CIO Alert
株式市場 ボラティリティ拡大、今後の対応は?
24日の米国株式市場は午前の下落後急速に上げに転じ、プラス圏で引けた。
2022.01.24
何が起きたか?
24 日の米国株式市場は日中相場が大きく変動した後、プラス圏で終了した。午前中は主要指数が4~5%下落したが、その後は急速に上げに転じた。だが反発したとはいえ、年初来ではS&P500 種株価指数は7.5%下落、ナスダック総合指数は11.4%の下落となっている。米国市場に先行する欧州市場は大きく値を下げ、ストックス欧州600 指数は3.8%下落して終えた。株式市場のボラティリティ(株価の変動率)は増大し、株式相場の予想変動率を示すVIX 指数は一時39 と、2020 年10 月以来の高い水準まで切り上げた(終値は30)。債券市場では、株式市場の下落に伴い米国債のイールドカーブはフラット化したが、その後、株式市場が反転したことを受けてスティープ化した。取引終了時点で米国2 年国債利回りは4 ベーシスポイント(bp)下落し、10 年国債利回りは1bp 上昇して1.77%となった。為替市場では、安全通貨とされる円とスイス・フランがそれぞれ0.25%、0.28%下落し、米ドルの需要が高まっていることが示唆された。午前の急激な売りを招いたのは単一要因によるものではない。米連邦準備理事会(FRB)の金融政策への警戒感、経済成長の鈍化懸念、地政学リスクといった要因が複合的に影響して株価の下げにつながったものと考えられる。
• 市場では、26 日の米連邦公開市場委員会(FOMC)でFRB がよりタカ派へシフトするリスクが警戒されている。パウエル議長が年内の毎会合ごとに利上げを行う可能性があると発言するとの見方もある。市場は足元で年内4~5 回の利上げを織り込んでいるが、発言次第ではこれが7 回に増える可能性がある。FRB がタカ派姿勢を強めれば、成長鈍化への懸念が増大する。
• 直近で発表された経済指標が予想を下回ったことも、経済成長への懸念を高めている。米IHS マークイットが24 日発表した1 月の総合購買担当者景気指数(PMI、速報値)は、12 月の57.0 から50.8 に低下し、2020 年7 月以来の低水準となった。落ち込みを主導したのはサービス業で、新型コロナのオミクロン株感染拡大が経済活動の重石になる中、サービス業のPMI 指数は12 月の57.6 から50.9 に低下した。しかしながら我々は、他の米国指標と同様、こうした予想を下回った数字の過度な深読みは控えるべきだと考える。オミクロン株により経済活動に歪みが生じているためだ。オミクロン株の感染拡大の波がピークアウトすれば、第1 四半期後半には指標は改善すると予想する。
• ウクライナ情勢をめぐっては、北大西洋条約機構(NATO)が部隊を待機させ、バイデン米大統領がNATO 諸国に米軍部隊を送ることを検討しているとの報道を受け、緊張が一段と高まった。バイデン大統領はまた、軍事衝突の可能性を理由に、在ウクライナ米国大使館職員の家族に国外退避を命じた。
• S&P500 種株価指数が200 日移動平均を割り込むなど、テクニカル的な要素もモメンタム取引の引き金となった。24 日午前中は個人投資家が大きく売り越したとの見方もある。
米国株式は午後に反発に転じたが、これは売られ過ぎで割安となったことから一部投資家からの押し目買いが入ったと思われる。また、ファンダメンタルズ(経済の基礎的諸条件)は中期的には依然堅調との見方を反映した動きでもあると考える。今後2 カ月で経済指標は改善する可能性が高いことに加えて、サプライチェーンに関する指標も、我々の基本シナリオ通り、改善しつつあることを示唆している。インフレ率は高いが、品目によっては前月比で下落しているため、インフレ率は今年後半には落ち着くと見ている。
投資見解
上記の環境を踏まえ、以下に投資見解を示す。
• 景気敏感セクターへの投資を継続する。
