーセキュリティ、エネルギー、食糧などの領域において、政府や企業の意思決定に大きな影響を及ぼすようになるだろう。西側諸国はすでに迅速に方向転換を図りつつある。こうした中、サイバーセキュリティや5G+等のイネーブリング技術など、テクノロジー分野に投資・成長の機会があると考える。
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本稿は、UBS AGが作成した“Cease-fire hopes and Fed messaging boost equities”(2022年3月16日付)を翻訳・編集した日本語版として2022年3月17日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
Mark Haefele

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management

Mark Haefele

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プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。

ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。

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