長期投資

ヘルステック

世界各国で高齢化に伴い医療費が増大し、国家予算を圧迫している。医療現場では、患者にとって高いアウトカム(治療結果)を低いコストで提供できる新技術の検討が急務となっている。長期投資テーマ「ヘルステック」には、医療の効率化を共通の目的としたさまざまな関連テクノロジーや分野が含まれる。その中核を担うのが高度化したデータ分析とネットワーク技術である。

  • 長期投資テーマ「ヘルステック」には、医療の効率化を共通の目的としたさまざまな関連テクノロジーや分野が含まれる。その中核を担うのが高度化したデータ分析とネットワーク技術である。
  • 世界各国で高齢化に伴い医療費が増大し、国家予算を圧迫している。医療現場では、患者にとって高いアウトカム(治療結果)を低いコストで提供できる新技術の検討が急務となっている。
  • ヘルステック関連の現在の市場規模は1,000億米ドル超と推計される。先端技術を活用したヘルステック分野の潜在的な市場規模は非常に大きいものの、先行きはまだ不透明である。
  • 進展を続けるヘルステック分野へは幅広い分散投資を勧める。長期投資家は、プライベート・エクイティを通じた直接投資で非流動性プレミアムを捉えることを検討してもよいだろう。

我々の見解

ヘルスケア分野は、世界全体で生成されるデータの5%を占めるにもかかわらず、世界的にデジタル化が遅れている分野の1つとされている。ヘルスケア業界でもデジタル技術やデータを活用した取り組みが広がれば、医療費の抑制や医療の質の向上、健康増進につながるとの期待が高まっている。世界各国で高齢化に伴い医療費が国内総生産(GDP)を上回るスピードで増大する中、高度なデータ処理能力やネットワーク接続を活用したヘルステックが注目を集めている。

医療費増大の問題を抱える先進国では、支払者 (政府、民間営利保険会社など、保険料収入をもとに医療コスト支払いのための資金を供給する者)と、医療を提供する側(医療機関、医師等)との利害を一致させる方向に医療システムがシフトしつつあり、その結果、医療の効果・有効性に見合った適切なコスト形成をめざす「バリュー・ベースド(価値に基づく)」支払償還方式が登場した。このモデルではヘルスデータ(医療情報、生活情報などを含む)を収集・分析するシステムが特に重要となる。また、患者の側も自分が支払う医療費に敏感になるだけでなく、自身の健康管理への意識も高まっている。新興国では、遠隔技術により医療の提供範囲が拡大するだろう。

ヘルステック関連の市場規模は現時点で推定1,000億米ドルを超えるとされる。財源が限られている中で特定の集団全体の健康向上を目指す「集団医学(ポピュレーション・ヘルス)」や「遠隔医療」といった比較的新しいビジネス機会は、先行き不透明ながらも大きな潜在市場が見込まれており、これらの導入が進めば、今後10年にわたり、この投資テーマ全体で年率1桁後半またはそれ以上の成長も期待できる。

技術や市場はたえず変化している。よって、現段階で勝ち組を選別するよりも、銘柄を分散して投資することを推奨する。非流動性リスクを許容できる長期投資家は、プライベート・エクイティやインパクト投資を通じてヘルステック企業に直接投資して非流動性プレミアムを追求することを検討してもよいだろう。

ヘルステック:医療をもっと効率的に

ヘルステック企業は、大きく分けて2つの方法で医療の効率性を改善できる。

治療結果の改善: ヘルステックにより、個別化医療の提供やアウトカム(治療結果)の改善が期待できる。ヘルステックが提供する新たなサービスとしては、たとえば入手可能なあらゆるエビデンスを取り込んだAI診断支援システム、隠れた合併症を検出する予測分析、一人ひとりに合わせた副作用の少ない医薬品の選択などが挙げられる。
効率性の改善: ミスや不要な治療の削減、予防治療の重視、質を落とさずにコストの低い医療機関に治療を移管するなど、これらはすべて医療費の削減に寄与する。ヘルスケア分析会社のCotivitiによれば、アメリカでは年間6,000億米ドル以上の医療費が浪費されている。

ヘルステックとは何か?

ヘルステックでは、膨大な医療データをデータベースに保存し、検索・分析する機能が中核的役割を占める。こうした医療データは2030年までに現在の10倍の23ゼタバイトにまで増加すると予想される。また、治療や診断の自動化を支援する技術も重要である。以下に、こうしたヘルステックの応用例を挙げる。

  • 集団医学(ポピュレーション・ヘルス)に関連するソフトウェア: ビッグデータ分析を応用して、大規模な患者グループの健康を、現在のボリューム重視のアプローチよりも低コストで予防的に管理する。
  • 遠隔医療: 治療場所をコストの高い病院から自宅に移すことで、医療費を抑制する。米国での遠隔診療費は約50米ドルと推計される。米国緊急医療ジャーナル(American Journal of Emergency Medicine)は、遠隔診療1回につき医療費を19~121米ドル節減できると試算している。
  • リアルワールド・エビデンス(診療報酬請求データや診療記録など実診療行為に基づくデータから導き出されたエビデンス)を新薬開発プロセスに取り込み、臨床試験の効率性改善、対象患者数の削減、新薬開発の「正味現在価値」(NPV=投資によって将来発生するキャッシュフローの現在価値から初期投資額を引いた差額)の向上に活用する。
  • AIを活用した画像診断を利用することで、医師の負担を軽減し、その分の時間をより複雑な症例に充てる。

ヘルステックの成長要因

次に、ヘルステックの普及を後押しする要因とその実用化の可能性を探っていきたい。

高齢化による医療費増大

多くの先進国では、医療費の増大が続き、このままでは医療制度が立ち行かなると、かねてから懸念されている。この問題に対する危機意識は年々高まっており、先進国だけでなく途上国でもほぼ待ったなしの状況となっている。

急増する医療データを活用できる

ヘルスケア分野におけるデジタル技術の導入ペースは緩やかだが、この業界にはすでに膨大なデータがある。UBSの予想では、医療関連のデータは2020年に世界で生成されるデータ全体の5%を占め、今後10年間で2020年の2.2ゼタバイトから2030年には10倍の23ゼタバイトに増加すると予測される。これは、2017年に世界中のあらゆる産業で生成されたデータ量にほぼ匹敵する。

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本稿はUBS AGならびにUBS Switzerland AGが作成した“Longer Term Investments: HealthTech”(2020年3月26日付) を翻訳・編集した日本語版として2020年5月11日付でリリースしたものです。本レポートの末尾に掲載されている「免責事項と開示事項」は大変重要ですので是非ご覧ください。過去の実績は将来の運用成果等の指標とはなりません。本レポートに記載されている市場価格は、各主要取引所の終値に基づいています。これは本レポート中の全ての図表にも適用されます。

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