CIO Alert
超大型ハイテク株決算 相場下落誘引
2月3日の米国株式市場は、超大型ハイテク株2銘柄の株価急落が、米国株式全体の反落につながった。
2022.02.04
何が起きたか?
3日(木曜日)の米国株式市場は、超大型ハイテク株2銘柄の株価急落が、米国株式全体の下げにつながった。大手ソーシャル・ネットワーキングサービス(SNS)を運営する超大手IT企業は、2日の四半期決算でユーザー数の伸び悩みと広告収入の伸び減速が示されたことから、26%下落して取引を終えた。一方、eコマースの世界的大手企業は、取引終了後に発表される決算を警戒した売りで、終値は7.8%安となった。
S&P500種株価指数は2.4%、ナスダック総合指数は3.7%下落した。セクター別では、コミュニケーションサービス・セクターが最も打撃が大きく6.8%安となった。他のセクターにも下げは波及し、情報技術が-3%、一般消費財・サービスが-3.6%と、それぞれ大きく下落している。生活必需品、公益事業、ヘルスケアなどのディフェンシブ・セクターは、市場全体の指数をアウトパフォームした。
金利市場はタカ派的な方向に振れた。背景には、3日にイングランド銀行(英中央銀行)が政策金利を25ベーシスポイント(bp)引き上げて0.5%にすると発表したことがある。同中銀はインフレ率は7%を超えるとの見通しを示しており、金融政策委員の半数近くはより大きい利上げ幅(50bp)を主張した。米国債利回りも、10年国債利回りが5bp、2年国債利回りが4bp、それぞれ上昇した。
地政学面では、ウクライナを巡る緊張は依然高い状態が続いている。米国防総省は、ポーランド、ドイツ、ルーマニアに増派すると発表。この決定をロシアは非難している。
この状況をどう解釈するか?
2022年初からの株価下落は、主に米連邦準備理事会(FRB)のタカ派的な政策スタンスへの転換が要因と考える。また、金利の上昇で将来利益の現在価値が低下するため、ハイテクなど最も割高な分野が下げを主導してきた。一部超大型株の2021年10-12月期決算が予想を下回ったことも、金利に関する懸念に拍車をかけた。
だが、我々は以下の点が重要と考えている。
- 個別の決算には失望感があるものの、ハイテクセクター全体の利益は引き続き増加している。デジタルメディアとeコマース企業の業績下方修正は、半導体、ソフトウェア、ハードウェア等の伝統的なITセクターの上方修正によって相殺されている。
- 決算内容と業績見通しがアナリスト予想を大きく下回ったのは、ユーザー数の増加とユーザーエンゲージメントによって拡大する消費者ビジネスモデルを持つ企業だった。これにはSNS大手、動画配信大手、決済サービス大手などが含まれ、その多くは競争激化の影響を大きく受けている。対照的に、これらの競合企業(米巨大IT企業、クレジットカード世界大手)は好決算を発表しており、最終需要は依然として堅調であることを示している。
- 世界的に企業の利益率は改善しているため、企業のIT需要は引き続き堅調だ。例えば、ソフトウェア世界大手は、同社が提供するクラウドコンピューティングサービスの2021年12月期の収益が前年比で約45%増加したが、今年1-3月期には成長がさらに加速するとの見通しを示した。
- 上述のeコマース大手の株価の7.8%下落が、3日の市場全体の下げにつながったが、取引終了後の決算発表を受けて、同株価は時間外取引で14%超上昇した。このことから、投資家の懸念が杞憂だったことが示唆される。同社の決算では、営業利益が予想を上回ったこと、有料会員制サービスの会費が値上げされる方針であること、同社が提供するクラウドコンピューティングサービスの成長率が約40%と、企業のIT需要が堅調であることが示された。
全体としては業績見通しは依然堅調で、グローバル・ハイテクセクターでは引き続き15%前後の利益成長が見込まれる。我々の基本シナリオでは、ハイテクセクターのバリュエーションはいずれ安定し、今後12カ月で10%半ばの利益が株価に織り込まれていくと予想する。我々の増益率予想は2022年通年で10%台半ば、2023年通年では10%台前半を見込んでいるが、この見通しは過去数年の約20%という力強い利益成長が徐々に正常化していくことを想定に入れている。
さらに広く見ると、我々の基本シナリオでは、好調な企業業績は、2022年のFRBの金融政策引き締めによるマイナスの影響を凌駕するとみている。また、ロシア・ウクライナ情勢も最終的には安定化し、緊張は緩和すると予想する。
投資見解
こうした背景から、我々は株式にはさらなる上昇余地があるとみている。基本シナリオでは、S&P500種株価指数の12カ月先予想株価収益率(PER)は20倍に回復し、利益成長はさらに継続すると見込んでいる。以上を踏まえ、基本シナリオにおけるS&P500種の2022年末予想値は5,100と想定している。
以下に我々の投資見解を示す。
- ハイテク株の調整局面を利用する。超大型ハイテク銘柄がMSCIオールカントリー・ワールド指数に占める比率は約20%である。これら超大型ハイテク銘柄への資産配分がこのベンチマークを大幅に上回っている場合は、足元の調整局面を利用して、短期的により高い利益成長が見込まれる分野への分散を勧める。具体的には人工知能(AI)、ビッグデータ(Big data)、サイバーセキュリティ(Cybersecurity)の「ABC技術」や5G(第5世代移動通信システム)などが挙げられる。
- 世界景気回復の勝ち組を買う。市場のボラティリティは高いが、経済成長は今年前半は堅調を維持し、景気敏感株を下支えする見通しである。バリュエーションが相対的に割安なユーロ圏株式のほか、エネルギー株、コモディティも推奨する。コモディティは地政学リスクに対するヘッジとしての機能も期待できる。
- 金利上昇に備える。利上げに備えて、金融株、バリュー戦略、シニアローン、ヘッジファンドなどの分野で機会を探ることが可能である。
- 防衛策を講じる。ボラティリティが高い状態が続くと思われるため、景気敏感株にディフェンシブ株を一部組み入れることで、ポートフォリオのバランスを図ることを勧める。現時点では、比較的割安なグローバルヘルスケア・セクターを推奨する。また配当株、ダイナミック・アセットアロケーション(機動的に資産配分比率を変更する運用手法)戦略なども推奨する。ダイナミック・アセットアロケーション戦略は全体的なポートフォリオのリターンの平準化に寄与する。
最高投資責任者
UBS Global Wealth Management
Mark Haefele
さらに詳しく
プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。
ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。