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28日米国市場 ハイテク株上昇、業績好調で
28日の米国株式市場はハイテク株主導で急騰した。市場の注目がこれまでの金利上昇と地政学的緊張への懸念から良好な企業収益へと移ったことがその背景だ。
2022.01.30
何が起きたか?
28日(金曜日)の米国株式市場はハイテク株主導で急騰した。市場の注目がこれまでの金利上昇と地政学的緊張への懸念から良好な企業収益へと移ったことがその背景だ。
先週の株式市場は変動の激しい展開となったが、28日は上昇して終わった。S&P500種株価指数は2.4%上昇、週間では、24日(月曜日)に一時5%近く下げる場面もあったものの、0.8%の上昇となった。ただし1月3日に記録した過去最高値からは7.6%下落している。最も堅調だったのは情報技術セクターだ。28日は、S&P500種株価指数の情報技術セクターが4.3%上昇し、ナスダック総合指数は3.1%高で取引を終えた。ナスダックは前週末比では横ばいとなったが、1月3日比では13%下落している。
28日のS&P500種株価指数は、エネルギーを除く全てのセクターが上昇した。エネルギーセクターは0.6%安で取引を終えたが、週間では5%高、年初来では18.5%高となっている。同じく28日、米国市場に先行する欧州市場のストックス欧州600指数は、ウクライナ情勢を巡る懸念が高まる中で1%安、週間では1.9%安で取引を終えた。同指数は1月5日につけた直近最高値から下落してはいるが、年初来で米国株式をアウトパフォームしている。29日に行われたイタリア大統領選挙では現職のマッタレッラ氏が再選し、政局の安定が確保されたことから、今週のユーロ圏のセンチメントを支える要因となるだろう。
28日の債券市場は比較的穏やかだった。米国2年国債利回りは1.6ベーシスポイント(bp)、10年国債利回りは2.5bp、それぞれ低下した。週間では、2年国債と10年国債の利回り格差は75bpから61bpに縮小し、利回り曲線はフラット化した。2年国債利回りが15bp上昇したのに対して、10年国債利回りはほぼ横ばいだった。
米ドル指数(DXY指数)は先週1.8%上昇し、週間ベースとしては7カ月ぶりの高い伸びとなった。ブレント原油は週間で2.4%上昇し、2014年10月以来の高値である1バレル=90米ドルをわずかに超えて取引を終えた。金(gold)は週間で2.3%下落し、28日の終値は1オンス=1,791米ドルとなった。
28日の上昇相場を主に牽引したのは、米国の超大型IT企業が好調な2021年10-12月決算を発表したことだ。売上高が過去最高を記録したほか、サプライチェーンの目詰まりの緩和見通しを背景に好調な業績見通しを発表したことも好感され、同社株価は7%上昇した。米国の経済指標も、米連邦準備理事会(FRB)による早いペースでの金融引き締めに対する懸念を和らげた。FRBが重要指標として注視する雇用コスト指数は、2021年第4四半期(10‐12月期)に1.0%上昇し、市場予想の1.2%を下回った米個人消費支出は、11月は0.4%増加したが、12月は0.6%減少した。一方、個人消費支出(PCE)コアデフレーターは12月は0.5%上昇し、11月と同じ水準にとどまった。
今週は、米国経済の力強さと新型コロナ・オミクロン変異株の感染拡大の影響に関するさらなるデータが注目されるだろう。1月のISM製造業・非製造業景況指数(2月2日)や非農業部門就業者数(2月4日)の発表が待たれる。
この状況をどう解釈するか?