短期的には逆風が吹いているが、経済は依然堅調に回復を続けており、景気動向に敏感な企業やバリュー株が引き続きその恩恵を受けるとみている。セクター別では、エネルギーセクターがこれに該当する。足元のブレント原油価格が1バレル85.5米ドルであるのに対して、エネルギー株が織り込んでいる水準は60米ドルにとどまっており、出遅れ感がある。地域別では、ユーロ圏が特に経済成長の恩恵を受けると見込まれ、足元の株価水準も割安である。
• 金利上昇に備えたポジションを構築する。
我々は、FRBによる積極的な金融引き締めにより景気が冷え込むとは予想していないが、早ければ3月にも利上げに踏み切るとみており、年内に計3回の利上げ実施を予想している。これに伴い、米国10年国債利回りは6月には2.0%、年末には2.1%にまで上昇すると見ている。金利上昇はテクノロジー株などのグロース(成長)株にはバリュエーションの重しとなりやすく、一方、金融株などのバリュー株は通常、金利上昇を追い風にアウトパフォームする。米国シニア・ローンは足元の利回りが4.4%と魅力的なうえ、変動金利型であるため利上げによる影響も受けにくい。
• 防衛策を講じる。
投資家は、相場が大きく変動する局面では売りの衝動に駆られやすい。だが、ポートフォリオの安定化を図る機能を持つ資産を加えることで、長期リターンを犠牲にせずに収益の変動を軽減することが可能である。例えばヘルスケアのような景気動向の影響が少ないディフェンシブ・セクターなどがこれに該当する。ヘルスケアは現時点でバリュエーションも魅力的である。このほか、ヘッジファンドやプライベート・エクイティなどのオルタナティブ投資も、値動きの激しい市場においてポートフォリオの防御に重要な役割を果たすと期待される。ヘッジファンドの投資戦略のなかには、株式相場が下落しているときにプラスのパフォーマンスを目指すファンドもある。一方、プライベート・エクイティは長期投資を基本としており、不確実性が高い局面での衝動売りのリスクを防ぐ。また、システマティック戦略も選択肢として検討できる。これは、市場モメンタムや経済のファンダメンタルズが悪化したときに安全資産に切り替える戦略である。
• テクノロジー株の長期ポジションをあきらめない。
テクノロジー株は金利上昇の影響が最も大きく、24日の市場でもアンダーパフォームした。しかし、優良テクノロジー株の急落は、長期ポジションを追加する好機と捉えることができる。特に、人工知能(AI)、ビッグデータ、サイバーセキュリティの「ABC技術」に関連した企業に上昇余地があるとみている。このABC技術および5G(第5世代移動通信システム)は、ハイテクセクター全体を上回る高い成長が見込まれる。ヘルステックとグリーンテック関連銘柄も長期トレンドの恩恵が期待できる。
• コモディティのポジションを地政学リスクのヘッジに使う。
ウクライナ情勢は依然として不透明な状況が続いており、引き続き注視していく必要がある。過去の事例では、地政学イベントが市場に与える影響は総じて一時的であったが、情勢緊迫化の脅威を懸念する投資家は、エネルギー関連株を買い増すことも有効な手段として検討できるだろう。エネルギー関連は情勢悪化による恩恵が見込まれ、バリュエーションも割安である。
最高投資責任者
UBS Global Wealth Management
Mark Haefele
さらに詳しく
プリンストン大学で学士号、ハーバード大学で修士号と博士号を取得。フルブライト奨学生として、オーストラリア国立大学で修士号を取得。ソニック・キャピタルの共同創立者および共同ファンドマネジャー、マトリックス・キャピタル・マネジメントのマネージング・ディレクターを務め、チーフ・インベストメント・オフィスが設立された2011年に、インベストメント・ヘッドとしてUBSに入社。
ハーバード大学にて講師および学部長代理を歴任。市場動向ならびにポートフォリオ管理に関するハフェルの見解は、CNBC、Bloombergをはじめグローバルなメディアで定期的に取り上げられている。