CIO Alert

株式市場が大幅下落、原油価格急騰で

7日の株式市場は大幅に下落した。S&P500種株価指数が2.95%安となったほか、欧州市場、アジアのハンセン指数、日経平均株価なども軒並み下落した。

何が起きたか?

7日(月曜日)の株式市場は、S&P500種株価指数が2.95%安となるなど大幅に下落した。米国より先に引けを迎えた欧州市場は0.9%安、アジアではハンセン指数が3.8%安、日経平均株価は2.9%安で取引を終えた。債券市場と為替市場の動きは株式市場よりは小幅にとどまり、米国10年国債利回りは1ベーシスポイント上昇の1.74%、ユーロ/米ドルは0.2%下落の1.09となった。

株式市場急落の主な要因は、コモディティ価格の一段の上昇だ。原油価格はこの日、ブレント原油の終値が1バレル当たり124米ドルとなり、5.6%高となった。アジア時間7日午前には一時同139米ドル台をつけた。欧州の天然ガス価格は一時1メガワット時当たり345ユーロまで上昇した。その後214ユーロまで下げたが、12カ月前の同16ユーロとは比べ物にならない水準だ。

ブリンケン米国務長官は6日、米国がロシア産原油の輸入禁止措置を検討中であることを明らかにした。一方、欧州の首脳は段階的に進めていくとして慎重な姿勢を示した。ドイツのショルツ首相は7日、「ドイツ政府はロシア産に代わるエネルギー源を確保するために懸命に動いている。しかしそれは一朝一夕には実現できない」と述べた。また英国のジョンソン首相は、英国は「今すぐロシアからのガス輸入を止めることはできない」と述べた。

一方、ロシア大統領府の姿勢が軟化する兆しとしては、ペスコフ大統領報道官がロイターとのインタビューで、ウクライナは「クリミア半島がロシアの領土であることを認め、ドネツクとルガンスクを独立国家として承認すべきだ。それで直ちに軍事侵攻を止められる」と述べた。また、ロシア政府はこれ以上領土権を主張することもなく、キエフの明け渡しを求めることもないとも述べた。

この状況をどう解釈するか?

3月4日付CIO Alert「株式を推奨から中立に引き下げ」では、我々が基本シナリオで、エネルギー制裁によってエネルギーの流れが突如強制的に遮断されるのではなく、世界のエネルギーサプライチェーンからロシアが段階的に排除されると予想していることを強調した。このシナリオでは、ブレント原油価格の見通しを6月時点で1バレル当たり125米ドル、9月時点で同115米ドル、12月時点で同105米ドルと想定している。数カ月にわたるコモディティ価格上昇は、経済成長と企業利益にマイナスの影響を及ぼす可能性が高い。しかし我々は、2022年は全般的に企業利益成長が好調に推移するとの予想を維持する。

しかしながら、週末のブリンケン米国務長官の発言で、欧州諸国が反対を表明したとしても、エネルギー供給が突然停止される可能性が浮上した。我々の悲観シナリオでは、原油価格が1バレル当たり150米ドルを上回り、欧州ではガスが配給制になる可能性があるとみる。このシナリオが現実となれば、2023年にかけて欧州の経済成長と企業業績に大きなマイナスとなるだろう。

投資見解

プーチン大統領の意図、追加制裁の範囲、軍事衝突の行方、北大西洋条約機構(NATO)非加盟国の防衛方針、中国の姿勢、コモディティ価格、世界経済成長、インフレ率、中央銀行の金融政策などの見通しの不透明感が続くなか、投資家が個々の市場の行方に高い確信を持つことが難しくなっていると考え、我々は株式に対するスタンスを中立に維持する。

だが、歴史を振り返ると、地政学的イベントが市場に長期的なダメージをもたらすことは多くはない。歴史の流れを変えたようなイベントでさえもだ。現在の環境に鑑み、我々は以下の戦略を推奨する。

  1. ポートフォリオにヘッジを取り入れる。コモディティ供給の混乱を背景に株式市場のボラティリティが一段と高まるなか、様々なコモディティをポートフォリオに組み入れることで足元の環境に対するヘッジ手段とすることができると考える。また、我々が引き続き推奨するエネルギー株式も、コモディティ価格がさらに上昇した場合にはその恩恵を受けるだろう。そのほか、グローバル・ヘルスケア・セクター、ダイナミック・アセットアロケーション戦略なども、ポートフォリオのボラティリティの抑制に寄与するだろう。短期的には米ドルもヘッジ効果を発揮すると考える。
  2. カーボン・ネットゼロに向けたポジションをとる。ブレント原油価格が2008年以来の高値に急伸するなど、最近のコモディティ価格の急騰は経済成長と企業収益のリスク要因となっている。ただし、コモディティ価格の高騰局面は、エネルギーの安全保障や自給率についての注目が高まる機会ともなる。世界的な脱炭素への取り組みも進んでいることから、グリーンテック、空気浄化、脱炭素関連への投資を勧める。
  3. 金利上昇に備える。コモディティ価格の上昇を受け、インフレがさらに高進し、且つ長期化する可能性が高い。足元の金融市場の高いボラティリティは利上げペースの不確実性を高めるものであるが、その一方で、高インフレは年内の金利上昇の可能性が高いことを意味するものである。通常、金利上昇は金融株の追い風となり、また一般的に金利上昇が進むにつれバリュー株式がグロース株式をアウトパフォームする。債券市場では、米国シニアローンも選択肢として検討できるだろう。シニアローンは利回りが魅力的なうえ、変動金利のため金利上昇の影響を受けにくいこともメリットだ。
  4. 中国に投資機会を探る。アジアの中では中国株式を推奨している。中国株式は足元の環境下で有望な投資対象であると考える。昨年アンダーパフォームしたことでバリュエーションの魅力が高まっており、2022年通年で企業業績が改善する見通しであるほか、金融・財政政策の緩和も追い風となろう。また、インフレ高進やロシア・ウクライナ情勢といった世界の主要リスクの影響を比較的受けにくい点もメリットだ。
  5. 株式に長期バリューを探る。不透明感はかなり高く、株式市場のさらなる下落も考えられる。我々はS&P500種株価指数の見通しを悲観シナリオで3,700としている。しかし、市場が下落したことで足元では多くの銘柄及びセクターが直近高値を大きく下回る株価水準にあり、長期投資の観点からみると魅力的な買い水準となっている。我々は、人工知能(AI)、ビッグデータ、サイバーセキュリティの「ABC技術」分野の企業に長期的に高い成長を予想している。また、第5世代移動通信(5G)分野の一部銘柄も選別的に推奨する。5Gは今後3年間で収益化が進み、様々な産業で利用されることが予想される。5G市場については2022年から2025年にかけて9倍以上の規模に拡大し、5G通信機器の売上げは2025年までに総額1,500憶米ドルに達すると見込んでいる。
  6. オルタナティブ資産への分散投資。ウクライナ情勢やインフレ懸念がポートフォリオのボラティリティを増大させている。こうした環境下では、様々な地域、セクター、アセットクラスに投資を分散させることがさらに重要となる。ヘッジファンドに投資することで、株と債券以外へのポートフォリオの分散が可能であり、ポートフォリオのボラティリティを低減する効果も期待できる。また、ボラティリティの高い局面や弱気市場でアウトパフォームを目指すヘッジファンドもある。
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本稿は、UBS AGが作成した“Equities drop as oil prices spike”(2022年3月7日付)を翻訳・編集した日本語版として2022年3月8日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。
Mark Haefele

最高投資責任者
UBS Global Wealth Management

Mark Haefele

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プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。

ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。

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