28日の株価の回復は、我々の基本シナリオに沿った展開だ。我々は、2022年はFRBの金融引き締めのマイナスの影響はあるものの、継続的な企業利益成長がその影響を上回るものとの見方を基本シナリオとしている。
市場は現在、3月を第1回目として年内に4~5回の利上げを織り込んでいる。この利上げペースでは、経済成長が妨げられることはないと我々は考える。米国10年国債利回りは緩やかに上昇し、6月までに2%、年末までに2.1%になると予想する。ロシア・ウクライナ情勢については、最終的には安定し、緊張が緩和するとの見方を基本シナリオとしている。こうした中、我々はS&P500種株価指数の12カ月先予想株価収益率(PER)が20倍を回復し、増益基調が続くと予想する。以上から、我々の基本シナリオでは、S&P500種株価指数の2022年末の予想値を5,100とする。
株式市場の変動が激しい局面では楽観的なシナリオを予想するのは難しいかもしれないが、インフレ率が低下に向かい始めれば、市場はFRBが金融情勢に応じて柔軟で機敏な対応をとるようになると考え直すだろう。過去の経験則から、経済成長が堅調であれば、利上げ局面においても株式市場は堅調に推移する。この楽観シナリオでは、S&P500種株価指数の2022年の終値は5,300と予想している。
ここ数週間は、ハイテク銘柄が下げを主導してきた。国債利回りが上昇する中、一段の下げが生じる可能性は残る。我々の分析では、世界のテクノロジー・セクターは、金利だけを考慮すると(米国の実質金利が現在のマイナス0.68%からゼロに向けて動くと想定)、さらに6~8%下げる可能性がある。この場合、テクノロジー・セクターの予想PERは22倍(足元では23.6倍)となり、これは魅力的な水準だと考える。だが質の高い多くのハイテク銘柄が急落したことで、長期投資家にとってエクスポージャーを積み増す機会はすでに生まれている。短期的な逆風を受けてハイテク銘柄をあきらめるのではなく、銘柄を選別して投資するアプローチを取ることを勧める。超大型株の保有を縮小し、長期的に大きな成長が見込まれる人工知能(AI)、ビッグデータ(Big data)、サイバーセキュリティ(Cybersecurity)の「ABC技術」関連の銘柄を組み入れてバランスを図ることが有効と考える。
投資見解
投資家は引き続き、マクロ経済と企業のファンダメンタルズ(基礎的諸条件)が堅調な中で、金利上昇予想と地政学リスクに対処し続けることになるだろう。こうした状況下、ボラティリティ(市場の変動率)が高い状況が続くと思われ、投資家は先行きがより明確になるまで投資を控えるか、パニック売りに走る恐れすらある。そのような場合、UBS Wealth Wayの考え方に沿った投資計画は、ボラティリティが高い局面でも規律ある投資を続ける指針となる。
以下に我々の投資見解を示す。
- ハイテク株の調整局面を利用する。過去の経験上、金利上昇はハイテク株にはマイナスに働く可能性がある。しかし上記のように、値下がりしたハイテク株の中から押し目買いの機会を見出すことが可能である。我々が推奨する投資テーマには人工知能(AI)、ビッグデータ(Big data)、サイバーセキュリティ(Cybersecurity)の「ABC技術」や5G(第5世代移動通信システム)などがある。
- 世界景気回復の勝ち組を買う。市場のボラティリティは高いが、経済成長は今年前半は堅調を維持し、景気敏感株を下支える見通しである。バリュエーションが相対的に割安なユーロ圏株式や、エネルギー株、コモディティも推奨する。コモディティは地政学リスクに対するヘッジとして機能する可能性もある。
- 金利上昇に備える。利上げに備えて、金融株、バリュー戦略、シニアローン、ヘッジファンドなどの分野で機会を探ることができる。
- 防衛策を講じる。ボラティリティが高い状態が続くと思われるため、景気敏感株にディフェンシブ株を一部組み入れることで、ポートフォリオのバランスを図ることを勧める。現時点では、比較的割安なグローバルヘルスケア・セクターを推奨する。ヘルスケアの中でも医薬品株は20年ぶりの安値に近く、グローバル指数を18%下回っている。また配当株、ダイナミック・アセットアロケーション(機動的に資産配分比率を変更する運用手法)戦略なども推奨する。ダイナミック・アセットアロケーション戦略は全体的なポートフォリオリターンの平準化に寄与する。
- 米ドル高に向けたポジションを取る。我々は、FRBの金融政策引き締めと政府の財政刺激策の縮小が米ドルを下支えすると考える。通貨全般では、米ドル、英ポンド、ノルウェー・クローネ、ニュージーランド・ドルなど金融政策が引き締めに向かっている国の通貨が、スイス・フラン、ユーロ、スウェーデン・クローナなど緩和的な政策を維持している国・地域の通貨に対して上昇すると予想する。米ドル高を背景に、金価格は下落が見込まれる。
- カーボン・ネットゼロ(温暖化ガス排出量実質ゼロ)への移行に向けたポジションを取る。エネルギー転換は、2020年代の重要なマクロ経済トレンドの1つである。グリーンテックに加えて、伝統的なコモディティと資源国にも投資することは、ネットゼロへの移行によって高まるボラティリティを切り抜ける、分散的かつ現実的な方法である。
UBS Wealth Wayは、お客様がUBS Financial Services Inc.、およびクライアント・アドバイザー(お客様担当)とともに、様々な時間軸において、それぞれのニーズと目標を明確にし、実現する上での指針となるLiquidity. Longevity. Legacy.戦略(流動性戦略、老後戦略、資産承継戦略)を組み入れた考え方です。この考え方は、資産構築あるいは何らかの投資利益の達成を約束または保証するものではありません。すべての投資商品は、元本の全額を失うリスクを含む損失リスクを伴います。
最高投資責任者
UBS Global Wealth Management
Mark Haefele
さらに詳しく
プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。
ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。